第3話 願いは叶う
僕はこのページで、1人の女性の話をした。
あれから沢山の夜が来て朝が来た。
その間、彼女と会うことはなく
連絡を取ることもなかった。
僕が忙しかったのもあるのだが。
だけど、つい先日
西の空に美しい三日月がいた日。
久しく再会した。
身を焦がして、火傷が増えていないかと気になったが、そうでもなかった。
と、ゆうか
単純に、綺麗になっていた。
つまりこれは、人の傷は人で癒せ。
新しい人か、何かあったのかと思った。
だけど、彼女は首を横に振った。
めでたくも、愛していた者から
告白されたんだと。
付き合っているのだと。
その瞬間、色んな想いが駆け巡った。
彼女が辛いと嘆いた日々を知っている。
今、ここで、されたと言った。
したのではなく、されたと。
つまり、件の彼も、貴方を愛していたんだと、理解した。
元々涙腺の弱い僕が泣くのを、困ったように微笑んだ君はそれ以外でも困っている、という顔をした。
「何故、そんな顔をするんだい?」
よく気付くね、と言う顔で
答えてくれた。
例の彼が、とても、愛してくれるのだと。
嫉妬も、わがままも、受け入れてくれるのだと。
今までそれを、拒否されてきた彼女は
受け入れられたことに戸惑いを隠せないらしい。
彼女のことだ。
いつ嫌われるかわからないからと
自分からネタを振って
予防線を張ったに違いない。
あぁ、どうか。
これが、件の彼に届け、とは言わない。
けれど、どうか彼女を許してほしい。
心が脆い、14歳に
彼女は心を傷つけられた。
治ってもいない傷口を1年間、針に刺され続けた。
だけど、死にたいと負けることもなく
彼女は頑張ったのだ。
単純に、蜂に刺されて死にかけた人間は、他の人より蜂が怖い。
トラウマと呼べる精神の病。
彼女もまた、それを抱えている。
蜂に刺された人間は、蜂の存在に過敏になる。
防衛本能だと、僕は思う。
彼女もまた、それが人間関係で顕著に出ている。
どうか、責めないでほしい。
僕は、偶然の帰り道に
出会った彼女とここまで話して
別れた。
僕は、愛してるをわからない。
これもまた、トラウマのせいだ。
見て感じることはできても
己が愛してると思うものは
ない。
未だに、わからない。
僕は、彼女に救われた。
救ってくれた彼女を救いたい。
願わくば、君が
件の彼と幸せになれますように。
That moon is beautiful 夜明 旭 @yak-ash2789
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