6

今日は朝から、雨が降っていた。


傘をくるくる回しながら、学校へ向かう。横断歩道を待っている時、車に水をぶっかけられたが今日は見逃すとしよう。そんなことより、私は他のこと── 清水君のことで頭がいっぱいだった。とりあえず、今日会ったら昨日のことを謝ろう。「昨日は、何の役にも立てなかった上に、あんな失礼な態度をとってかえってしまいほんとに申し訳あ」


「あ、やっぱり三条さんだ。」


「ぎゃっ!!」


私の謝罪の練習は、清水君によって遮られた。ここで会うなんて、予想外だ。そして、なんて女子力のない私の叫び。我ながら悲しくなる。


「おはよう。」


「おっ、おはよう……」


なんてことない。いつも通りの清水君である。いや、昨日からちょっとおしゃべりになった清水君だ。そんなことを考えている場合ではない。私は謝罪せねばならぬのだ。


「あっ、あのね!清水君!き、昨日はほんとうに申し訳ありませんでしたァ!!」


「えっ。」


「………………………………えっ?」


「三条さん、昨日なにかしたっけ?」


「えっえっ、えっと、だって、何の役にも立てなかったし、突然帰ったりして、失礼だったかと……おもっ……て……。」


段々声が小さくなっていく私と、反比例するように、清水君の目は大きく大きく広げられていった。


「そ、そんなこと気にしてたの?あ、もしかして帰ってって言ったやつ誤解してない?」


「…………ご、誤解?」


「帰っていいよって言ったのは、三条さんが役に立たないとかじゃなくて、暗くなる前に帰そうと思ったからだよ。ごめん、紛らわしかったよね。」


「……え…………。」


じゃあ、私の勝手な思い込み……?


「そっか、そうだったんだ。……よかったぁー!清水君に嫌われたかと思った!」


「それくらいで嫌わないよ。それに ────」



── 一瞬、ほんとに一瞬。

時間が止まったのかと思った。

雨音なんて耳に入ってこなかった。

だって、清水君がすごく綺麗な顔をして、


「 それに、三条さんはひとりじゃないんだから。俺のこともっと頼っていいんだよ。」


なんて、イケメンなことを言ったから。


あぁ、なんて単純な私。




この一瞬で、清水君は私のハートを見事に撃ち抜いたのであった。

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