それでも僕は負けない
ユウ
第1話
僕は前方の一点を見据え、ただその目標だけのために走り出す。
手に持つポールをグッと握り、体勢を崩さぬよう、呼吸を乱さぬよう。
一歩踏み出す度汗が飛び散り、髪が揺れる。一歩一歩踏みしめ、力を加え徐々に加速する。
そして、速度が最高点に達した時、ポールをくぼみにガッと差し込み舞い上がる。
風が僕を包み込み、まるで空を飛ぶかのように僕を持ち上げてくれる。
僕は体を慎重にひねり、ポールを丁寧に押し出すように手放す。
バフッ
その瞬間僕の体はマットに沈み込み、視界が失われる。はやる気持ちを抑えて、立ち上がると、ポールは震えていたものの、その場所を維持していた。
僕は思わずガッツポーズをする。超えたのだ、壁を。今まで何度飛んでも超えれなかった壁を。
「佐藤君、すごい、やったね」
マネージャーが駆け寄り、僕をたたえてくれた。僕はタオルを受け取ると汗を軽く拭い、笑顔を作る。
「ありがとう」
「次の大会楽しみね」
僕の胸は高鳴った。これが飛べたということは、優勝も夢じゃなかったからだ。
だけど、安心はできない。一度は超えれたものの、再び三度と超えれるかどうか、一度だけでは意味がない。
僕はもう一度ポールを構えると、走り出し、加速すると大空に舞い上がる。
飛んでいるときは本当に心地いい。それもあって僕はこの競技をやめられず、好きだった。
ずっとこの瞬間が続けばと、そんな風に思えるのだった。
羽なんてなくたって僕は飛べた、みんなが憧れるこの大空に。
◇
僕は練習の帰り道、草原に寝ころび、疲れを癒しながら、大空を眺めた。
むしろ疲れなんて感じていなかったけど、ただそうしていることが心地よかった。
何もない、無限の大空、僕は明日、あの空をつかみ取る。
僕は、右手を振り上げ、グッと握りしめた。
◇
大会当日、僕は一人ピッチに立っていた。
ハッハッハッハッ
落ち着いて、僕は呼吸を整える。
ポールをグッと握り直し、ここから一歩でも踏み出せばもう後戻りはできない。
僕は自分を奮い立たせた。行ける。僕ならいける。
ハッハッハッハッ
そして僕は飛び出した。ポールを抱え、一歩ずつ加速、歩幅を合わせて溝に向けて一気に走り抜ける。
僕はガッと、ポールを溝に差し込み、僕は宙を舞った。
ガラン…………
――――その音は僕の夏が終わったことを意味していた――――
◇
そして僕はいま、パイロットをしている。あの頃と変わらず僕の憧れた大空で僕は今でも生きています――――
それでも僕は負けない ユウ @yuu_x001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます