それでも僕は負けない

ユウ

第1話


 僕は前方の一点を見据え、ただその目標だけのために走り出す。

 手に持つポールをグッと握り、体勢を崩さぬよう、呼吸を乱さぬよう。


 一歩踏み出す度汗が飛び散り、髪が揺れる。一歩一歩踏みしめ、力を加え徐々に加速する。


 そして、速度が最高点に達した時、ポールをくぼみにガッと差し込み舞い上がる。


 風が僕を包み込み、まるで空を飛ぶかのように僕を持ち上げてくれる。

 僕は体を慎重にひねり、ポールを丁寧に押し出すように手放す。


 バフッ


 その瞬間僕の体はマットに沈み込み、視界が失われる。はやる気持ちを抑えて、立ち上がると、ポールは震えていたものの、その場所を維持していた。


 僕は思わずガッツポーズをする。超えたのだ、壁を。今まで何度飛んでも超えれなかった壁を。


「佐藤君、すごい、やったね」


 マネージャーが駆け寄り、僕をたたえてくれた。僕はタオルを受け取ると汗を軽く拭い、笑顔を作る。


「ありがとう」


「次の大会楽しみね」


 僕の胸は高鳴った。これが飛べたということは、優勝も夢じゃなかったからだ。

 だけど、安心はできない。一度は超えれたものの、再び三度と超えれるかどうか、一度だけでは意味がない。


 僕はもう一度ポールを構えると、走り出し、加速すると大空に舞い上がる。

 飛んでいるときは本当に心地いい。それもあって僕はこの競技をやめられず、好きだった。


 ずっとこの瞬間が続けばと、そんな風に思えるのだった。

 羽なんてなくたって僕は飛べた、みんなが憧れるこの大空に。





 僕は練習の帰り道、草原に寝ころび、疲れを癒しながら、大空を眺めた。

 むしろ疲れなんて感じていなかったけど、ただそうしていることが心地よかった。

 何もない、無限の大空、僕は明日、あの空をつかみ取る。

 僕は、右手を振り上げ、グッと握りしめた。





 大会当日、僕は一人ピッチに立っていた。


 ハッハッハッハッ


 落ち着いて、僕は呼吸を整える。

 ポールをグッと握り直し、ここから一歩でも踏み出せばもう後戻りはできない。

 僕は自分を奮い立たせた。行ける。僕ならいける。


 ハッハッハッハッ


 そして僕は飛び出した。ポールを抱え、一歩ずつ加速、歩幅を合わせて溝に向けて一気に走り抜ける。

 僕はガッと、ポールを溝に差し込み、僕は宙を舞った。


 ガラン…………


 ――――その音は僕の夏が終わったことを意味していた――――





 そして僕はいま、パイロットをしている。あの頃と変わらず僕の憧れた大空で僕は今でも生きています――――

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