第6話

「だーかーらー! 今度、花火見に行かない?」

「わかったわかった。大きな声を出すな。で、いつ?」

「今月最後の土曜日」

「あれ、去年は日曜じゃなかったか?」

「いいんだよ。じゃ、バイトだからまたね!」


 プツンと電話が切られる。

 

 夏休みが始まった7月下旬。

 平和な生活が送れると思ったらすぐこれだ。

 電話の相手は恵美理えみり

 自分勝手なやつめ。


 花火大会は去年も行ったが、また今年も行くとは。

 去年は近くの小さな花火大会だったが今年もそうなのだろうか。


「電話おわった?」


 おっと、しかし今はそんなことを考えてる暇はないのだった。


「ああ、終わったよ、ゆいちゃん。続きしようか」

「おっけー!」

「よし、その花取って」

「うん、あっ、あっ! とれなかった!」

「大丈夫だよ。僕が君を守る!」

「さすがそう兄ー!」


 ふっ、決まった。


 唯ちゃんと2人でゲーム。

 癒しの時間だ。


 夏休みが始まったといえど、平日は平日。

 今日は恵美理がバイトということで、一人ぼっちになってしまう唯ちゃんを家に招いてゲーム大会である。

 

 あー、楽しい。


「いえーい! ボス倒したね」

「いぇーい!」

「次のステージもやる?」

「うん!」


 この唯ちゃんの笑顔。

 恵美理とは違って、つり目ではなくまん丸くりくりの目を持っていて、お人形みたいに可愛い。

 まぁ恵美理も可愛い……けど。

 え? いや、ロリコンじゃないよ?

 うん、犯罪は犯していない。


「よーし、じゃあ次はなにしようか」

「女王さまゲーム!」

「え、女王様ゲーム!?」

「うん!」

「どこでそんな言葉知ったの?」

「学校でともだちが言ってたよ」

「どんな友達なんだ……」

「女王さまの言うことはぜったい!」

「怖すぎるっ!」


 というか僕はずっと奴隷じゃないか。

 男は女王様になれない。

 不公平だ!

 まぁ、別に唯ちゃんに命令したいことはないけれど。いやほんとに。

 

 唯ちゃんはまだ小学生だけれど、鍵っ子というだけあって7歳のわりにはしっかりとしている。


 どれくらいしっかりしているかと言えば、お姉ちゃん(恵美理)が料理を作る時に手伝うくらいにはしっかりしている。むしろ手伝ってもらわないとお姉ちゃんの料理はかなり時間がかかるとかなんとか。


 しかししっかりしているからといって、1人の時が寂しく感じないということではない。


 なぜわかるかのかと言えば、僕も同じ境遇だったからだ。

 同じように両親が働いていて、昼間は家に1人。


 まぁ僕にはたまたま恵美理がいて、いつも遊んでくれたのでそこまで寂しい時は多くはなかったが、やっぱり1人の時は寂しいものだった。


 ふぅ。よしよし。

 これくらい説明しておけば、誰も僕のことを気持ち悪いだのロリコンだと言うこともないだろう。

 僕は仕方なく唯ちゃんの相手をしているのだ。

 あーあ、まったく仕方ないなぁ。

 なんて僕は優しいのだろうか。


「そう兄、おなかすいたー」

「お、じゃあお昼ご飯作ろうか。何がいい?」

「んー、なんでもいいよ! そう兄のご飯おいしーし!」

「て、照れるなぁ。じゃあ一緒に何か作る?」

「そう兄ってなんでも作れちゃうもんね!」

「そ、そんなことないよー」

「お姉ちゃんも言ってたよ!」

「いやいやそんなことないよ。照れるなぁ、もう」

「じゃああたしゲームしてるから、がんばってね!」

「よーし、任せとけ!」


 って、あれ。

 なんかうまく乗せられてないか。


「い、一緒には作らない?」

「うん! がんばってね!」


 ま、まぁ、いつも手伝ってもらっているし、家でも手伝っているのだろうからたまにはいいか。

 その笑顔でがんばれって言われるのも嬉しいし。


 ……やっぱり僕って気持ち悪い?

 

 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る