第4話

「いや、別に来なくてもいいよ?」

「そりゃ行くよー!」

「でももう4日目だよ」

「そうだよ?」


 テスト勉強を開始してから4日目。

 木曜日。

 学校帰りに、近所のスーパーに夕飯のための食材を買いに来ている。

 そして恵美理えみりもついて来ている。

 どうやら今日も(一応)勉強しに来るらしい。


「んー、てか一緒に勉強した方が楽しくない?」

「恵美理はゲームしてたでしょ、唯ちゃんと」

「唯も颯太のご飯美味しいって言ってたし」

「そ、それは本当か?!」

「う、うん、そうだけど?」

「よーし、今日は張り切っちゃうぞ!」

「急にどうしたの……」

「唯ちゃんはなにが好物なの?」

「ハンバーグとか、かなぁ。なんでも食べると思うけど」

「よし。今日はハンバーグ作るから恵美理も手伝ってね」

「オッケー!」


 僕たちの両親は共働きで、平日はお互い自炊をしている。

 そのおかげで僕の料理の腕は少し上がった。

 彼女は……僕が言えることは不味くないってだけかな。


「じゃあ必要なものは買ったし帰るか」

「うん。ハンバーグーハンバーグー」

「変な歌作るなよ」

「あ、デザートは?」

「……欲しいなら自分で買ってきな。先帰ってるから」

「はーい」


 ――あれ?

 2人で食材を買って料理を作るってなんかこれ……

 いやいや。自分で考えてて恥ずかしくなる。


 とりあえず家に帰って、夕飯の準備を始める。

 特に手の込んだ料理は作らない。

 ただハンバーグのタネを作って、トマトソースと共に煮込むだけだ。

 子どもに生焼けは怖いからね。


 おそらくタネは唯ちゃんが作りたがると思うから、ひとまず材料だけを混ぜておく。


 混ぜ終わると、ちょうどインターホンが鳴った。


「そう兄ーきたよー」

「おお、唯ちゃんいらっしゃい」

「今日はハンバーグなの?」

「そうだよ。一緒に作ろうか」

「うんっ!」


 ああ、可愛い。

 胸に飛び込んでくれるなんて、なんていい子なんだこの子は。

 悪魔の妹とは思えない。


「……颯太って唯の前だと人が変わるよね」

「な、なんだよ。いつも通りだろ」

「どうだか!」


 いや、流石に7歳の子に手は出したりしないから、その怖い目で睨むのはやめてほしい。てかやめてください。


 唯ちゃんを愛でているのはなにも可愛いからだけじゃない。

 もちろん可愛いのだけれど、両親が働いているということはどうしても鍵っ子になってしまうわけで、僕もそうだったからどこか甘やかしたくなってしまうのだ。

 ……ちゃんと理由があるからもう1回ハグしてもいい?


「じゃあ私はどのゲームしようかなー」

「おい、手伝えよ」

「だって唯と颯太と2人で十分じゃないの?」

「ゆい、そう兄だけでもいいよー」

「そうかそうか! じゃあ一緒に作ろうなー」

「ほらね」

「でも勉強するならいいけど、ゲームはダメ」

「ゲームはだめ―!」

「えー唯までケチー」

「自分が食べたい分は、自分でこねましょう」

「「はーい」」


 結局、唯ちゃんとハンバーグをこねるのが楽しすぎて、小さい唯ちゃんサイズのタネを作り過ぎてしまった。

 気合いを入れ過ぎて合いびき肉を多く買いすぎたかもしれない。

 まぁ冷凍できるしいっか。


 そんなこんなで、調理している間は案の定恵美理は唯ちゃんと共にゲームをしていたが、夕飯も終わったので勉強させなければならない。


「じゃあご飯も食べたし勉強するか」

「えーゆいしたくないー」

「唯ちゃんはゲームしてていいよ」

「そう兄は? ゲームしないの?」

「ぼ、僕はお姉ちゃんと勉強しないと……」

「ゲームがいいよねー唯ー?」

「うん、したーい!」

「おい、なんで恵美理はそっち側なんだ」

「「ゲームしたーい!」」


 ……さっき言ったことを撤回しよう。


 やっぱり悪魔の妹は小悪魔だった。

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