第3話
「ねー、お菓子も買っちゃダメ?」
「ダメ。約束はアイスだけだろ」
「またじゃんけんする?」
「しない」
放課後。
約束通りコンビニへと来ている。
お願いされてもお菓子は買わないぞ。
そんな顔しても、だ、ダメだ。
「じゃあこれで」
「え、これでいいの?」
「うん、いいの」
「はい!」
「くれるの?」
「当り前じゃん。2つあるんだから」
「おお……ありがとう」
手渡されたアイスは120円ほどの安いアイスだった。
それは2つに割れるアイスで、彼女は半分をくれた。
僕が買ったのにお礼を言うのはなんか悔しいけれど。
くそぅ、優しいじゃないか。
「んー、ソーダ味の方がよかったかな?」
「僕はモカでも好きだけど」
「次はソーダ味買ってね」
「仕方ないな、ってなんで僕が買うことになってるのさ」
「へへっ。どうせまた私が勝つもーん」
いや、へへっとか……
可愛いさ全開かよ。
たしかにこんな小悪魔みたいな笑顔を他の人と話している時に見た時はないけれど、それは僕が見ている時だけの話であって、きっと僕の知らないところでは普通に見せているだろう。
あぶないあぶない。
危うく
けどまぁ、この笑顔が見られるなら120円くらいいつでも払ってもいいような気がしなくもないのも事実なのだが、そんなことは口が裂けても言わない。
「そういえばさ、来週テスト前週間じゃん」
「あー、そうだね」
「また教えてくれない?」
「英語?」
「うん。あと他のわからないところ」
「別にいいけど」
「じゃあ来週は通うから!」
「はいはい」
アイスを食べ終え、自転車を再び漕いで家へと向かう。
通う、というのはその通り家に来るのだろう。
それもおそらくほぼ毎日。
まぁテスト前になるといつもこうだ。
だが、安心してほしい。
僕の家で、彼女と二人きり、なんていう状況にはならない。
なぜなら、
「唯ちゃんも来るんでしょ?」
「うん。夕飯もそっちで食べようかな」
とまぁこんな感じで唯ちゃんという彼女の妹も一緒に来るのだ。
唯ちゃんはまだ7歳なのだが、この子がまた可愛い。
良い子で、すごく可愛い。
「じゃあ週末の間に勉強しておいてよ?」
「えー、なんでよ」
「どこがわからないか把握しておくため」
「はーい」
相変わらず気の無い返事だな。
ここはビシッと言わないと、勉強しないにちが――
「ぶうぇっ」
「どしたの?」
「む、虫が口に」
小さな虫の大群に突っ込んだ。
小さいけれど大群。うん。間違っていない。
「あはは。よくあるよくある」
「これだから夏は嫌いなんだ……」
「えー私は好きだけどなー」
「なんで?」
「アイス食べられるし」
「いや、子どもかよ」
……ん?
それはさっきのことみたいなのを言っているのか?
まてまて。自意識過剰は良くない。
「別に冬でも食えるんじゃないか?」
「うーん、たしかにそうだね」
ほらみろ。ふぅ。あぶない。
思わず勘違いして喜んじゃうところだった。
まったく、僕を無意識にからかうのはやめてもらいたい。
僕は純情な男子なのだ。
「でもさ、さっきみたいに一緒に外で食べるのってなんか、特別おいしいよね」
……油断したところにクリティカルヒット。
「う、うん。そうだね」
思わず返事に詰まってしまった。
なんてことを言うんだこいつは。
わざとか? わざとなのか?
しかし恵美理はいつも通り自転車を漕いでいる。
無意識ってことかよ。恐ろしい。
あ、こういうのを小悪魔って言うんだっけ。
男心をからかうような、そんな女性。
でも――
どちらかというと悪魔じゃない?
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