第一話
「いや、浦戸さん、一学期の中間テストで大学進学危ういとか言われるとか、ヤバ過ぎでしょ。どんだけ勉強できないんですか」
「
「うっさい、一年坊ども!! 三年生の勉強ってのはなぁ、お前らが考えてるより難しいんだよ!!」
「いや、自業自得だろう。テスト期間中、ずっとゲームしてたじゃないか」
「おま、ちょっ、氷室!! それは!!」
「……テスト中も爆睡していたしな。正直、俺もあれはどうかと思った」
「馬崎ぃ!! だからそういうの言わないでよ、ほんともう!!」
自業自得。
満場一致でその残酷な判決が、
エントランスのソファーに座っている文学部――若き『天眼の衛士』たち一同。
その視線にさらされながら、がっくりと膝をついて倒れ込む
こればっかりはフォローのしようがないなと、私は苦笑いを浮かべてしまった。
「で、この
「今度の再テストで、赤点を取らないように、みっちりと寮のメンバーでふぉろーしなさい、と、瀬奈姉さまからはお達しを受けているわ」
「うへぇ、駄目先輩の世話とか。ちょっとできる気しないんですけど」
「同感だ」
「くぉらぁっ!! 高木ぃ、それに、氷室ぉ!! お前ら、ほんと、先輩に対する敬意ってもんがねえのか!! というか、お前らに教わることなど何もなぁい!! アイ・アム・サンネンセイ!! オーケィ、アーハン!?」
「うっわ、わけわかんないことまで呟き始めたよ」
「もうこれ重症なんじゃないですか、お姉さま」
重症だと思う。
本当に、手遅れなくらいに酷い状態だと、今更になって再認識した。
どうしてこんなことになるまで、
私も。そして、世話役である瀬奈姉も。
それは、青筋を立てて怒るのも分かるし、私に――真面目に勉強するように、ちゃんと監視していろ、なんて、ことを言いつけて来るのも分からないでもなかった。
とにかく、このままでは、『天眼の衛士』のコネで、有名大学に進学とか、有名企業に就職とか、そんなことになる以前の問題である。
彼が無事に御陵坂学園を卒業できるように――厳密には、卒業しても行く当てがあるように、うちの寮で全力サポートとしろと命じるのは、当然のことのように思えた。
ただ、当人にその危機感がないのでは、話にならないのだけれど。
「聞いてた話と違う!! 俺は『天眼の衛士』になれば、老後の心配はない、何もしなくてもバラ色の人生が待っているって、そう、聞かされていたのに!!」
「いや、そんな旨い話、ある訳ないだろう」
「ある程度の基礎学力は当然必要になってくるでしょ。それすらも分からないとかどれだけ残念なんですか、
「香奈まで!!」
「俺、『天眼の衛士』のこととか、『大太郎亭』とかのこと、よく分からないんであれなんですけど、割と本気で浦戸さんの件はまずい感じなんですか?」
高木くんが、不安げに私の方を向いて尋ねて来た。
彼も今回の中間テストで、言うほど成績が良くなかったとは聞いている。
流石に
「もちろん、普通に頑張っていれば、
「救済措置みたいなのは」
「もちろんあるわ。最悪の場合、天崎家の個人雇いである――『暗部』部隊に就職することもできるけれど」
あまりお勧めできる就職先とは、自分の家のことだけれども言うことはできない。
思わず言いながら眉間に皺をよせてしまっていた。
いわゆる、彼らは『天眼の衛士』でいう所の、汚れ仕事を請け負っている部隊だ。
カゲナシと秘密裏に結託した一般人や、社会的な地位を得ているカゲナシ、更に、カゲナシ側へと様々な事情により寝返った元『天眼の衛士』の始末など、結構、精神的にキツい仕事を請け負っている。
まさしく『暗部』――『天眼の衛士』の闇の側面を受け持つ部隊なのだ。
そして、そこに所属している『天眼の衛士』は、その機密性を高めるために、社会的な地位の一切を剥奪されてしまう。居ない人間――とまではいかないが、人生の裏街道を歩くことを半ば強制されてしまうことになるのだ。
もちろん、名跡などもってのほか。
今、
せっかくこの若さで、名跡を継いだというのに、なんとも勿体のない話である。
だからこそ、瀬奈姉も、何をやっているのか、と、怒ったのだけれど。
とにかく。
「なんとしても、次の再テストで
じっ、と、
分かっている、と、皆が皆、頷いたのを確認する。
それから私は、その誰もが分かっている言葉を、あえて口にしたのだった。
「
「分かりました!! 任せてください!!」
「ほんと、世話のかかる人ですよね、
「まぁ、それを口実にどうどうと年上に向かって注意することができるのだ。こちらとしてはまったく問題ないな」
「……努力してみよう」
「おっ、お前等ぁっ!!」
喜んでいるのか、それとも、悲しんでいるのか。
とりあえず、その場にいる全員から、再テスト赤点阻止バックアップの申し出を受けた
はぁ。
不安だ。
はたして皆はそう言ってくれたけれど、本当にこんな調子で、上手く行くのだろうか。
なにせこの
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