第5話

それから一週間後、今日はあいにくの雨模様、こちらとしてはとても憂鬱だ。

しかし外に出てみると、アパート前に植えられた田んぼの稲たちは、この雨を逃がさんぞと言わんばかりに背伸びをしているように見える。

植えられてから今日まで一滴の雨も降らなかったしな、恵みの雨だな。

そろそろ蛙も鳴き出すかな?憂鬱な気分が幾分和らぎほおが緩む。


里佳子の紹介してくれた本屋さんのアルバイト、おととい面接に行ってきた。

面接の相手は店長、とてもいい人だったと思う。

とても凛々しい女性で、母と面影が重なり少し身構えたが、話してみると、とても柔和で温かい人のように感じた。

結果は合格。これから週3日か4日17時から22時のシフトで入っていくことに決まった。

今日がその初出勤日だ。



私のほかに先輩の男女一人ずつ、同級生の女の子が一人いるらしい。

今日は同級生の女の子と一緒のシフトだそうだ。

同い年の女の子か….

緊張と期待が入り混じるが、どちらかというと期待のほうが強い。

店の前に着く。17時十分前、ふーっと大きく息を吐いて扉を開ける。

「おはようございます‼」思い切って大きく挨拶する。恥ずかしい、顔は真っ赤になっていただろう。店の中には数人のお客さん、店長、そしてエプロン姿でポニーテールの女の子がいた。


店長「おはよう、今日からよろしくね。ええと杏ちゃーん?」


「はーーーい‼」元気のいい返事の後さっきのポニテの子がこっちへ来た。


杏香「何ですか?店長」


店長「こちら、今日から入る侑里ちゃん、杏ちゃんと同じ一回生よ。色々教えてあげてね」


杏香「わあ‼わたし杏香、みんなから杏ちゃん(あんちゃん)ってよばれてるの、これからよろしくね侑里ちゃん。」


愛想のいい笑顔で手を差し出す杏香、かわいいな、私が男の子だったら一目ぼれしてたかも。


私「うん、よろしく」差し出された手を握る。



店長「じゃあ侑里ちゃん、奥にエプロンあるからつけてきてね。」


私「はい」


そう返事して奥にあるスタッフルームへ入る。


はああああああ


ドキドキした。やっぱりまだ人見知りは治っていない。杏ちゃんか… かわいい子だったな

友達が増えた気がして思わず笑みがこぼれる。よしっがんばるぞ。

テーブルの上に置いてあるエプロンをつけ、店内へ戻る。


店長「まあ、よく似合ってるじゃない。よしよし、じゃあ杏ちゃんまずレジから教えてあげてくれる?私は発注してくるから。」


杏香「はーい、わかりましたー。侑里ちゃんレジいくよ。」

私「う、うん、杏ちゃん…」


杏香「じゃあ、やっていくよ。一応私が先輩だからね。たった一か月くらいだけど…」


得意そうな顔をした後で、ペロッと舌を出す。なんだこのかわいい生き物は。

あっ、一応言っておくけど、私別にそういうんじゃないからね。


それから、杏香にレジ、品出し、掃除について一通りのやり方を教えてもらった。


この日の業務は滞りなく進み、21時にのれんを下げ、シャッターを閉めた。

ここからは店内で締め作業だ。店長が売り上げを計算している間、私と杏香は二人で店内の掃除をしていた。

その間にも杏香はいろんなことを話してくれた。

彼女はS女子大教育学部の一回生で、小学校の先生を目指していること、アパートで一人暮らししていること、今日はいない先輩バイト二人のこと。


杏香「絵梨佳さんと颯佑さんっていうんだけどね、二人とも侑里ちゃんと同じO大の、2回生だよ。絵梨佳さんはちょっと無愛想だけどいい人だし、颯佑さんはかっこよくて頼りになって、王子様みたい‼」


先輩か…これまで部活とかも特になかったから、先輩ができるのは初めてだ。

どうなるのかな、当然敬語だよね、パンとか買いに行かされたりするのかな…優しい先輩だといいな。


22時、タイムカードを押して今日は終わりだ。

店を出ると雨はもうやんでいた。

杏香とは帰る方向が同じだったので、一緒に帰ることになった。

ここでも杏香といろんなことを話したけど、杏香の話は先輩、颯佑さんの話題で持ちきりだった。

「杏ちゃんってその颯佑さんが好きなの?」思い切って聞いてみた。

えっ?杏香の顔が真っ赤になっていく。耳まで真っ赤だ。

「実はそうなの、内緒だよ?」

はにかみながらそう言われた。

「うん」大きく何度も頷く。


私「あっ、私アパートここだから。」

杏香「え⁉ほんと?私もなんだけど。」

私「え⁉」


部屋は離れていたが、杏香は同じアパートだった。なんとびっくりだ。

二人で大笑いした。こんな偶然あるんだな。


部屋に戻りシャワーを浴び、布団に入る。

思いだしてまた笑いが込み上げてきた。同じアパートって…

次のバイトが楽しみになった。次は例の颯佑さんと一緒になる。どんな人だろな。

新しい出会いが楽しみになってく、これも少しずつ変わってきた証拠かな。

そういえば杏香と連絡先交換しとけばよかったな、まあいいか近所だし…

クスっと笑って眠りにつく。今日は楽しい夢が見れそうだ

















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カキモノヅクリ 入江浅 @sen_irie

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