第3話
Ep3.彼らの、わたしの
次の水曜日、記念すべき初回の活動。
場所は大学近くのファミレス。丁度昼時を過ぎたころで、店の中はちらほら空席が見られた。
二人とも楽しみにしていたようだ。表情が生き生きとしている。無論、私もだ。
これまで、友達と集まって小説のことを語り合うことなんてなかったから。
今日は三人、各々が過去に書いた作品を持ち寄って読みあい、意見を言い合うことになっている。
テーブルの上に原稿を出す。表情が一気に緊張を帯びる。
「お世辞とかなしだからね」と龍之介。
里佳子と私は無言で頷く。
まずは龍之介の小説だ。ジャンルはSF、主人公が未来にいって…というような内容のものだった。文章の構成や、言葉選びに拙さはあるが、描写がとても真に迫っていて、自分がその中の世界にいるような感じがした。
次は里佳子のだ。ジャンルは恋愛もの、自身の高校時代の恋愛を体験に書いたものらしい。その丁寧な言葉遣いは、龍之介のそれとは対照的だ。しかしなんだろう。小説を読んでいるというより、彼女の日記を読んでいるような気持になった。
最後は私のだ。ジャンルはファンタジー、面白いことに三人ともジャンルが被らなかった。
内容は、さえない主人公が異世界に転移して…というものだ。
二人ともとても熱心に読んでくれていた。一応、これまで書いてきた中で、最も自信のある作品ではあるが、彼らはどう思うだろうか。期待と不安が混ざり合うような変な気持ちだった。
二人が読み終わり、机上のドリンクをすする。
一呼吸おいて、「面白かったよ。」見事に二人の声が重なる。
「あっ」顔を見合わせ、照れ笑いを浮かべる二人。
‐ラブコメみたいなことやってんじゃないよ‼‐
と心の中で盛大に突っ込みを入れる。
コホン、咳ばらいを一つ入れ、龍之介が続ける。
彼曰く、私の小説は、文章も、描写もよくできている。ただ、何か物足りない。もう少し私にしかないオリジナルのものが欲しいということだ。
なるほどね、と自分の小説を読み返す。そういわれると、確かに、何か足りないような気がする。
「普通すぎるんじゃない?」と里佳子、小説はこう書くべきだ、という考えにとらわれすぎている。型にはまりすぎている、という意見。
なるほどなるほど、目からうろこが何枚も落ちていく。自分一人で机に向かっているだけでは気づかなかったことでも、三人寄れば明らかになる。
楽しい。何より、こうして感想や意見を言い合うことがこの上なく楽しかった。
こうやって話し合っているうちに、気づけば日はすっかり落ちていた。せっかくだからと夕食も食べて帰ることにした。食べ終わり、そろそろお開きかなと思ったころ、
「そうだ‼」龍之介が突然に声を上げる。これはデジャヴか、いやそうではない。
興奮気味なその口調と、嬉々とした表情は、サークルを作らないかと提案した時のそれと全く同じだった。
「僕たち三人で同人雑誌を創ろうよ‼」
まだ一回目の活動でなーにを言い出すんだ、と思ったが
「いい‼やりたい、やろう‼」と里佳子も乗り気な様子だ。
私だって勿論やりたい。やりたくないわけがない。自分の作った小説が本になって、ほかの人に読んでもらえる。小説を書く人にとってこれがうれしくない人なんていないだろう。でも流石にまだ早くないか…?
などと考えているうちに、話はどんどん進んでしまっていた。こうなるともう止められない。
やるだけやろう。私も腹をくくった。
当面の目標は10月にある大学祭。それまでに各々が納得いくものを二本ずつ作ってくる。
それらをまとめて本にして、売る。そう決め、今日はお開きとなった。
会計を済ませ、それぞれの帰路につく。暖かくなってきたとはいえ、まだ夜の風は冷たい。小走りでアパートへと向かう。
楽しかった。思い出すと思わず笑みがこぼれる。こんな充実した日は初めてだ。
部屋に戻りシャワーを浴びる。時刻は午前零時を少し過ぎたところ、いつもならこのまま布団に入るところだが、今日は寝付けなかった。万年筆を持ち、原稿用紙に向かう。
書きたい、書きたい、書きたい。
ペンが止まらなかった。結局その夜は一睡もできなかった。
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