やさしさ

これと、もう1話の2話編成です。

ひまりちゃんとゆうさくくんのお話

____________________


私のお父さんとお母さんはお医者さん。みんなの命を助けるお仕事。

私のおじいちゃんもお医者さん。

私のお兄ちゃんは、医学部生。

つまり私は、医師家庭の子。


だけど私は、ピアノが好き。

治療するんじゃなくて、ピアノでみんなを救いたい。伊里川ひまりっていうピアニストになりたい。

音楽には、人を変える力があるんだって、知ってるから。


私がピアノをはじめた理由。

手先を器用にするため。

手先が器用な方が、お医者さんになった時に有利だってお父さんが言ってた。

まぁしょうがないか、って思いながらピアノを始めた6歳。

無関心だった。音楽に。


私には、ちょっと不器用だけど優しい、結城悠咲という男の子の幼馴染がいる。

悠咲は、根っからの文系で、理系教科が壊滅的だった。だからいっつも教えてあげた。その時は、絶対に「……ありがとう」って言ってくれる。礼儀正しくて、優しい幼馴染だ。


ある晴れた15歳の冬の日、家族のみんなに言った。伊里川ひまりは、ピアニストになりたいと。もちろん家族のみんなは猛反対。ひまは手先が器用で頭が良い、将来有望だ。医者になった方が絶対に幸せだって、何度も言われた。言われれば言われるほど、苦しかった。自分を殺された気がした。


45分ほど経った時、つらくて、生きた心地がしなくて、家を飛び出した。

行くあてなんてなかったけれど、もうあの場には居たくなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る