第12話 殺人鬼と恩人

あの事件から1週間が経った今日この頃。俺は勇武から貰った俺と唯月用の着替えをそれぞれ試着している。

「刀夜!これどう!!」

「お前、なんでも似合うんだな」

隣で唯月が可愛らしいフリフリの服を着ながら俺を見る。

まじで惚れそうだ。

「俺なんかあんまりな」

「刀夜も似合うよ!ピッタリだよ!!」

「そうか、ありがと」

本当に、こいつには逆らえないな。

と、ここで俺は肝心な事を忘れていたことに気づく。それは、あの事件が起きた日の買い物の目的だ。そういえば俺は唯月に何も買ってあげられてない。

だが、あんなに怖い思いをしたのだ。唯月が一緒に来てくれるだろうか。

「なあ唯月」

さっき着てた服を脱ぎ、次の服を試着しようとした下着姿の唯月が振り向く。

「買い物、行くか?」

唯月の手が止まる。そして、少し間を置いてから

「うん!」

と返事した。

「怖く、ないのか?」

「怖くないよ。だって、刀夜が一緒だもん!」

「──────っ、、ふっ」

全く、やっぱこいつには勝てないや。


そして、俺たちは例の場所へと来た。

「さて宝石店だ。好きなのを選べ」

俺はこの前と同じことを繰り返さないように、唯月と手を繋いでいた。

「これがいい!」

唯月が商品を指さす。それは、ラピスラズリがはめこまれたネックレスだった。

「おま、またネックレスかよ」

「これがいいの!」

「ったく、わかったよ」

まあこのアレキサンドライトのネックレスも響也に踏まれてたからな。汚れはしたが傷が全くついてないところ、流石は高級銘柄品と言ったところか。

俺は店員にそのネックレスを注文し、会計を済ませる。

「ほらよ、唯月」

「ありがとう、刀夜!」

唯月はラピスラズリのネックレスが入った小袋を受け取ると、そのままポケットにしまった。

「つけないのか?」

「うん」

「それ、買った意味なくね?」

「うんん、そんなことないもんっ!」

こいつの考えてることが全くわっかんねぇ、、。

そもそもネックレス2つなんか買って何になるんだよ。

「ねえ刀夜、ゲーセン行こ!」

そんな俺の感情なんて気にせず、唯月が言う。

「ああ」

だからこそ、本当に可愛い奴だよ。唯月こいつは。


「あああ!!」

「っ、うるせぇなどうしたよ!」

「無くなってる!」

それは、この前唯月が5000円全てを賭けたゲーム。その欲しかった商品ことゲーム機が誰かの手によって取られていたのだ。

「うぅ、、、欲しかったのに」

「あちゃー、こりゃ仕方ねーな」

つーか誰が取ったんだよ!これ相当やってる人じゃないと取れないと思うから、そうなるとまあガチ勢だろうな。 それかまぐれで誰かがとったか。

どちらにしろ、とられたということには変わりない。

「さて、どうするんだ」

「んんんんん」

唯月が考える。ゲームの商品コーナーをじっと見詰め、そしてある商品を指さした。

「何もない、、、」

「じゃあ他のとこ行くか?」

「そうする」

唯月はしょんぼりしながら言う。まあ欲しい物を先にとられてしまったショックは幼い彼女にとっては大きいだろう。

「さて、いくぞ」

そう言い、ゲーセンを出ようとした───時だった。


「痛っ!」

俺は誰かぶつかり、押し倒される。手を繋いでいた唯月も一緒に倒れる、そのまま俺の上にのしかかった。

「唯月、大丈夫か!」

「うん。刀夜は?」

「俺なら平気だ。ったく、誰だよ!」

そう言い前を見た。

「なっ、こいつ」

俺とぶつかったと思わしき男が、急いで走っていくのが見えた。俺の財布を持って。

待ちやがれこの野郎!

「唯月、追いかけるぞ」

「うん!」

俺は唯月を抱いて、男を追いかけようとした──────が

「─────そこまでだ」

俺が追いかけようとした時、誰かが男を止めた。

「それ、僕に渡すんだ」

「ふざけんなっ!これは俺のだ。テメェなんかに渡すわけねぇだろ!」

男がそう叫ぶと、男を止めた青年はポケットからあるものを取り出す。 その途端、男は顔を真っ青にした。

「もし、今すぐこれを僕に渡すのであれば、君を見逃そう。だが、渡さないのであれば───」

「わかった、わかったから!」

男は青年に俺の財布を渡し、そのまま走り去って行った。

「また君か。大丈夫かい?」

「そりゃこっちの台詞だよ。この前のことと言い、どう礼をすりゃいいか」

「いいんだよ、仕事だから」

その青年とは、あの時の事件で唯月の居場所を教えてくれた俺の恩人だ。そして今日もまた、こいつに助けられてしまった。

「何度もすまなぇな」

「お兄さんありがとう」

「いいんだ、仕事だから」

青年はニコリと笑ったが、すぐに真剣な表情に変え

「僕は、君のような心優しくて正義感溢れるような人を逮捕したくないんだ。だから、自首してくれないか?」

「───────────っ!」

男はポケットから警察手帳を取り出す。

こいつ、俺が殺人鬼だっていうのを知っている。ずっと勇武だけだと思っていたが、そうではなかったようだ。

「今すぐにとは言わない。言っただろ?君みたいな人は逮捕したくないって。だから、制限時間は警察が君を指名手配するまでだ。まあ、僕と勇武くん以外は皆無能ばかりだから相当な時間だろうけどね。まあ、君を信じてるよ」

そう言うと、青年は去っていった。


自首しろ、、、か。

するわけねぇだろバカがよ。俺はずっと唯月の側にいるって決めたんだ。だから───────

「俺は戦うぜ、警察おまえらとな!」

そう、俺は心で叫んだ。




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