第33話 新たなる苦悩の始まり 4(花恋視点)
私は私自身が付けていた仮面を外した……。
観覧車を降りた後、私達は帰路についた。隣を歩く兄さんの顔はどこか青ざめており、私が他愛もない会話を投げかけたとろこで、返ってくる言葉は必要最低限な返事ばかり……。
まぁしょうがないよね。何せ私に対して抱いてた印象が全て崩れたようなものだろうし。何よりも実の妹である私と今後、どういうふうに向き合っていけば良いのかを必死になって考えているんだろうな。
「ねぇ兄さん、安心して。当面は派手な行動には出ないから、残念ながらまだ私達は幼過ぎて2人で生きていくのには無理があるし。
癪な話だけど、まだおじいちゃん達の援助が必要な訳だし」
「そうか」
私がそう言うと、兄さんは少し安心したのか表情に少し余裕が戻ってきた様子だった。
……そう、私達はまだ幼過ぎるのだ。それ故に責任が伴ってくる派手な行動には出られない。世を知らなすぎるがために、私達はまだ保護者の庇護下を抜け出せない。だからまだ、時間が必要だ。
派手な行動にはそれだけのリスクが伴うし、それが実を結ぶとも限らない。それは今回の事も例外では無いだろう。現状、私と兄さんの間には確実に溝がある。これを埋めるためにもまた時間を要する。しかも、それを埋めるのも容易ではない、慎重に動かなければ溝はより開く。
「兄さん、それともう一つ安心して。明日からしばらくはこれまで通りの私でいるから。だから、そんな私である内はこれまで通りに……。接して貰えないかな……?」
「……あぁ、分かった」
そう応えた兄さんは、少し困惑しているかのようであったが、また少し表情に余裕が戻ったように思えた。
……現状はこんなものかな。後は時を過ごせば良い。それで溝の大部分は埋まることだろう。だが全ての溝を修正してしまっては意味がない。溝は、それが生まれた一通りの行動に対して相手に考えさせるためのものでもあり、言わばそんな溝も含めて派手な行動をする意味とも言える。確かに溝自体の大部分はリスクなのだろうが……。それ故に今行った行動はそんなリスクを取り除くための行動だ。
「なぁ花恋、一つ聞いても良いかな?」
「……!? うん。もちろん良いけど、なに?」
「花恋自身の幸せと僕の幸せ、天秤にかけたらどちらに傾く?」
「え……。そんなの、兄さんの幸せに決まって……」
そんなの最初から兄さんの幸せに決まっている。私自身を犠牲にする事で兄さんが幸せになると言うのなら、私は喜んでこの身を捧げる事だろうし、何だってする。
「そうか。僕も兄としては僕の幸せよりも花恋の幸せの方に天秤は傾く。だが、僕も花恋も互いに譲れないものがある筈だ。だからこうしようか」
「……」
譲れないもの。確かにある。私が誰よりも兄さんの事を好きであるという思いは決して譲れないもので、私はずっと兄さんと一緒にいたい……。
「今後、僕が僕自身の望みを叶えるまでに花恋が僕を堕とす事が出来れば僕はずっと花恋の傍に居続ける。たとえ何があろうとね。だけどそれまでに堕とせなかったら……。僕は花恋の傍には居られない」
「……分かった。だけど兄さんの望みってなに?」
私にも兄さんにも、互いに譲れないものがあり、それ故に私達には共に叶えたい望みがある。だから私は兄さんを堕としにかからなければならない。
そう考えると互いの天秤はそもそもどちらにも傾いてなどいないのかもしれない。平衡し、決して動いてなどいないのかもしれない。
「……その時が来れば分かるよ。でも、まだ時間がかかりそうだから、今は花恋の方が有利?なのかな?」
「え? うん、そうなんだ」
そんな事を言う兄さんの顔は、穏やかな雰囲気で、さっきまでの青ざめた表情ではなくなっており、優しげな笑顔を私に見せてくれた。だけど、何故だろうか? そんな兄さんの瞳は私ではなく、何か目には見えない別ものを愛しそうに見つめているかのように思えた。
その時、私はひょっとして兄さんの瞳には最初から私なんか写ってなどいないのではないのだろうかと思えてしまい、そう思った刹那、私は急に怖くなり、そんな思考を頭から振り払った。
大丈夫、だよね……?
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