第31話 新たなる苦悩の始まり 2
1
「結構混んでるね」
「そうだな」
久しく訪れたこの場所は当時よりも華やかになっていた。何でも一昨年あたりにリニューアルオープンしたらしく、アトラクションの数も増えていた。どのくらい増えたのかまでは幼い頃の記憶からでは辿れなかったが、少し寂しいような気もする。何事も時間が経てば当時のままではいられない、故に仕方がないという事は分かってはいるのだが...
「新しくなったんだってね!凄く楽しそうだね!兄さん!」
「え...あぁそうだな」
花恋が楽しそうなら、まぁ良いか。一人寂しく干渉に浸っていても虚しいだけだ。そもそも花恋の頼みでここに来たのだから、そこに僕個人の思いを持ち込んで花恋が楽しめなかったら、ここに来た意味がない。
「花恋は何に乗りたいんだ?好きなものを選べば良い。何せここには花恋の為に来ているんだから僕は花恋に最後まで付き合うよ」
「ありがとね...お願いごと聞いてくれて...え~と、それじゃあ花恋はジェットコースターに乗りたいな!」
花恋は恥じらうように僕にお礼を告げた後、何に乗りたいのかをいつものように明るい口調で話した。
ジェットコースターか...頑張るしかないか、なんか見てるだけで酔いそうになるんだよな。だが花恋に最後まで付き合うと言った以上、僕が口を挟むのは間違いだろう。たとえ、どんなに僕にとって辛いチョイスだったとしても最後まで成し遂げてみせる。
2
「兄さん大丈夫?」
「...大丈夫」
まさかジェットコースターの後にフリーフォールに乗せられ、別の種類だったが、またジェットコースターに乗せられるとは思わなかった...
時刻は昼を少し過ぎたくらいで、今は園内の飲食店で昼食をとっている最中だった。それまでに3つも人気なアトラクションを乗れたのだから幸運なのだろうが、僕にとっては不運の連続としか思えない。
「午後からはゆったりとしたものにしようか?」
「いや、大丈夫だ!花恋の好きなもので構わないから」
「え...でも...」
花恋は心配そうに僕に語りかける。
ここで折れてしまっては意味がない。花恋の為にここに来ているのだから、僕の都合で左右されるような事があってはいけないのだから。
「僕は本当に大丈夫だからさ、花恋の好きなもので良いよ」
「...ん~、それなら花恋は少し疲れちゃったし、午後はゆったりとしたものが良いなぁ」
「え?僕に気を遣う必要なんてないんだぞ」
「ううん、本当に疲れちゃった。だから別に兄さんに気を遣ったって訳じゃないよ。あ!でも兄さんの事が心配じゃないって訳じゃないならね!」
「分かった」
あ~あ、かっこ悪いな。結局は僕の都合で左右されてしまった...こんなんじゃ兄としては本当にダメだな...
「なぁ花恋」
「なに?」
「花恋にとって僕は兄としてどう思う?僕は正直ダメな気しかしない...」
「え...」
僕が花恋にそう告げると花恋は困惑したような表情になり、何やら考え始めているようだった。
「正直に答えてくれて構わないから」
「...花恋にとって兄さんはね、一番かけがえのない存在だよ。それこそ絶対に替えの効かない大切な人なんだよ、兄さんがいるからこそ花恋は毎日を楽しく過ごせるの、だからね兄さん...ずっと花恋の側にいてね!」
「...あぁ」
また嘘をついた。思い返せば花恋に対して僕は嘘ばかりついている気がする。全て僕の都合ばかりだ。
純粋に僕の事を慕ってくれる花恋の気持ちは素直に嬉しい。
だけど...僕は...その約束は守れそうにないな...
「本当?嘘じゃないよね?」
「え...あぁ」
「...クスッ、じゃあ安心」
「...」
花恋からまた狂気じみたあの雰囲気を感じた。花恋は僕に微笑みながら安堵を告げたが、花恋は微笑みを浮かべながらも、その瞳に光はなく、まるで虚無を映し出しているかのようだった...僕は不意に自分の背中が冷たくなっていくような感覚を覚えた。久しく忘れていた花恋のあの雰囲気、何故今頃になってまた?よりによって今、まるで僕の嘘なんて簡単に見透かしてしまっているかのような気さえしてくる。
だが、僕にそれを認める勇気などなく、必死に自分の中に生じたあるべきでない考えを否定しようと思考を巡らせる。心では逃避でしかない事くらい理解している。だが、どうしても理性はその考えを肯定しようとはしない。
「ねぇ兄さん、もしも嘘だったら...私は私の兄さんを奪ったもの、そしてその周囲に至るまで、その全てを許さないから」
「...」
僕を奪う?一体花恋は何を言っているんだ?僕は花恋に何も言っていないよな...詩音の事もノートの事も、何も言っていないよな?
「なぁ花恋、奪うって...」
「さぁ兄さん!もう行こ!早くしないと時間なくなっちゃうよ!」
「あ、あぁ」
気付けば花恋からあの雰囲気はなくなり、後には、いつもの明るい花恋だけがそこにがいた。
僕はさっきの花恋の言動もあの狂気的な雰囲気も全てがまやかしだったのだと、自分に言い聞かせる事しか出来なかった...
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