第30話 新たなる苦悩の始まり 1
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「兄さん 、久しぶりに一緒に何処かに遊びに行かない?」
休日の朝、朝食を食べ終え、リビングでニュース番組を見ていると背後から洗い物を終えた花恋が僕にそう問いかけてきた。
「僕と遊びに行っても別に楽しくないだろ?友達と遊びに行ってきた方が良くないか?」
「そもそも楽しくもない事に自分から誘うなんて可笑しいでしょ!私は兄さんと遊びに行きたいの!」
花恋はまるで不貞腐れたように僕にそう返答した。花恋がそこまで言うのであれば別に構わないし、それに何よりも日々家の事を殆どこなしてくれている花恋の頼み事を断るなど余りにも恩知らずな事だ。そのため、僕が花恋の申し出を断る理由などないのだが、そもそも実の兄なんかと一緒に遊びに行ったところで本当に楽しいものだろうか?
「本当に僕で良いのか?」
「兄さんが良いの!それで付き合ってくれるの?くれないの?」
「分かった、だが遊びに行くのは良いんだが、一体何処に行くんだ?」
頼み事を受け入れた今、これ以上僕は何か言うつもりはないが、実の兄なんかと何処に遊びに行くというのだろうか?
「少しだけ遠いけど...ゆ、遊園地に行かない?」
「遊園地?まぁ確かに少し遠いが、別に片道電車で40分程度の場所だし、花恋がそこが良いんだったら僕は別に構わないが...」
遊園地か...両親が生きていた頃に1度だけ行ったことがあったな。まぁ幼い頃の記憶など曖昧なもので微かにしか覚えていないが...そうだな、久しくあの場所に赴くのも悪くはないか。
「ありがとう、兄さん」
「別に良いよ、このくらい。母さん達が生きてた頃に1度だけ行ったよな」
「...そうだね、あんまり覚えてないけど」
花恋の声のトーンが低くなるのを感じた。花恋も未だに事故による母さん達の死をひきずっているのだろうか?僕は最早受け入れてしまったいた。当時の僕達にはどうしようもなかったのだから...
「そうか...やっぱりそんなに覚えてないよな」
「そうだね、でももうどうだって良いかな、今こうして兄さんと一緒に居られるだけで花恋は幸せだから」
妹にそう言ってもらえるのだから、兄としては非常に嬉しい。正直、あまり花恋に対して兄らしい事など出来ていないため、自分が花恋にとって良き兄である自信がなかった。
「...そうか、それなら良かった、僕も花恋と一緒に居られて嬉しいよ」
「それじゃあ、これからもずっと一緒に居られるよね?」
「そうだな」
...どうだろうな、兄としては失格だな、だとしてもこの考えを曲げる訳にはいかない。だからまぁせめてその前に花恋に対して僕に出来ることはしてやるべきだろう。
「それじゃあ、支度してくるから待ってて」
「あぁ、分かった」
さてと、僕も支度しないとな。
2 (花恋視点)
「良かった、断られなくて」
出掛ける支度をするために私は自室に戻り、支度に取りかかった。
最近、兄さんは何かと忙しそうで、何か考え事をしているような様子が多く見受けられるようになった。だけど、何を考えているのかまでは分からず、私がどうしたのかを聞いても何でもないよと返ってくるばかりだった。それ故に私は兄さんが何を考え事をしているのかと仮説をたてようとしたが、気分が悪くなってきて途中で止めた。気分を害した理由は恋人の事を考えているのではないか?という仮説が立った時、私の中から異常なまでの苛立ちが湧いて来たからだ。
「はぁ、私って醜い、...でも兄さんが誰かの手に渡るなんて私には到底たえられない」
奪った相手を殺してしまうかもしれない、だが流石にそればかりは最悪だな。故に私は兄さんを誰にも渡したくはない、兄妹2人、仲良くずっと一緒に暮らすために。
「そうだ、次に兄さんが友達と遊びに行くって言って出掛けた時はこっそりつけて行けば良いじゃん」
場合によっては付き合っている相手の顔や素性、性格とかの情報も容易く手に入るだろうし、でももし本当に友達遊んでいたとしても1度の確認だけでは不十分だ、最低でも3度は確認して3度全て友達と遊んでいるだけであれば少し考えを改めよう。確信がない以上、まだ私の考え過ぎだっただけという可能性だってなくはないのだ。
「そんな可能性、微塵も信じてはいないけどね...そういえば確かに幼い頃に1度だけあの人達と行ったことがあったっけ」
兄さんにそう言われるまですっかり忘れていた、何せ幼い頃の体験だ、記憶から抜け落ちていたとしても何らおかしくなどないだろう。それに憎みもした奴らとの記憶だ、尚更だろうよ。
「クスッ、でも今では少しくらいは感謝もしているんですよ」
なにせ結果としは私と兄さんをこうして2人きりにしてくれたんだから。
一度は離れ離れになってしまったが、またこうして一緒に暮らせるようになったのだ。そう思えば奴ら少しは役には立ったよ。
「さてと、早く支度を済ませないとね」
楽しみだなぁ、兄さんと遊園地♪
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