第25話 暗証番号の1桁目 3

1

ゲームセンターで遊んでいると、気付けば12時を過ぎており、そろそろ昼食をとることにした。


「昼食を何処でとるのかも決めてあるのか?」


「当たり前でしょ、ここの近くに公園があるの、そこで食べる事にしましょ、でもまずは私の家に寄って用意してある物を持ちに行ってからね」


詩音のマンションは駅から徒歩10分くらいの場所にある、おそらくこのゲームセンターからであれば5分とかからずに着くだろうが、


「昼食を用意していたのであれば持ってきておけば良かったじゃないか」


「いやよ、邪魔にしかならないじゃないの」


確かにゲームセンターで遊ぶともなれば、それは非常に邪魔にしかならないだろうが、わざわざ家に戻らなければならないのだから、それはそれで逆に手間になっているような気がする。


「でもまぁ、詩音らしいのかもな」


「分かってくれてありがとう、それじゃあ早く取りに行きましょ」


そして僕達はマンションまで移動し、詩音は部屋からバスケットらしきカゴを物を持って出てきた。


「さぁ公園に行きましょ」


「ところで一体何を作ったんだ?」


「それは着いてからのお楽しみ」


「そうか」


何を作ったのか聞かされていなかったため、気になったので聞いたのだが、そう言う事であれば楽しみしておくか。


2

その後、マンションから公園まで移動し、空いている手頃なベンチに腰を下ろした。


公園は割と広く、芝生が広がり、舗装された道や鯉の泳ぐ池、花壇などが綺麗に配置されており、多くの人が利用する良い場所だった。


「いい場所だな」


「そうね、建物ばかりのこの辺りからするととても貴重な場所でしょうね」


そんな会話をしながら詩音はバスケットを開け、中から大きめのタッパーを取り出した、詩音が蓋を開けると中にはサンドイッチが綺麗に入っており、中の具の凝り具合からして、中々に手間がかかっている事が見てとれた。


「凄いな、これを全部自分で作ったのか?」


「勿論、全て私の手作りよ、でも中の具材は手間のかかる物は昨日の内に用意しておいたから今日は別にそこまで時間はかかってないわね、今日はちゃんと身だしなみに時間をかけたかったから」


確かに今日の詩音の姿はまぁ普段から整っているけれどもそれと比較してもより綺麗に見えた、悔しいことに僕は駅前で詩音に一瞬だけ見とれてしまった。


ん...?待てよ、昨日の内に?つまりは詩音はやはりこうなる事を計算した上で計画を立てていたとういう事か、はぁ何だか本当に全てが詩音の手のひらの上という感じがする...たが、たとえそうだとしても、僕にはこうすること以外に選択の余地はない。


例え相手の手のひらの上でもその上に僕の求める物があるのならば僕は進んで踊ってやろうじゃないか、ノートを取り返すためなら。


「どうしたの?早く食べましょ」


「え、あ、あぁそうだな」


すっかり考え事にふけっていたようだな、僕の悪い癖だな、今は詩音との昼食の方に意識を向けなければ、


そうして僕はサンドイッチを口に含んだ、まぁこれも予想通りではあったが案の定、


「うまい」


「ありがとう」


前にも食べた事はあるが、正直な話が花恋の料理と同じくらいうまいのだから最早流石としか言いようがなく、本当に詩音がいかに優れているかを理解させられる。


その後、昼食を終えた後で僕はこんな事を詩音に対して話していた。


「本当に凄いと思うよ、お前のこと」


「ん?何なの?いきなり」


詩音は僕が唐突に言った言葉に対して少し困惑している様子だった。


「僕の行動は全てがお前の計算の内なんじゃないかって思える、本当にそうだとすると僕の何手も先を行くお前は本当に凄い奴だって思ったんだよ」


「...そんな事ないわよ、私は無月君の事だからあなたより先に考えをおけるの、無月君以外の事にはそうじゃないわ、あなただけよ」


詩音は真剣な口調で僕にそう告げる。


「僕だけ?」


「そぅあなただけ」


何なのだろうか?この感情は、自分だけが特別視されているという本来であれば満足感にも浸れる筈なのに...自分が抱いてるこの感情は恐怖心に酷似している気がする。


「どうしたの?怯えているみたいな目をしているけど」


「...」


言葉が出ない...詩音に対してどういった言葉を発すれば良いのか分からない。


「大丈夫よ、怯えなくても、言ったでしょ私があなたを守ってあげるって」


「!」


詩音はベンチの中央に置いてあったバスケットを自分の横にどけ、僕に近付いて横から優しく僕を包み込むかのように抱きついてきた。


そのまま詩音に抱き寄せられ、気付けば僕は詩音の腕の中にいた、一つの不可解な事とともに...


それは恐怖心に酷似した感情が安らいでいくのだ、詩音によってもたらされた筈のその感情が同じ人物の手によって安らいでいき、やがて安心感とでも言うのだろうか?それは幼き頃に感じた母の腕の中のように僕に安らぎを与えていった。

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