第24話 暗証番号の1桁目 2
1
僕は一応約束の時間である10時よりも10分前くらいには駅前に着くように行動したのだが、
「あら、まだ約束した時間までは10分もあるのに、早いわね」
お前の方が早いだろうが、一体何時から居たんだ?少なからず僕よりは早いのだから9時50分よりも前には来ていた事になる。
「お前は何時からここに居たんだ?」
「9時半頃くらいからかしら」
30分前から来ていたのか、一体何故?それはいくら何でも時間の無駄だろう、そんな前から来ている意味が分からない。
「何でそんな前から居るんだよ」
「何でって、デートを申し込んだ側が遅れるなんて格好がつかないじゃないの、それに無月君の事だから待ち合わせの時間よりも早く来る事くらい容易に想像がつくもの」
成程、僕と同様に10分前行動を行った場合、僕よりも先にこの場所に居る事は出来ないからな、でも、だからと言ってやっぱり30分前と言うのはそれを踏まえた上でも早いよな...
「そ、そうか」
「何よ、別に良いでしょ、私がカッコつけたって」
「何も言ってないが、まぁお前が良いのならそれで良いと思う、30分前行動でも」
「失礼ね、無月君だけよ、こんな事するの」
僕だけ、か、何とも言えない複雑な気持ちになるな、嬉しいような、やめて欲しいような、まぁ深くは考えないでおこう、たとえどんな感情を詩音に抱いたとしても本質は変わらないのだから...
「それで、これから何処へ行くんだ?考えてあるんだろ?デートプラン」
「ええ、もちろん、それに対して抜かりはないわ、それじゃあ移動するから着いて来て」
2
詩音に案内された場所は駅から徒歩5分程度で着くようなすぐ側の場所だったのだが、そこにあった建物は、
「ゲームセンター...」
「クスッ、随分と不満そうね」
だってまさか、ゲームセンターに連れて来られるとは予想もしていなかった、一体どういう意図があって僕をここに連れて来たのか、
「何でゲームセンターなんだよ」
「それはね、無月君はこういう場所って絶対来ないでしょ?私が無月君をここに連れて来た理由はそんなお堅いあなたに少しは羽目を外してもらおうと思ったからよ」
お堅いとは失礼だな、その通りかなのもしれないが...まぁ詩音が僕に言いたい事は分かった。
たまになら確かにこういった場所も悪くないか。
「詩音はここによく来るのか?」
「そこまで通ってる訳じゃないけど、どうしようもなく暇な時は時間を潰しに来たりしてるわね」
へー、何だか以外だな、詩音がゲームをするイメージ
なんて全く湧かないのだが、こんな嘘ついてもしょうもないしな、本当の事なのだろう。
「早く中に入りましょ」
「あぁ」
ゲームセンターの中に入るとゲーム機から流れる騒音とも言うべき大音量の音が唐突に耳に入って来た。
想像以上にうるさいな、何か入って早々だけど出たくなって来た。
「それで、何をすれば良いんだよ」
「そうね、まずはあそこにあるレースゲームなんてどう?」
詩音はそう言いながら指を指していたので、その方向を見ると椅子とハンドルの付いたゲーム機の本体らしき物が一体となった形状の物があった。
「やった事がないからルールも操作方法も分かんないんだが」
「ルールはただ単に上の順位を狙って自分の車を操作すれば良いだけよ、操作方法はゲームが始まる前に画面に表示されるから安心して、それと1プレイ100円ね」
「分かった」
そして、僕は詩音に言われるがままに椅子に座り、操作し、詩音と対戦形式でゲームを開始したのだが...
「また負けた...何故だ、あと一歩の所まではいくのに、詩音だけはまるで抜けない、コンピュータには圧勝なのに...何故?」
まるで勝てなかった、詩音に一勝でもしたい一心でせがんで何回もプレイしたのだが、結果は全敗だった。
「もう良いでしょ、いい加減に諦めたら、私と無月君じゃプレイ時間が違うもの、そう簡単に私には勝てないわよ」
ん...確かにそう言われてしまうと反論出来ないな、初心者が経験者に勝負を挑んだ所で勝てる確率は非常に薄いしな。
「はぁ、分かった、今回ばかりは負けを認める、だがいつかは勝ってやるからな」
「フフッ、それじゃあ期待せずに待ってるわね」
チッ!とことん人を見下しているな、そこは嘘でも期待していると言うべきだろ!
「ねぇ無月君、せっかくなんだからあれ撮りましょ」
詩音が示している方向には何やら側面に幕が被さっている大きな四角柱の機械があった。
「なにあれ?」
「プリントシールって言うんだけど、まぁ無月君にも分かり安く言うと写真を撮って、その写真を操作通りに加工してくれる機械よ」
それって必要な物なの?いまいち僕には理解できないのだが、でもまぁ僕に拒否権なんてそもそもないし、大人しく従っておくか。
「分かった」
「ありがとう」
そして、僕は詩音に連れられ、その機械の幕の中に入り、お金を入金すると、何処からか変わった声が聞こえ始めた。
「この声に従って写真を撮っていくから」
「あぁ」
そう言う仕組みなんだ...
そして何枚か声に従って撮影していき、最後の1枚になった。
大分恥ずかしいな、ピースなんて子どもの頃以来してないし、無理に笑顔を作らなければならないし、詩音とは大分密接しなきゃならないし...
うん、もう二度とこの機械で写真は撮らない!
どうやら最後の1枚は自由な感じに撮れという事らしいのだが、
「無月君、こっちを向いてもらえるかしら?」
「え?何で?」
「良いから早くして」
「分かった」
詩音の方を向く意味がよく分からなかったが、僕は言われた通りに詩音の方を向いた、
すると、詩音は自分の腕を僕の首に絡め...
「ん...」
「!」
詩音は僕の唇に自分の唇を重ねてきた...そしてそれと同時にカメラのシャッター音がした。
「な!ふざけんな!」
「あら、別に良いじゃないのキスくらい、減るもんでもないでしょ」
そう言う事を言いたい訳ではないんだよ、僕が言いたいのは何故キスをしてきたのかであって...はぁ、でも反論するだけ無駄か、起きてしまった事に対してとやかく言ってもしょうがない。
その後、僕は詩音にさっき撮ったプリントシールを渡された、そこにはやはり僕と詩音がキスしているものが含まれていた...しかもどの写真もハートやら何やらでセンスよく加工されていた。
「クスッ、ごちそうさま、それと、それ捨てちゃダメだからね」
「...」
もう絶対にプリントシールなんて撮るものか!!
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