第23話 暗証番号の1桁目 1
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今日は休日だったため、日頃の疲れをとるためにいつもよりも少し長めに寝ていようと思い、目覚まし時計の設定時刻をいつもの起きる時刻である7時よりも2時間程伸ばして寝たのだが、唐突に携帯の着信音が鳴り響き、僕は目覚まし時計が鳴るよりも早く目が覚めてしまった。
仕方なく携帯の画面を確認すると、電話をかけて来た相手は詩音だった、本来の予定とは全く異なる起され方をされたが故に大分不機嫌だったため、無視しようとしたが、無視をしても幾度となくかけて来るという事や後々が怖いという事が容易に予想出来たため、僕は電話に応じた。
「何だよ、こんな朝っぱらから電話なんてしてきやがって、そんなに急ぎの用件なのか?」
「ええ、でも無月君にも利のある話なのよ、この位は大目に見て欲しいわね」
僕に利?一体何の話だ?それはこんな朝っぱらから電話をかける事にも意味をなすような内容なのか?
「それで、僕にどんな利があるんだ?」
「暗証番号」
「な!今何て?」
「要するに、無月君はこれから私が言う事を聞いてくれれば、前みたいにご褒美としてだけど、私はあなたの大切なノートが入っている金庫の暗証番号の1桁目を教えてあげる」
確かにこれは僕にとってかなり利ある話だ、しかし何を要求されるか分からないため、危険な賭けでもある。
だが、断るなんて言う選択肢が僕にある訳がない。
「分かった...僕は何をすれば良い?」
「とても簡単な話よ、今日一日、私とデートしてくれれば良いわ」
デート?デートと言われても一体僕は何をすれば良いんだ?全く分からないんだが…
「それで僕はどうすれば良いんだ?」
「だから私と今日一日デートすれば良いって言ってるでしょ!」
「それがよく分からないから聞いてるんだ!一概にデートなんて言われてもその中で一体僕はどうすれば良いか分からないんだよ!」
僕はそんな経験がないため、デートと言うものが一体何をするものなのかまるで知らない、つまりイメージがまるでわかない。
「それなら、デートのプラン自体は私が考えてあるから、無月君は私が言った通りに行動すれば良いだけよ、ね?簡単でしょ?」
「あ、あぁそうだな」
確かに簡単そうに思えるが、詩音のことだ、デートの中でどうせ思いもよらないような要求をしてくるであろう事が目に見えている、特に特質するべき事もなく穏便に事が済むなんていう事はまずないだろうな。
だが、
「分かった、それで僕は何時に何処に居れば良い?」
「物分りが良くて助かるわ、そうね、10時に町の駅前に居てくれれば良いわ」
はぁ、やっぱり詩音の奴、僕が確実に断らないという事を前提で話を進めているな、言葉に皮肉を感じる...それに計画まで立ててあるのだから、これはもう確実だろうな。
まぁこんな事にいちいち腹を立てていてもきりがないし、大人しく従うしかないか...もうなるようにしかならないよな。
「分かった」
「クスッ、ありがとう、それじゃあ10時に会いましょ、またね」
「あぁ」
...さて、支度でもするか、もうじき8時半か、待ち合わせまであと1時間30分以上あるし、ゆっくり支度をしたとしても間に合うな。
あ、花恋にも話さないとな、まぁ友達と遊ぶ約束をしてあるから出掛けるとでも言えば良いか。
このデート、ノートを取り戻すためにも絶対に失敗する訳にはいかない、どんな要求でも出来る限りは受け入れ、必ず暗証番号の1桁目を聞き出さなければならない。
2
その後、僕は着替えた後、出掛けるという事を花恋に話すためにリビングへ向かった。
花恋はいつも早起きをして家の掃除等の家事へ取り組んでおり、本当に花恋には頭が上がらない。
だから僕も精一杯に家事をしようとするのだが、止められ、結局あまりやらせてもらえない。
「あれ、兄さんどうしたの?今日は9時まで寝るんじゃなかったっけ?まだ8時半だけど」
「そのつもりだったんだけどな、僕とした事が友達と遊ぶ約束をすっかり忘れていたようで、友達から今日の事の確認の電話がかかってきてさ、それで思い出して慌てて起きた」
「え?!大丈夫なの?待ち合わせの時間には間に合うの?」
「あぁ、多分大丈夫だと思う」
何とかなったみたいだな、良かった、でもまぁそもそも花恋には僕に彼女が居るなんて事は伝えてないし、変に勘ぐられる心配なんてないか。
「朝食はどうする?」
「ん、良いよ自分で適当に作るよ、急だから花恋に悪いし」
「ねぇ兄さん...忘れちゃったの?食事は花恋が作るって言ったでしょ、それで兄さんも承諾したよね」
あ、そうだった、デートの事に気を取られ過ぎてそこまで気がまわらなかった。
表情こそ明るいいつもの花恋だけど、声には静かな怒りが混じっていて、表情に出ない分、物騒さが増していて正直怖い。
まぁとにかく訂正しないと、
「ごめんな花恋、忘れていた訳じゃないんだが、何せ急な話だし、花恋にも迷惑だと思ってさ」
「大丈夫だよ、そんな心配しなくても、だって花恋が言い出した事だし、それに、花恋が作った物を兄さんが喜んで食べてくれるのが花恋は一番嬉しいんだよ、でも、ありがとう、兄さんは本当に優しいね」
「そんな褒めらる程でもないと思うが、それなら、お願いしようかな」
「うん!急いで作るから少し待っててね」
「分かった」
実の妹にこれ程までに思われていると思うと、兄としはて非常に嬉しい、僕も花恋から尊敬されるような兄を目指さないとな...
よし、なんか大分やる気が湧いて来たな、これも花恋のおかげだな、まぁ本人にそんな気は全くないだろうし、何の事だかもまるで分からないだろうがな。
それでも僕個人としては、花恋に大分勇気づけられた、花恋には感謝しないとな。
たとえ詩音にどんな要求をされたとしても僕は受け入れなければならない、故に危険も大きいが得るものも大きい事は確かだ、かなり不安ではあるが、花恋のおかげでやる気も十分に湧いてきたし、きっと乗り越えられる事だろう。
全てはこれからのために、僕は何としてでもノートを取り返さなけれならない。
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