第22話 嘘による抵抗

真衣の家に行った日の夜、何故か僕は美麗から貰った連絡先に電話をかけていた。


偶然とは言え、今日真衣に自身の秘密に手を掛けられた事により、僕もだいぶ動揺しているのだろう。


本来であれば、もっと上手く振る舞うべきだったのだろうが、あまりにも唐突にあの質問をされたため動揺により反応が少し遅れた挙句、立ち去るかの様に真衣の家を出て来てしまった。


おそらく勘の良い真衣の事だ、確実に僕が何か隠している事に気付いているかもしれない、もしかしたら僕が詩音と付き合う事になった原因である弱味とも関連性がある事にだって気付いている可能性も...真衣はノートの事も詩音の事も知らないだろうが弱味を握られた事により僕が交際する羽目になったという事を知っているからな、そこまで推察されていても真衣なら可笑しくないだろう。


「妾に一体何の用じゃ?無月」


「僕もお前に連絡先渡したんだっけ?」


「いや、無月は連絡先を妾に渡してはおらん、単に妾が渡した連絡先は無月以外は誰も知らんからな、必然的にこの連絡先にかけられるのは無月のみとなる」


確かにそれなら、かけてきた相手が僕である事を特定出来るな。


「それで、一体何用じゃ?何か話したい事があったのであろう?」


「あ、あぁ、別に大した事でもないんだが、もし自分の秘密を誰かに知られそうになったらどう行動すれば良いと思う?」


「ノートの事を彼女以外に知られたのか?」


「いや、そこまでではない、ただ僕が何か隠し事をしている事を知られてしまっただけだ、だが今後、何らかの探りを入れて来るとは思う、頭の良い子だからストレートに聞くなんて真似はしないだろうが、もし探りから僕の知らない内に真実に迫っているとなると」


非常に厄介だ、それはつまりより大きな面倒事への火種となりかねない、真衣の事だ、調べられるだけ調べた後はここぞとばかりにそのカードを切ってくるだろう。


そうなってしまった時、一体どう手をつけたら良いか分からない...だから僕はその事態を回避しなければならない。


「確かに厄介じゃな、それで無月はそれを回避したいと」


「あぁ」


「そうじゃのぉ、質問に対しての返答に多少の嘘を混ぜれば良いのではないか、まるっきり嘘そのものだと相手に不信感を抱かせやすいが、真実と嘘が混ざったものとなると相手もそう簡単には見抜けまい」


成程、確かにそれなら真実へとたどり着くのは決して容易な事ではなくなるだろう。


しかし、


「下手にそれを続けすぎると僕自身も怪我しかねないな」


「そうじゃな、嘘も積もり積もれば大きなものとなろう、そうなってしまえば容易く見抜かれてしまうじゃろうな」


故に長期的には使えない、それをした場合、確実にいつかはボロが出て嘘がバレてしまう。


そんな事になれば真衣の事だ、自分の所持している情報の真偽を全て僕に直接確かめに来る事だろう。


「じゃあ他にはどんな手を打てば良い?」


「質問の返答に混ぜた嘘をあたかも真実かのように話しを進めれば良い、要は演技力じゃ、いかに相手に嘘を真実だと思い込ませるか」


「演技にはあまり自信はないが、確かに有効的かもしれないな」


そうなってくるとあまり下手な嘘はつけないな、自身がいかに上手く立ち回れるかが重要になってくる訳だからな。


真実に近しい嘘であればやり安いだろうが、あまり近過ぎると悟られてしまう可能性もある、だとすると...


「真実をまるっきり違うものに代用するのはどうだろうか?真実の内、重要なキーワードだけを全く別のキーワードに置き換える、それなら自身の考え方は変わらないから嘘だってつきやすい筈だ」


「成程のぉ、じゃが代用するキーワードに関しては注意する事じゃ、何せそれのみが真実を隠す唯一のロックなのじゃから」


分かっているさ、完璧に真実を隠蔽するために僕はそのキーワードのみで真実と全く異なる嘘を作らなければならない。


「さて、話はまとまったかの?」


「あぁ、僕の今後の方向性は決まった、助かったよ美麗、ありがとな」


「礼なんぞいらん、言ったであろう妾は汝の道具じゃと、道具に礼を言う輩が何処におる」


道具か...本当に異質な関係ばかりが僕を取り巻いているな、それでも僕はその中で今は生きなければならない、今だけは...


「だとしても僕は少し変わっているからな、道具にも礼を言うさ、ありがとな、美麗」


「クスッ、そう言う事なら素直に受け取っておくかの」

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