第15話 更なる面倒事との出会い

休日、僕は参考書を買いに出かけた、そして町を歩いている時の事、


「そこのあなた、少しお時間頂けませんこと?」


「...」


「お待ちなさい!」


いきなり見知らぬ女に絡まれた...


「僕ですか?」


「ええ、あなたですわ」


どこか高飛車な感じの印象を受けるこの女に僕はまるで見覚えがないため、僕は敬語で受け答えする事にした、僕は目上の人間や初対面の人間には基本的に敬語で話す。


誰?まるで記憶にない、初対面だよな、僕に限ってナンパされる事など確実にない筈だから、何かの宣伝か。


「はぁ、僕は用があるので、宣伝とかなら他をあたってくれませんかね?」


「な!失礼ね、宣伝じゃありませんわ!」


「え?じゃあ僕に何の用ですか?」


「あなたは選ばれたのです、この私の夫となる男性として」


「は?」


僕はいつからこんなに耳が悪くなったんだ、もし僕の聞いた言葉が正しければナンパどころの話じゃないセリフが聞こえたんだが...


「失礼、今、僕があなたの夫になる男性に選ばれたとかおっしゃいましたか?」


「ええ、あなたは将来的にこの私の夫となり、ともに人生を歩んでゆくのです」


何言ってんだ?夫?僕が?この女の?一体何なんだよ、面倒な事に巻き込まれる気しかしない...第一何故見ず知らずの他人から求婚されなきゃいけないんだよ。


「初対面ですよね?」


「ええ、私もあなたに今日初めて会いましたわ」


「何で初対面の相手を夫にしようなんて言えるんですか?」


「それは私の占いがあなたを示したからですわ、今日の9時30分にこの場所で私の左側を通り過ぎた人物が私の運命の相手になりますの」


「それが僕だったと」


「その通りですわ、それと別に敬語じゃなくても結構ですのよ」


「分かった」


腕時計を確認すると時刻は9時40分で僕がこの女の左側を通り過ぎてから、ちょうど10分が経過した事になるから、おそらく僕は本当に9時30分にこの女の左側を通り過ぎてしまったのだろう...


だとしてもだ、占い?そんなんで運命の相手を決めたって言うのか?僕は占いの事なんて全く知らないから偉く言える立場では無いが、運命の相手まで占いで決めてしまって良いものなのだろうか?


まぁ一番文句を言いたいのは何故その占いが示した相手が僕でなければいけなかったのかと言う事だが...


「申し遅れましたわ、私、<ruby>美麗<rt>みれい</rt></ruby>と申します、気軽に美麗と呼び捨てにして頂いて結構ですわ、あなたのお名前も教えて頂けませんこと?」


「無月だ、僕も別に呼び捨てで構わない」


「分かりましたわ、それでは無月、これから私の自宅に参りましょ」


「ん?何で?」


僕が美麗の自宅に行く必要がどこにあるのだろうか、そもそも僕は参考書を買いに来ただけにすぎないというのに...


「何でではありません!あなたは私の夫となるのですから、まずは我が家の事を知って頂きませんと、さぁ参りましょう」


「ちょっ!待て!僕はそんな事を了承した覚えはないぞ、勝手に話しを進めるな!」


「拒否権なんて最初から無月にはありませんのよ、私の夫として選ばれた以上、きちんと私と結婚して頂きませんと」


なんて身勝手なんだ...冗談じゃない!これ以上面倒事を増やしてたまるか!なんとしてでも断らないと、


「ふざけんな!僕はお前の事を何も知らないんだぞ!それなのにいきなり結婚だの言われて承諾出来る訳ないだろ!それに僕にはお前が自分の運命の相手だなんていう認識なんてないんだぞ!」


「確かに話を少し急ぎ過ぎましたわ、ではまず、お互いの事を知るところから初めましょうか」


「いや、そういう意味じゃなくてだな...」


「そのためにも、やはりまず我が家に来て頂くのが一番だと思うのです、なのでともに我が家へ参りましょう」


駄目だ...またこの話しに戻って来てしまった、どうすれば良い?何故か何を言っても美麗には届かない気がして来た、僕が言った事を全てうまく返されそうだ。


それなら美麗の事をある程度知った上で理由を考えて断るしかないか...はぁ面倒だ。


「分かった、一度お前の家に行く」


「感謝致しますわ、それでは迎えを来させますので、少しだけお待ち下さい」


「分かった」


ん?迎え?誰が?...つまり僕は必然的に美麗に関わる誰かに会う事になるな、美麗の両親とかだったら嫌だな...


あ~どうするか?その人に僕が運命の相手だとか美麗が言ったりしたら、さらに面倒な事になるな、まぁ実質もうどうしようもないのだが、


そういえば、迎えを来させるとか言っていたな、普通、来させるって自分の部下とか下の者に対して言うよな?


「無月、来ましたわよ」


「え?」


美麗がそう言うと、目の前に黒塗りの高級車が停車し、スーツ姿の男が運転席から出て来て車の後部のドアを開けた。


僕は驚きを隠せなかった。


スーツ姿の男の事もそうだが、それ以上に以前に本屋を適当に見て回っていた時にたまたま目にした本にこの車が載っていて、そのページにはこの車がそれこそ、あまりにも規格外過ぎる値段と一緒にそのページの一面を飾っていたからだ。


「この車?」


「何を驚いていらっしゃいますの?早く車に乗って頂けませんこと」


やっぱりこの車なんだ...え~と、まずいな...ひょっとしてこの美麗という人物はいわゆるお嬢様という事だろうか?


「あ、ああ」


「何を躊躇っていらっしゃいますの?良いから早くお乗りなさい!」


「ちょっ!押すな!」


どうしよう、美麗に押されて車に乗ってしまった...


「目的は達成しました、家に戻ります」


美麗が僕の隣に乗った後に車の後部のドアを閉めて、スーツ姿の男は運転席に戻った後に美麗が運転手のスーツ姿の男にそう言うと車は動き出した。


「それでは無月、我が家へと参りましょうか」


「...分かった」


もう、何も言うまい...こうなってしまった以上、僕はこの現状を受け入れる他に何も出来ない。


この先に何があろうと、面倒事だけは絶対に回避してみせる!

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