第14話 彼女と後輩の初衝突 (真衣視点)

1

私が家に帰ろうとしていた時の事、それは唐突に起こりました、ですが、いつかこうなる事をは分かっていましたから予期はしていました。


「私の物の手を出すのは止めてもらえないかしら?」


「...いきなり何の事ですか?私があなたの物に手を出す?私はあなたの事何て全く知りませんが...」


校門にさしかかろうとしていた時、一人の女性が私の背後から話しかけて来ました。


「嘘ね...だってあなたの顔、笑ってるわよ」


「クスッ、私とした事が顔に出てましたか、それじゃあもう取り繕えませんね...詩音さん」


「場所を移しましょ、この時間帯に帰る生徒は少ないけれど、いない訳じゃないもの」


「ええ、そうですね」


時間はもうすぐ日が暮れる頃で、図書室で残念ながら一人で勉強をしていたら、こんな時間になってしまいました。


家の高校の部活動は殆どの所が日が暮れる前に余裕をもって切り上げているため、下校時刻ぎりぎりまではやりません、日が暮れると何かと物騒だから学校側は生徒を早く帰しているのだそうです。


2

そして、私達は部活が切り上げられ、まるで音をたてない体育館の裏へと移動しました、確かにここなら部活動が終了した今の時間、誰かが来るなんて事はまず無いでしょう。


「それで、詩音さんは私に一体どんなご要件がおありなのですか?」


「二度も言わせないでくれるかしら、私の物に手を出すのをやめろって言ったわよね、私」


「はぁ...その私の物って言うのは先輩の事ですか?」


「あら、私もあなたの先輩なのよ」


「フフッ、笑わせないで下さいよ、私にとっての先輩は無月先輩だけで、あなたを先輩と呼ぶつもりは微塵もありませんよ」


そう、私にとっての真に先輩と呼べる人は無月先輩だけであり、それ以外の方を真に私の先輩とは思いません、学内でうまくやるために仕方なく上級生を先輩と呼ぶ事もありますが、正直言ってその度に苦虫を噛み潰したような気になります。


「随分な物言いね、まぁ良いわ、そうよ無月君のこと」


「先輩を私物扱いですか...詩音さんって良い性格してますね」


「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくわ」


褒めてませんよ...本当に読めない人ですね。


「話しを戻しましょ、それでやめてもらえるのかしら?」


「私の答えなんて聞く前から分かっていると思うんですけど...もちろんお断りします」


「でしょうね...私もあんな事さえ起きなければあなたくらい、いくらでも泳がせておくつもりだったのだけどね」


「あんな事?クスッ、詩音さんは本当に良い趣味してますよね、私が先輩にキスしたところ、見てたでしょ?」


そう、詩音さんはあの場にいました、先輩は気づいてなかったみたいですけど...


それに詩音さんがあの場にいたのは決して偶然という訳ではありません、これまでだって何度も私は監視されていて、私が先輩に勉強を教わっている時も殆どそこにはこの人がいました、そして、この人が先輩の彼女なのだと分かりました。


何よりも、私を見る目と先輩を見る目が明らかに違いましたし、私を見る目はどこか鋭さ帯びていて、まるで静かに威圧するかの様な目なのに対し、逆に先輩を見る目は優しく、見守っているかの様でした、この差は歴然ですよね、むしろこれで気づかない訳がありません。


「やっぱり気づいていたのね、じゃあ私があなたを監視していた事も気づかれてるわね」


「そんなの当たり前じゃないですか、それで詩音さんは私をどうするつもり何ですか?」


「...クスッ、さぁて、どうしたものかしらね?」


本当にこの人は何を考えているんだ、目の前に自分の彼氏の唇を奪った女がいるんですよ、なのに何でそんなに冷静でいられるんですか?


それに、この人の前にいると自分がこの人よりも遥かに劣っているかのように思えます...人を見下した様なあの目、冷たい声音、何よりこの状況で今、この人は楽しそうに笑っている、今のさっきまで笑っていたのは私だった筈なのに...


「まさか、何も考えなしに私を呼び止めたんですか?」


「そんな訳ないでしょ」


「じゃあ、早く私をどうするつもりなのか言って下さいよ、もう少しで完全に日が沈んじゃいますから」


「この際だから無月君にあなたとの関係を切るようにお願いしましょうかしら」


「ちょっと待って下さい!」


そんな事されてはたまったものではありません!もしそんな事になればその時の私が何をしでかすか分かりません、何せ今の私は先輩の事を糧に成り立っている様なものですから、その糧がなくなった時、おそらく今の私は消えて別の私が生まれてしまう筈です。


その私が何をするのかなんて、考えたくもありません!きっと先輩に迷惑がかかってしまう...詩音さんにいくら迷惑が襲いかかろうがどうでもいいですが、先輩にだけはかけたくありません!


面倒な後輩でごめんなさい、でも、先輩への思いだけは誰にも負けませんから。


「って思ったけど、やめた」


「え?」


「だってそんな事したら、あなたが何をしでかすか分かったものじゃないもの、だからもう一つの考えにすることにしたのよ、その方が手間じゃないし」


何もかもお見通しっていう事でしょうか、見抜かれていたようですね、ですが、今回ばかりはその頭の良さに救われましたよ。


「もう一つの考えって何ですか?」


「あなたの好きにさせてあげる」


「え?何でですか?だって私の物に手を出すなって自分で言ってたじゃないですか」


自分でそう言ってきておいて、私の好きにさせる?何で?恋人を奪われても良いんですかね?


「確かにそうなのだけど...よく考えてみたら、唇くらいで良い気になってる様な人に私の物が奪える訳ないじゃない」


「...クスッ、言ってくれますね、じゃあ私の好きに動かせて頂きますが、良いんですね?」


「好きにしなさい、それと監視もやめる事にするわ、正直言って、あなたを監視していても全く面白くないもの」


最後のは何故か少し癪に障りますが、監視がなくなるとなると、格段にこれまで以上に動きやすくなりますね。


そして何よりも、こうなった以上は私を自由にさせた事を絶対に後悔させてあげますよ。


「それじゃあ、私はそろそろ失礼させて頂いてよろしいでしょうか?」


「ええ、良いわよ、もう遅いから気を付けて帰りなさい」


「お気遣い、ありがとうございます、それでは詩音さんも気を付けて下さいね♪色々と♪」


「余計なお世話よ」


先輩は誰にも渡さない、私が何としてでも手に入れてみせます。

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