第2話 邂逅

 俺が混乱していると長身の男は語りだした。

「俺の名前は真人まひと。俺の先祖は鬼に救われたんだ。」

「鬼に救われた?」

 俺が復唱するように言葉を返すと真人は語り続ける。

「昔話の『鬼は内』を知ってるか?妻子に先立たれた孤独な男がやけになって節分に『鬼は内』と言いながら豆まきしたら、鬼達がやってきて宴会をして来年も来ると言って帰っていく。男は誰かに必要とされたことに救われて立ち直る話だ。その男が俺のご先祖様って訳だ。」

 そんな昔話は確かに聞いたことがある。あれ?確か俺の知ってる話は老人だったよな。で、この真人が子孫か。…つまり再婚して子供が出来た訳か、元気な老人だな、おい。

「なるほど、俺は輝人てると。」

「輝人か、よろしくな。ゆっくり語りたいところだが…。」

 その時、探査ドローンの『ONI発見、ONI発見』と言う声が聞こえてきた。

「チッ、嗅ぎ付けるの早えな。」

 真人はそういうと背中の刀を素早く抜き、ドローン切りつける。ドローンはショートしたとわかる音とスパークを出しながら真っ二つに割れて落ちた。って、何だ、今の速さは。真人が刀を抜いたと思った瞬間にドローンが割れていた。本当に一瞬だった。

「探査ドローンが嗅ぎ付けた以上はここも危険だな。ずらかるぜ。」

 刀を背中にしまいながら真人はニヤリと笑った。

「ずらかるってどこへだよ。ODと認識された瞬間から市民権を剥奪され、IDカードも凍結されている。IDカードが使えなければ国外の脱出はおろか、コンビニで買い物すらおぼつかない。」

 そう、ODと認定されるとまずライフラインが閉ざされる。潜伏していたときは偽造カードと外に出る必要の無い通販でどうにかしのいでいたが、ハンターの急襲でカードは持ち出せなかった。

「だから、俺のコーヒーひったくったんだよな。」

「それは本当に済まない。」

 そうでもしないと食糧にありつけないのだ。追手が増えるとわかっていても渇きには抗えない。

「ま、行き先はあるさ。鬼ヶ島へ。」

 鬼ヶ島だと?!あれこそおとぎ話の世界じゃないか。馬鹿馬鹿しい。

「真人、お前正気か?」

「違げぇよ。“鬼ヶ島”は言わばコードネーム。お前と同じODが逃げ延びている場所だ。そこで“OD解放運動”のレジスタンスも行っている。」

 コードネーム?OD解放運動?事態が急展開過ぎるが、どちらにしてもこの国には俺の居場所は無い。この真人に賭けて“鬼ヶ島”へ向かおう。

「わかった、真人。君の言うことを信じて鬼ヶ島へ向かうよ。」

「飲み込みが早くて助かるぜ。ところでお前は車の運転できるよな。」

「ああ、IDカード凍結前は乗っていた。ブランクはあるが大丈夫だ。」

「よし、お前に運転任せる。IDカードは俺のを使え。車のところまで走るぞ。MSSは変装してもODを見抜くから分析される前に駆け抜けるしかないからな。」

 そう、MSSはカメラの画像から人を人物を特定および分析をし、警察などに通報される仕組みとなっている。ただ、分析スピードが数秒かかるため、それより前に移動すればギリギリなんとかなる。

 俺達は車に向かって駆け出した。

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