SETSUBUN
達見ゆう
第1話 逃走
「あ~!泥棒!俺のコーヒー返せよ!」
コンビニの出口にてひったくりが発生した瞬間、警報が響き、ドローンが飛び立っていった。
「ちっくしょう!待て!…あいつ、今逃走中のODか。こんなことしたら追手増えるだけなのに馬鹿だな。」
ひったくられた男は逃げた男を追跡し始めた。
どのくらい走り回ったのだろう、俺は路地裏をでたらめに走って逃げていた。頭上には複数のドローンが飛び、『ONI逃走中、ONI逃走中』と機械的な音声を流している。パトカーと思しきサイレンは響き、時折『ONIがこの付近にいます!直ちに避難してください!』とスピーカーからノイズ混じりに聞こえる。
俺の左手には先ほど被弾した豆が砕けて残っており、チリチリと焦げ臭い匂いがする。
「チッ!」
俺は慌てて払いのける。人間にはただの豆でも、俺たち鬼の血を引く者にとってはこの福豆はダメージを与えるものだ。触れただけでも相当痛むのに、それがマシンガンで放たれた時点で俺たち鬼、いや「ONI DNA保持者」にとってのダメージは計り知れない。
「ちくしょう…。」俺はコンビニから出てきた男からひったくったコーヒーを飲みながら、独り毒づいた。
時は20××年、おとぎ話の中だけと思われていた鬼の存在が発覚した。鬼の血を引く末裔がひっそりと暮らしていたのだが、一年ほど前に稼働した医療監視システム『Medical Surveillance System 』略してMSSによるDNA解析が進み、人間ではあり得ないDNAを持つ者が露見してしまった。人々はそれを『ONI DNA』と呼んだ。そのままローマ字にしただけじゃねえか、ダサいセンスだ。
数百年前までは鬼が存在していたが、人間との交雑が進み鬼の血は薄れたらしい。だから俺の先祖には何代前か知らないが、鬼がいたと言うことだろう。
しかし、頭の角や肌の色など外見的な特徴が無くてもひとたび「ONI DNA保持者」とMSSに認定されれば、“狩られる側”へと変わる。害はなくても異端者は狩られるのだ、いつの時代も。
街からは次々と
俺も家族共々潜伏していたが、ハンターに見つかってしまった。そう、この日は2月3日。年に一度、大々的にハンターがODを狩る日『節分』だ。この日に狩ると賞金が倍になるとのことで、いつになくハンターが血眼になって狩りにくる。
俺はたまたま裏庭へ物を取りに出ていたため無事だった。表の騒ぎでハンターの襲撃を悟った俺は密かに掘っていた脱出通路を通り逃げ出した。
両親や弟妹は恐らくハンターに連れ去られて、生きてはいないだろう。
だが、悲しみに暮れる前に俺は逃げなくてはならない。
しかし、空にはOD探索用のドローンが飛び、監視カメラはありとあらゆる所に設置されている。
それらが無さそうな路地裏を選び、俺は走り疲れてつかの間の休息をとっていた。
「おいおい、こんな所コーヒータイムか?返せよ、ひったくり野郎。」
振り向くとさっきコンビニ出口で俺がひったくったドリンクの元の持ち主がいた。俺と同じくらいの長身にがっしりした体、黒の革ジャンに刀を携えている。
刀!まさかハンターか?!大抵のハンターは銃に
俺は思わず身体を構える。しかし、ODとはいえ、身体的特長もなければ身体能力も人並みだ。構えたところでどうしようもない。
「悪かったよ。」
反抗する意思はないことを証明するために両手を上げる。
「左手の火傷…福豆の影響か。ふん、やはりお前ODか。ちょうどいい。」
やはりハンターか、俺は観念しかけた時、予想外の台詞を男は言った。
「安心しろ、俺は鬼の味方だ。人間であるがな。」
なんだと?人間なのに鬼の味方?俺は混乱してしまった。
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