16-新たなる決意

さてこれで問題点は解ったと思う。今日は中華の気分だったらしく、熱々の麻婆豆腐、青椒肉絲(チンジャオロウスー)にわかめのスープだった。いつでも腹はいっぱいにしておけというのが桜田家の家訓らしく(こうすけが作った)


大事な話でもご飯を食べながら進めていた。

絵里はうーとうなだれている。これで戦い始めてから2敗目、しかも自分の戦闘スタイルに合わせて戦ったと言われたので彼女には手を抜かれたように感じた。


そんな絵里にフブキは明るく励ました。

「落ち込むなって、絵里姉ちゃん。絵里姉ちゃんは悪くねえ。ありゃあのペンダントのシステムの問題だよ」


かなり落ち込んでいた絵里がシステム?と返した。


「うん、ペンダントにAIによる自動戦闘システムが付いているね。それが絵里ちゃんの邪魔になってるよ」と魔道端末ターミナルの設計開発をプロレベルで行えるまもるも同意した。


「本来はこの手のシステムは魔力仕掛けで動く警備用のロボットに付けたりするの女王は何を考えているのかしら。絵里ちゃんの才能の無駄遣いもいいとこだわ」

かがりはキレていた。母性本能が強いため、絵里の戦うための剣ともいえる魔道端末ターミナルが欠陥品とも言える仕様になっていたのだ。普段クールなだけに鬼の形相になっていた。


家族全員が絵里の状況に憤慨しているのを感じて絵里は涙を浮かべてしまった。何て暖かい人達だろう。会ったばかりの私をこんな風に思っているなんて


こうすけがそれを見て

「そういうわけだからそのペンダントちょっと預からせてもらっていいか?」


絵里はえっとこうすけを見た。こうすけは何もいってなかったが強い決意を持って絵里を見つめた。


「親父は魔道端末ターミナルの機体そのものの専門家だ。趣味でやっているが工場用の改造を研究室ラボに入れてで研究しているし俺はプログラミングが出来るからこの邪魔な自動戦闘システムを解除してよりお前にあった機体に仕上げてやる。」


「それから一から基本的なところから徹底的に鍛え直してやる。まずは当分お前の騎士ナイトスタイルに合わせた戦い方をするから、体で覚えろ。俺が昔騎士団で教わった基本的オーソドックスな戦い方をまずは真似てみろ。どこでもそれなりに通用するスタイルだ。自分のスタイルを作っていくのはそれからだ。」


「絵里の属性は白と赤だ。だからふぶきお前は赤の属性の魔法のトレーニングを、親父は白の属性の魔法のトレーニングを頼む」


解ったと二人はうなずいた。

「母さんは対遠距離での戦いを教えてやってくれ、絵里の素質なら会得するのはそう難しくない」


「了解」とカガリは笑顔でうなずいた。


あれよあれよと話が進み絵里はおろおろしてしまったが、この人達は本当に自分のために何の得にもならないのに全力で彼女に協力しようとしている。そのことが何よりも嬉しかった。


帰りはこうすけがバイクで絵里を送っていくのが恒例になっていた。何て楽しい家だろう。血は繋がって無くて、みんな国籍もバラバラでこれまでの環境もまるで違ったのにすごく暖かい。帰りはみんなで送りだしてくれた。


バイクに乗りながら、絵里はこうすけに今日感じた、いくつかの疑問を聞いた。

「あのー」と大きな声を出すと

「わ、いきなり大声を出すなよ。びっくりするだろ。ヘルメットにマイク付けてるから普通の声でも聞こえるよ」


「いろいろ疑問に思ったことがあるんですけどまず一つが最初にこうすけさんが私とであったときの姿と、こうすけさんの今日の姿違いましたし」

「何となく動きというか戦い方みたいのが全然違ったような。この間のは身軽な格好で素早く動いてく感じだったけど、今日は正面からぶつかっていくスタイルだったのでちょっと気になったんですけど。」


絵里の疑問に「カンがいいねえ」と苦笑する。バイクを止めて近くの公園に止めた。

「ちょっと休んでいって良い?缶コーヒーでも奢るよと自販機で缶コーヒー買ってきて」


コーヒーを飲みながら二人を空を見上げる。雲一つなく晴れていて星が瞬いている。

「さっきの質問なんだけどね、まあこの間ゴブリンと戦ったときの姿が

今の俺本来のスタイルでね、殺し屋(アサシン)スタイルっていうんだ」

「殺し屋(アサシン)?」


「そ、昔は俺も真っ当な騎士だった。ただいろいろあって落ちるに落ちて汚れ仕事ばっかりする殺し屋になりさがった。」


「子供のころ俺は正義の味方になりたかった。俺の出身地のイギリスではアーサー王伝説を始め、騎士道を重んじる国でね。俺はそんな騎士になって眼に映る全てを助ける、あのブリテンの国を守り続けた円卓の騎士みたいになりたかった。」


「魔法学院から魔道騎士団候補生になったが、ここで壁にぶつかった。俺は魔法学院では優秀な成績を取れたし、自信を持っていた。しかし騎士団候補生のクラスに入って自分がいかに身の程しらずだったか思い知らされた。落ちこぼれではなかったが平凡な実力で候補生の中でもぱっとしなかった。」


「その後騎士団候補生史上最悪の事件を犯してから俺の人生は転落した。自分の価値観では正しいと思ったことが世間から見れば悪の行為だった」

「それから俺は自分が行き残るために人を殺した。」


こうすけの顔が苦痛に満ちていた。絵里は彼の過去をあばきたいと思っていなかったのに大切な恩人にこんな顔をさせるのが辛かった。でもこれはこうすけの告解だった。だからここまで踏み込んだのなら最後まで聞かなくてはと思った。


「新しい仲間が出来た後いくつもの悪事を重ねて人を殺し続けた。やがて自分たちの居場所が奪われそうになると仲間をも殺して許しを請いた」


「そして今では国のいぬとなり人を魔物を殺し続けてる。どんな汚い手でも使っても対象を殺し続ける存在ものとなった」


「他のみんなも大体同じようなもんだろう。何かしらで人を死なせて、落ちるところまで落ちた。」


「なあ・・・神崎俺達はお前に協力するけどいいのか。お前の目指す正義の味方とは違った方向にしかいけないかもしれないぜ。それに正義の味方はその場所にたどり着こうと思えば思うほど奈落に落ちていく地獄の道だぜ。それでもお前はこの道を進む覚悟が出来ているか?」


絵里は眼を閉じて考える。隣にいる人に答えなきゃならない。彼らの家族に示しがつくような言葉を出さなきゃいけない

ならどうすればいい。いい加減な言葉じゃ駄目だ。自分の言葉で自分の決心を

語らなきゃいけない


「私は今幸せです。今までも幸せでした。パパ、ママ、親戚のおばさん、おばあちゃん、ともに施設で過ごした仲間たち、施設の職員、教会に通って居た時にお世話になったシスターたくさんの人に恵まれてきた」

「全く縁のない国で出会ったクラスメートとこうすけさん達、全ての出会いが私に幸せをくれた。ここにいてもいいんだって思った。だから私が正義の味方になりたい理由なんて単純なんです。」


「ただそのみんなの笑顔を守りたい。それが私の正義の味方なんですから」


彼女は世界の正義の味方であることを否定した。ほんの身近な存在だけ守れればいいなんて正義の味方としてゃ規模が小さすぎる。ただ彼女はしっていた。人一人を救うのがどんなに大変かをだから守る範囲がとてもちいさなヒーローを目指したいといった彼女をばかにしなかった。


たったこれだけで良かったのだとこうすけは目の前の彼女の姿に泣きそうになる。本当にまばゆくて切ない光。今はとても小さな光だけど今後はとても大きな月のような光になるだろう。ちょうど今夜は本当に星々が綺麗だった。


その星の光はこれから険しい道を歩いていく少女を照らしていた


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