12ー話の後で

絵里はこれまでの話を終えて一息つく。すでにテーブルの上の夕食は片付いており。部屋の中には静けさが・・というわけには行かなかった。


この場に絵里以外の四人が号泣していた。

「こんな、こんなことってあるかよ」金髪の少年が

「ひどい、ひどすぎる」はげた中年のおっさんが

「許せないわ、まじこんなの許せない」クールビューティーなお姉さんが


すさまじく号泣していた。

きっちんでお皿を洗っていたこうすけでさえ涙を抑えきれないようだ。


空気が重くなることを覚悟していた絵里だったがここまでのことになると思って居なかった。彼らは予想以上にピュアだったのだ


「お姉さん、辛かったでしょ。」

「本当に君は辛い中良くやったねえ。偉いよ」

「うーーー何て想像以上に苦しいお話だったのかしら正義の味方うんぬんの話を聞いた時はどう対処したもんかと思ったけど、ちゃかすにちゃかせない話になって来たわ」


「だ・・大丈夫ですよ。」

と絵里がいっても口々に励まされる。どうやらすっかり感情移入してしまったようだ。


結局、この空気が戻るのに小一時間かかった。

この時点で深夜2時である。絵里は拘束を思いっきり破って、このアパートに来たので今夜は絵里を学校の寮まで送ることにした。


当面の方向性として桜田家は神崎絵里をサポートすることになった。

彼女は勇者としてあまりにも未熟で教えなくちゃいけないことが沢山あり、

今回も桜田幸助が助けなかったらその時点で世界大戦は終り、人類は世界にマナが溜まるまで過酷な生活を強いられるだろう。最悪資源をめぐっての人間同士の戦争に発展しかねない


それに何より絵里が戦士として未熟なため前線で戦えるようにしようと桜田家で話し合った結果、彼女を交代で知識と戦士とスキルを身に付けようという方針になった。


ニルスにあるアパート、さくらだファミリアからキャメロット学院はバイクで30分くらいの距離だったので、こうすけが絵里を寮まで送ることになった。


「絶対に彼女に変なことしちゃだめだよ」といったみんなの声に

「やらねえよ」と不愛想にこうすけは答えた


「さあ行くぞっと」、こうすけは絵里にヘルメットを渡した。


バイクで発信した道すがらこうすけは

「悪いな、うるさい家族で」

とぶっきらぼうに絵里に話しかけた。


「いえ、そんなことないです。」

絵里は笑顔で返す。今まで同情されたことはあった、憐れまれたこともあった、気持ち悪がわれたこともあった。でもあれだけ感情移入して話を聴いてもらったも初めてだったし、あれだけ感情を爆発させられたこともなかった。


「不思議に思ったんですけどこうすけさんとふぶきさんは学生だし」

「まもるさんとカガリさんも仕事をもっているのにどうして魔導士としての仕事をしなくちゃならないんですか。」


最大の疑問点に絵里はストレートに質問する。


こうすけは汗をだらだらかいていた。彼女の質問はこうすけ。いやこうすけ達さくらだファミリアという家族であり仕事をするグループである彼らにとって最大のタブーなら


彼女が目指すもの、それが正義の味方なら彼女にとってこうすけ達は彼女の・・・

そんな幸助の様子を見かねた、絵里は


「すいません・・変なこと聞いちゃってこうすけさん達だって事情がありますよね」と深く彼の中に入るのを辞めた


それはそれでとこうすけは思った。自分の辛い過去も思いも全て彼女は話したのに自分は世の中にとって最悪な存在で話すのがためらわれた。


それでも彼女は自分たちを信頼してくれている。ならば

沈黙が数分間続いた。


ゆっくりこうすけの口が開く

「そのうち・・」

「え」


「お前が言う通り俺たちいろいろあって簡単に話せないことじゃないんだ。さっきの質問は。」

「そう・・ですよね」


「それでもさ。いつか必ず話すから、約束だから。それだけは絶対だから」

精一杯の誠意を込めた声


「はい」

彼女はありったけの笑顔で答えた。なんて優しい人達なんだろう。誰もが今日会ったばかりの私を心配してくれて、信頼してくれて。助けようとしてくれて


彼女は人に頼るのが昔から下手だった。人に寄り添うのが下手だった。自分がいれば自分がまき散らす不幸に巻き込まれるから


でもこうすけと別れ際に今までに感じたことの無いくらい暖かいものを感じた。




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