4-勇者とアサシン

「きゃあー」


 夜中に大きな声が響いた。キャメロットにある高校の生徒が異形の怪物から逃げていた。ゴブリンといわれる棍棒を持った魔物が女子高生に襲い掛かる。

魔物に初めて遭遇した彼女は恐怖に耐えられず転んでしまった。


「シャー」

彼女に棍棒が降り降ろされる瞬間思わず目をつぶる。

がきんと金属音がなっただけで体は無事だった。


「大丈夫ですか?」

目の前には天使のような姿の少女がその体の倍はある棍棒を剣で受け止めていた。

「この場は私がなんとかするから」


「ありがとう。あなたはいったい?」


少女は少し微笑みながら

「正義の味方の見習いです」


少女は一旦前に出てゴブリンに攻撃する。

「さあ早くにげて」

「ありがとう。今度会えたら必ずお礼するから」


彼女が逃げたのを確認すると天使のような形をした少女から炎が立ち上る。

さっきはまだ本気ではなかった。巻き添えを恐れるため全力を出せなかったが

ここから彼女の戦いが始まる。


「炎の精霊よ、我が手に炎よ、集い来たれ、敵を貫け」

「ヴァンアロー」


少女の前方に赤い魔法陣が出て五本の矢が射出される。しかし

「シャー」

あっさりと躱される。剣での攻撃も棍棒で受け止められ打ち合いには不利だった。


大きな魔法を使えばこのあたりの民家を撒きこんでしまうため、比較的低ランクの魔法で攻撃しているが全く当たらない。


「ぐっ」思わず唇をかむ

こんなんじゃ誰一人守れない。そんな思いが彼女の頭をよぎった瞬間

ゴブリンの棍棒が彼女の体を吹き飛ばした。


壁に思いっきり叩きつけられる。

「ごふ・・」痛い。初めての痛みで胃の中のものが逆流しそうだ。だが諦めるわけには行かない。壁に背中を預けて魔法を打ちだす

「ファイアブレス」


普通に打てば敵を倒した後その余波で目の前にある光景全てを灰に出来る魔法だが

ほぼゼロ距離で撃った。熱の光線がゴブリンに直撃してゴブリンは倒れた。


「やった」

ダメージで体が動かない少女は壁に背を預けたまま勝利を確信した。が


「ぐぉー」

炎に焼かれながら魔物は立っていた。ダメージを負っているがまだ動ける

対して少女は満身創痍だ。


「殺される」

その時少女が感じたのは恐怖じゃない。この戦いを挑んだ相手への憎しみでもない

ただやっと始めたことなのに。こんなところで終わるのかといった無念だ。


コツコツ

足音が響いている。ゴブリンの注意が少女からそちらに向かう。少女も思わずこちらに顔を向ける。比較的人通りの少ない道に靴音が響く


「何ていうか、勘弁して欲しいよな。確かこの辺にいるはずなんだが」

呑気な声が通りに響く


黒い眼鏡、黒い長そで、黒いズボン。全身黒ずくめの男はほとんど不審者に近い。

月に照らされて彼の姿が見えた。


それは彼女にとって見知った顔だった。だからせめて彼だけは逃がさないと思い

「逃げて、こうすけさん。できるだけ遠くへ」


自分の正体がばれるかもしれないリスクを忘れて思わずクラスメートの彼に叫んだ

だが彼は逃げない。まずゴブリンを視て、少女を視て


「よう、神崎じゃん何してるのお前」なんてのんきな言葉を吐いた。


「え、この姿なら私だと解らないはずなのにどうして」

この場はすぐに彼を逃がすのが最優先事項なのに思わず、自分の疑問を優先してしまった。


「ああ、魔導士ならね。認識をごまかす魔法なんて通用しないのさ。その程度の魔法じゃ素人はごまかせても魔導士プロはごまかせない」


「さて夜になってから急に入った仕事だが、丁度みつかったんでラッキーだ。このままだと町中を歩き回らなきゃいけないところだった」


絵里が

「あのさっきから何を、もしかして私を見つけに来たんですか?」

と尋ねると


こうすけが答える

「ああ、あんたを探して来いって命令が来てね。報酬をはずむといわれたがこんなことになってるとは思わなかった。こりゃ報酬を上乗せするべきかな」


二人が話している間にゴブリンの傷がどんどん回復していく

「ふむさすが魔物いやあ初っ端からゴブリンはきつかったね。初心者の魔法使いじゃこいつの相手はちと荷が重い。どれお前を助けてやるよ。それもタダでだ」


舐められていると思ったのかゴブリンはこうすけのもとに一直線に突っ込んできた。

「駄目です。こうすけさんせめて二人で」


「まあ見てろって魔導士プロの力見せてやるよ」

腰にぶら下げたタブレットの形をした機械のスイッチを入れる。


その瞬間彼の衣装ががらりと変わる。黒を基調とした格好だがノースリーブのシャツに外套を着て両手に二本の黒い剣。その姿は暗殺者を連想させた


「さあ、来るなら来いよぶたやろう

その挑発に乗ったのかこうすけにまっすぐ突っ込んできた。二人が交差した途端ゴブリンの両腕は地面に転がっていた。しかもゴブリンが動く前に彼の口が動く


「命に植えて光を貪る死神よ、いまここに来たれ、彼のものを喰らい破壊せよ」

「ブラストアッシュ」


黒いとげの球体は両手を失ったゴブリンをバラバラに引き裂いた。

引き裂かれたゴブリンは赤く光り消えていった。

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