3-校内案内

その日の授業が終わった後、絵里はジャスティン先生から話しかけられた。

「神崎さん、学校内の施設を見てもらいたいんだが、あいにく私は職員会議なので私が案内することが出来ないんだ。だから委員長に君を案内してもらうんだけれどもいいかな?」


 いいも何もまだこの学校の事は解らないし、そういえクラス委員の副委員長の子はお昼休みに話をしたが委員長の子とは話をしたことがない。というよりお昼休みに質問攻めに合い、いろいろな話をしたが話題にさえでなかったのだ。


「そういうわけで桜田君お願いできるかな?」


ゆらりと立ちあがる少年がいた。

「はあ、俺で良ければ」


 絵里は彼の存在に今まで気づかなかったのでどきりとした。黒ぶち眼鏡に黒い髪。顔立ちは整っているものの全てが無造作な感じで寝起きの姿で学校に来たような印象を受けた。かといって地味な印象をまるで受けないのにその風景に溶け込んでいるような感覚を受けた。一言で表せば気配がない、それが絵里から見た彼の第一印象だった。


「いいなあ桜田俺がやりたいよ」「私もー」なんて声が聞こえてきたがその声を無視して

「じゃあ、神崎だっけ行くぞ」と短く告げて教室を出て行ってしまった。

あわてて絵里が追いかけようとしたところでクラスメイト声をかけられる。


「急がなくても大丈夫だよ。あいつ教室出た先でまってるだろうから」

「あいつひねくれてるけど根はいいやつだから」


「はあ」と相槌を打ちながら絵里は教室を出ていった。


教室を出ると本当に彼は待っていた。放課後の夕日を見ながらぼんやりしている。

絵里の姿を見るとくるりとターンしてゆっくりと歩きだした。


絵里は一つ気になったことを聞いてみたみた。

「あの桜田さんの下の名前ってなんていうんですか?」

「こうすけ。桜田幸助」

思ったより低い声の人だなあと思った。それに少々絡みづらい。俺に話しかけるなというオーラを出している。


幸助の案内に無駄はない。必要最低限しか喋らないというわけでなくここに気をつけた方がいいとか、状況に応じた説明がとにかく丁寧だ。


気になるとすればやりかたが仕事をしている人間の様だと絵里は感じた。

つい気になって尋ねる。


「あの桜田さんは」「こうすけでいいよ。日本人の名前なんて珍しいからクラスじゃこれで通ってる」


「あのこうすけさんも日本からこの学校にきたんですか?」

その質問にちょっと考えて、「いや、ちょっとわけあって日本人の名前を名乗っているんであって俺はあんたと違って日本人じゃないよ」


絵里はその答えにちょっと混乱する。幸助はその姿を見て素直だなと感じた。


学校案内が終わり、最後に職員室に向かった。

「後はジャスティン先生が寮に案内してくれるよ。さすがに男の俺はそこまでいけないからね。」

「はい、ありがとうございました。こうすけさん」


「なんつうか、気真面目なやつだなあんた。クラスメートにも敬語だし。人の名前にはさんづけだし、」


「変でしょうか」


「ああ、なんつうか日本の漫画とかに出てくるヤマトナデシコって奴みたいだ。こう一歩下がってみるっていう。」


「こうすけさんそれは死語だと思います。最近の女の子はそんな旧時代の人みたいな人はいないと思います」


「へーそうかい」


話が弾む。初めにとっつきにくいかもしれないなと思った絵里の印象は吹っ飛んだ

ただこの人は照れ屋で素直じゃないだけで本当は

そんな風に絵里が考えたところでジャスティン先生が職員室から出てきた。


「やあお疲れさま桜田君。どうだい神崎さんうちの学校は」

「すごく楽しそうだなと思い増した。こうすけさんに部活の案内もしてもらって」


「桜田君は口は悪いけどとても親切で慕われているからね。じゃあ桜田君今日はありがとうお疲れさま」


こうすけはいつもの眠そうな表情に戻り

「これで任務完了ですね。じゃあ俺帰ります。さようならー」と教師と話すにはあまりにも軽薄な言葉をかけて帰っていった


絵里は思わず

「なんかこうすけさんってわざと悪ぶってるって言うか偽悪気味というか」

本当はとてもいい人なのにと感じていたのもあって彼を擁護する言葉が出た。


「そうなんだよ、成績も上位ランクで後は口の悪ささえなければ文句なしだが思春期の少年だし致し方ないだろう。それに」

「それに?」


「いや生徒個人の事情を勝手にもらすわけにはいかないな。それに彼はだからね」

「特別ですか?」


「ああいや何でもない。それより下校時刻だ。寮まで送ろう」

「はあ、わかりました」


少し疑問を感じたが絵里自身事情があってこの学園に入学してきた。人の事を詮索するべきではないと感じ。ジャスティン先生の後を追いかけた。


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