第3話 異世界転移

 ある日の教室移動の際のこと。欠伸をかみ殺して廊下を歩く楓を見咎めるクラスメイトがいた。ネトゲ仲間の久保将幸だ。高橋翔子がオンラインゲームの野良パーティで意気投合してフレンド登録したところ、後に同級生であることが判明したのが彼だ。以来、固定パーティの面子として楓とも夜な夜なレベル上げやクエスト消化に勤しんでいる。

「お疲れだな」

「部活の朝練あったからね」

「ゲームやりすぎじゃね? ちゃんと寝てんのか? こないだもレイド戦ん時寝落ちしてたよな。ギルドの新規連中、裏チャットで文句ぶーぶーだったぞ。ギルマスや古参たちが宥めて、なんとか収めてたが」

 翔子に誘われて遊び始めたММORPG『最果て遺跡オンライン』。前世の知識を想起させるいくつかの用語に興味をひかれたのもあるが、この頃娯楽に対して貪欲だった楓は、ものの見事にこのゲームにはまっていた。

「まぁ返す言葉もないわ」

 凝り性な性格を前世から引き継いでいるという自覚は割とある。前世では徒手空拳の戦災孤児から、剣技を磨き、六次元魔法たる魔術を修めてゼラール帝国近衛騎士団長にまで上り詰めたのだ。

「痛っ!」

 図書室前にさしかかったあたりで、楓が左眼を押さえてしゃがみこむ。目の奥に疼痛を感じたのだ。

「おい、どうした急に」

「なんか、いきなり目の奥がうずいて」

 将幸が困惑顔でのぞき込んでくる。

「……ええと、中学二年生あたりが罹患する的なやつか? お前さんのキャラじゃなかろうに」

「馬鹿。マジで痛いんだって」

「おいおい、それあかんやつじゃねえの? 医者に診せたほういいぞ」


 そんな一幕があった日の放課後。部活終了後、忘れ物を取りに教室へ寄ろうと廊下を歩いていた楓。図書室の前にさしかかってガラス張りの壁越しに見やると誰もいない。カウンター当番の図書委員も席をはずしているようだった。やや逡巡してから図書室に入り、あの本を探しはじめた。何故か無性に関心がかきたてられるのだ。前世であれば、精神作用の罠を疑ったかもしれない。もっともその魔法知識の影響で、啓示や第六感といったものに寛容な楓であった。

(なんだろう。あの本気になって仕方ないわ)

 せんだって見つけたあの本には、おそらくなにか秘密がある。魔力が希薄なこの世界において、あれだけ異質な存在感を放っていたのだ。

(たしかこの辺だったはず……あった)

 相変わらず幽かな魔力を漂わす謎の本。楓は謎本を手に取って慎重に頁を捲っていった。『パワースポット《神社》~この世と異世界をつなぐ特異点~』――なんの変哲もない、よくあるノンフィクションらしき書籍。なにがきっかけとなったのかは分からない。突如楓の足元に展開された光の魔法陣。

「え? ちょ――」

 乱舞する燐光を残して楓の姿がかき消えた。



 ――何が起きた? ここはどこ?

「こいつは驚いた。よもやリュストガルト以外から転移門を開く者がいるとはね。何千年ぶりのことか」

 楓の意識を混濁の海から引っ張り上げたのはその澄んだ声だった。言葉の意味は理解できる。が、転生以来耳に馴染んだ日本語ではなかった。やや古めかしい感じはしたものの、前世の懐かしいゼラール語で間違いない。

 焦点を結ぶ視線が一人の女を捉えた。地球世界で十六年間磨かれた楓の価値観からしても、きわめて端麗な容姿。そしてあまりに特徴的な長い尖り耳。

「エルフ……」

「いかにも私はエルフ族。よくぞ看破したものだ。君の故郷にはエルフなどいないだろうに」

 地球世界の古今の創作物にエルフ像が氾濫していることについては、この際黙秘。

「ちょっと、あの……あたし今絶賛混乱中でして。落ち着く時間を頂けるとありがたいです」

 ブランク十数年のぎこちないゼラール語でそう言ってみた。

「かまわんよ。しかし異世界人ながらもリュストガルトの言語を難なく操るか。さすがはこの地に至るだけはある。さしずめ君も、さぞかし複雑怪奇な道程を歩んできたのだろうが、なに、詳らかには聞くまい。私は空気が読めるのでね」

 折しもエルフ女の傍らに転移してきた者がある。一瞬身構えた楓は溜息をついて肩の力を抜いた。有り体に言って対峙する彼等の存在感にのまれたのだ。どう考えても楓の手におえる相手でないことは明白だ。

『闖入者殿が目覚めたようだの。この時節に有資格者が現れるなど、まさに天の配剤じゃて』

 後から転移してきた白ローブの人物が、念話で語りかけてきた。わずかに覗くローブの隙間に人の姿はなく、黒い靄のようなものが揺らめいていた。

『早速だがお客人。貴殿を我等観星ギルドの一員として迎えたいのだが。この勧誘受けてもらえぬものか』

「観星ギルド? 何ですかそれ」

 藪から棒に何を言い出すのか、この不思議生命体は。

『貴殿の属しておった文明風に呼び做さば、我等の同業者による業界団体といったところかの』

 観星ギルド……天文愛好家の同好会とかだろうか?

「君の潜在魔力に反応した転移門はな、観星ギルドへ加盟する資格ある者をのみ召喚するよう術理が組まれていたんだ。有資格者は非常に稀有な存在でね。千年に一人現れるかどうかといったところなんだよ」

 楓は暫時考え込んでからエルフ女と白ローブに問うた。

「そのギルドとやらに入るとどうなるんです?」

『我等両名の代わりにギルドの遺産を管理してもらうことになるの。我等は間もなく休眠期に入らねばならぬ』

「管理と言っても煩瑣なことはさほどないかと思う。歴代ギルド員たちの造ったホムンクルスたちが大勢いて、管理業務に従事しているから。君は基本自由に暮らしてもらっていい。ただ在るだけで、星の核に君の魔力が供給されるようになるからな」

 魔力を常時吸い取られるとか、健康に悪そうな印象しかないが。白ローブの靄氏がそんな楓の心を読んだようで、考察を述べた。

『そう懸念することもあるまいて。自覚がないようだが、貴殿の魔力量はちょっとしたものだ。なにせ、これこうして我等ギルドに勧誘されるほどなのだからの。おそらくは異世界間の転移を重ねた影響だろうが。星核に多少の魔力を分け与えたとて、貴殿の生命維持に支障はないと保証するぞよ』

 エルフ女がなにやら納得顔だ。

「なんだ、時空術の遣い手なのか。道理で君の魔力波長はワールゼンに似ているね。あいつの門下なのか?」

 楓は前世の記憶を手繰った。その名は魔法学の教本で耳目に親しんだものだ。ワールゼン――実在したかも定かでない伝説的な魔法使い。魔導司ワイズマンの一人であり、因縁ある禁呪『時空対消滅』の開発者だとされている。

『その様子じゃと、彼奴と知己のようだの』

「まぁ有名人なので、お名前だけは一方的に存じ上げてますよ。ちょっとした所縁もありましたので……」

 有名人というか、もはや神話や御伽噺の登場人物という感じしかしない。地球的に言えば、桃太郎とかロビン・フッドとか孫悟空あたりだ。

「お二人の口ぶりだと、かの時空術師と面識があるように聞こえるんですが」

「面識ねぇ。あるといえばあるんだけど、もうかれこれ三千年は会ってないな。やっこさん、どんな顔してたっけ?」

『儂も彼奴の魔力波長しか憶えておらんな。いずれにせよ、貴殿が観星ギルドに加盟いたさば、ワールゼンと邂逅する機会もあるだろう。彼奴もまたギルドの構成員ゆえ』

 平和な日本での生活で錆び付いていた常在戦場の心が、ここに至って漸う目を覚ます。なにせ目の前の得体のしれない二人がまとう魔力は、尋常なものでない。楓は背中をつたう冷たい汗を自覚しつつ訊いた。

「もし、そのギルド加盟を断ると、どうなるんです?」

 その言葉で、気配の圧とでもいうべきものが明らかに変わった。

『どうもならぬ――と言いたいところじゃが、異分子としておぬしを排除せねばならぬの』

「私らは理知的な交渉は歓迎するが、君の世界の道徳観を求められても期待に副いかねるね。意思疎通可能な知的生命を処分するのは気が進まないが、私らはギルドの守秘を何よりも優先する」

『無論手向かいしてもらってかまわぬ。我等は長年の魔力供給で疲弊しておる。貴殿が潜在力を十全に発揮できれば、存外いい勝負になるやもしれぬ』

 エルフ女が徐に柔軟体操を始めた。

「同格とやり合うのは本当に久しぶりだ。私の当直時に勧誘者は七人いたけれど、一人が加盟。五人殺して一人逃した。君はさてどうする」

「いやいや、同格とかありえませんから」

 楓は必死に首をふった。こうした緊張感は前世以来で、なにやら懐かしくすらある。楓は自分のずれた感慨に苦笑を禁じえなかった。しばしの対峙。

「こういうの、あたしの世界じゃ圧迫面接といって忌み嫌われるんですが……わかりました。わかりましたよもう。その観星ギルドというのに入ります」

 どうやらほかに選択の余地はなさそうだ。この見るからにヤバそうな化け物たちと戦うなど正気の沙汰ではない。彼らが何を勘違いしているのか知らないが、楓はか弱い女子高生でしかないのだ。

 承諾の旨を口にした瞬間、楓の全身がうっすらと発光した。エルフ女が微笑む。

「重畳。言霊により契約は成った。さて、めでたく後任も決まったことだし、私はもう寝るよ。最低限千年は眠らせてもらうから起こすんじゃないよ。後のことはそのもやもやの爺さんに聞いてくれ。じゃあね、お嬢ちゃん。再会する頃にはいっぱしのギルド員になっていてくれよ」

 瞬時に転移魔法を展開し、つむじ風のように消え失せるエルフ女。呟く楓。

「千年後あたし生きてないと思うんですが……」

『ランベルめ。余程眠かったようだの』

「その、ギルドの遺産管理の仕事って不眠不休でやらないといけないものなんですか?」

 ブラック企業も真っ青の過酷さだ。ごく普通の人間である楓に務まるわけがない。

『消耗した魔力の涵養はの、生理的な睡眠とはまた異なるのじゃ。おぬしも当直を終えた後は千年前後の休眠が必要になろうて』

「いや、ですから、あたし普通の人間……千年とか無理だから」

 白ローブは取り合わず、念話を続けた。

『運が良ければ休眠中のギルド員が目覚め、管理を交代してくれよう。もしくはおぬしの様に有資格者が転移してくるやもしれぬ。首尾よく勧誘に成功すれば、おぬしも晴れて御役御免じゃ。さて、久方ぶりに休眠に入れると意識してしもうたゆえ、儂もそろそろ活動限界じゃ。ギルドに仕える執事やメイドたちがおるので、後のことは彼等から聞くとよい』

 待って、まだ色々聞きたいことが――言いかけたところで白ローブ氏は転移の燐光を残して消えた。

(たらい回しかよ……どこにいるの、その執事とかメイドってのは)

 愚痴っていても物事は進展しない。楓は周囲を探索してみることにした。

(罠とかないよね)

 瀟洒で広壮な殿宇に人影はない。いわくありげな魔法道具があちこちに配置され、さながら博物館のようだ。

「どなたかいらっしゃいませんかー?」

 静寂に耐えかねて呼ばわってみる。途端に三人の人物が転移してきて、楓の前に跪いた。まるで忍者だな――祖父吉右衛門と共に視ていた時代劇ドラマを思い出しつつ、そんな感想をいだいた。

「御召しでしょうか。マスター」

「マスター? あたしの事ですか?」

「ヴァレル様とランベル様から承っております。あなた様が観星ギルドの新たな一柱であると。申し遅れました。私は執事長のローエル。どうぞお見知りおきを」

 地球文化の影響か創作物定番の強キャラ老執事を想像してしまったが、歌舞伎の黒衣のような黒覆面黒づくめの男だった。エルフ女の言によると人造人間ホムンクルスらしいが。

「一柱って、んな神様じゃあるまいし」

「ギルドにお仕えする者にとりましては、ギルドメンバーの方々は神にも等しいかと。文字通り創造主に該当するわけですから」

 ブラックでカルトと心の備忘録にメモっておく。

「それがしは衛士長フェルド。なんなりと御下命を」

 全身甲冑の巨漢がそう言ってこうべを垂れた。

「メイド長メアリでございます。麗しき御尊顔を拝し奉り恐悦至極にございます」

 メイド長はたいへん美しい女性であったが、盲目だった。両目に痛々しい縫合の痕がある。それが負傷によるものか、呪術的なものなのかは定かではなかったが。どうも視覚に問題なさそうな様子なので、額に輝く魔晶石あたりが義眼の役割を果たしているのかもしれない。

「よろしければマスターの御尊名をお教えくだされませ」

「どうもご丁寧に。あたしの名は、か――クッコロ・メイプル。です」

 咄嗟に名乗った名は前世の名と、『最果て遺跡オンライン』のアバター名を組み合わせたものだった。


 その後、応接間らしき部屋に案内され、茶を供された。なにやら馥郁たる香りの発酵茶。初めて喫するはずなのに、やたら懐かしい風味。

「いいお茶ですね。美味しい」

「お気に召されましたか。リュストガルトの銘茶でございます。産地の名を冠してジャコル茶と申すそうです」

 給仕のメイド長メアリが説明した。

(……ああ、なるほど。道理で懐かしいわけだ)

 楓は前世の記憶を手繰り寄せる。落城がせまったあの古砦で、かつて主君たる少年皇帝にふるまわれた茶がこれだった。

「リュストガルトというのは?」

 執事長ローエルが天窓を指し示した。

「星空を御覧あれ。ひときわ大きな天体が見えましょう。あの星がリュストガルトにございます。この地アグネートとは二重惑星となっております。リュストガルトの民は赤の月たるフルムネートと同一視して、ここアグネートを青の月などと呼んでおりますが」

 正しくはリュストガルトとアグネートが二重惑星。その衛星軌道を公転するのが赤の月フルムネートという系らしい。

(青の月に人? が住んでいたとはね)

 気になったことを色々質問してみる。

「この星――アグネートでしたっけ――どれくらいの人が暮らしているんですか?」

「アグネートは全域が観星ギルドの拠点となっております。よってギルドの関係者しか居住しておりませぬ。正確な数は把握しておりませんが、現在就労中のギルド従者は二十万名ほどと記憶しております」

「その従者の皆さん、全員ホムンクルスなんですか?」

「いえ。様々な種族や来歴の者がおりまする。歴代ギルドメンバーの方のなかには、リュストガルトの孤児や奴隷をせっせと保護する奇特な――慈悲深き御方もいらっしゃいまして。保護された者たちの子孫が、従者の大半を占めております」

(今言い直したわね、この人)

「たとえばギルド創設者の一人にして大召喚術師、魔創神ヘカテーの御一方たるネイテル様などは、無聊に厭いて異世界の魔王やら邪神やら龍やらを召喚しては、嬉々として討伐しておられましたな。これに控えおりますメイド長メアリもまた、かつてはさる異世界より召喚されし魔王でござった」

「ローエル殿、またそのような何千年も昔のことを……若気の至りですわ。今はギルドの皆様に忠誠を捧げております」

 傍迷惑なマッチポンプもあったものだ。

「後ほどいくつかの島々を視察していただきます。その後、従者の主だった者たちにお引き合わせ致しましょう」

「島々?」

「アグネートは地表の九割以上を海洋が占める水の星でございます。点在する島嶼にギルドの施設が建っておるのです」

「なるほど」

 未知の世界の観光もそれはそれで好奇心が擽られるわけであるが、いちばん気になるのは帰還についてだ。

「あの、さっきのエルフの女性が仰っていたんですが……」

「あの御方はハイエルフのランベル様と申されます。魔導司ワイズマンのお一人でございます」

 あれが魔法学界隈における伝説的存在、魔導司ワイズマン――さもありなん。楓はエルフ女に感じた底知れぬ魔力を思い出して戦慄した。喧嘩を売らなくて本当によかった。

「そのランベルさんが申されるには、あたし基本自由行動でいいらしいんで、元の世界にいったん帰りたいんですが。家族も心配するでしょうし」

 楓は身構えた。さて彼らの反応や如何に。

「御随意に。もとより従僕に過ぎぬ我等ごときが、ギルドメンバーとなられた貴女様の行動の自由を束縛するなどもってのほか。ただ、星核への魔力供給がございますので、アグネートの暦年にして、さよう一年のうち十日ほどはこの星系に滞在してくだされませ」

 一悶着覚悟していたのだが、拍子抜けするほどあっさりと帰る承諾をもらえたようだ。

「じゃあお言葉に甘えていったん帰りますね。……それで、あの、どうやって帰ればいいんでしょう?」

 ローエルとメアリは顔を見合わせて戸惑った様子。衛士長フェルドは部屋の隅で直立不動。

「ヴァレル様からの念話によりますと、クッコロ様には時空術師の素質がおありだと伺っております。『時空跳躍』の術を使われてみては?」

 ヴァレルというのは話の流れからして、あの白ローブを纏った靄のような不思議生命体のことらしい。

「いやいや、そんなでたらめな高次元魔法使えませんから」

「はて、困りましたな……」

「そういや皆さん、あたしの前に現れた時転移魔法使ってましたよね? あれで何とかなりませんか?」

「あれはごく初歩的な転移の術でして、せいぜいアグネートやリュストガルトを含む惑星系の内側を瞬間移動する程度の魔法です」

 それはそれですごい気がするのだが。

「異世界の、意のままの時空座標に転移門を開くとなると……そのような御業が可能なのは、それこそ四柱の魔創神ヘカテーの皆様か、魔導司ワイズマンワールゼン様しか思い当たりませぬ」

「ん~……その方々は、ここに――アグネートにいらっしゃいますか?」

「残念ながら。魔創神ヘカテーの方々につきましては、我等にもまったくもって所在が掴めませぬ。ただワールゼン様に関してのみ、僅かながら消息が伝わっております」

 楓は愁眉を開いて訊いた。

「よかった。どちらにおいでなんですか」

「リュストガルトのどこかに庵を結び、魔法の研究をされておるという話です」

 それはまた雲を掴むような話だ。

「ワールゼン様は観星ギルドの中でもとりわけ時空魔法に精通した専門家。かの御方を探し出し、御相談あそばされるのがよいかもしれませんな」

 楓は嘆息した。

「仕方ない。リュストガルトに行ってみるか……ローエルさん。リュストガルトの情報提供をお願いできますか」

「かしこまりました、クッコロ様。どうぞローエルと呼び捨てくださいませ」

 これまでの経緯からして、リュストガルトというのはおそらく前世で生きた世界のことなのだろう。これも里帰りということになるのだろうか。

「おそれながらクッコロ様。リュストガルトに赴かれる前に、『転移』の術だけは習得されたほうがよろしいでしょう。僭越ながら私めが御指南申し上げまする。なに、貴女様ならば容易く習得なされましょう」

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