第18話:長い夜
勝負が行われた日の夜、俺は自室のベッドの上で飛び起きた。
誰かに脅かされて、とかそういうわけではない。やっとそれらしき結論にたどり着くことができた達成感と、導かれたその結論に対する衝撃によって、だ。
「そういうことだったのか……」と思わずひとりごとまで漏れた。本当にそういうことなのかはまだわからないが、少なくとも俺の直感は正しいと訴えている。
運動公園から一人で帰宅してからというもの、俺は久遠寺さんの悩みの真相や言葉の意味を沈思黙考し続けていたのだ。それが今やっと成果を生んだ。
俺の記憶を掘り起こした、久遠寺さんのあの寂しそうな顔が脳裏をよぎる。
掘り起こされた記憶は、俺がずっと思い出すことを避けていた記憶だった。
その記憶のピースと、久遠寺さんの監視の意味を考えた結果生まれたピース。
それらを組み合わせて、この結論が完成した。
うんうんとうなずいてから、ベッドを降りて、自室を見回す。
少し前までは何もなかった部屋だが、今はユーフォーキャッチャーの景品が点々と置かれている。その影響で、宿題をやるか、携帯で暇つぶしのゲームをやるか、寝るか、ぐらいしか選択肢がなかった自室の状態も少しは改善された。
もちろん良いことづくめではなく、「部屋に突然美少女フィギュアを置きだした!」と家族には訝しがられたけれど、それは久遠寺さんがノリノリでとった物だから仕方ないね。
そんな数割増しの賑やかさの中、俺は部屋の一角になおも飾られている『例外』に視線を注いだ。
無論、例の風景画である。いつ見ても素晴らしい絵だ。
どうでもいい告白をすると、俺は中学の頃、美術部に所属していた。
中学に入りたてホヤホヤの時期は、まだなんでもやる気全開モードだったので、様々な分野に興味があった。その中でもひときわ俺の目を惹いたのが、絵画。だから、大して悩みもせずに美術部に入部した。大きな期待と、少しの不安を胸に。
美術室で毎日のように絵を描くのは、毎日が似ているようで全く異なる日だということを実感できて好きだった。何枚も描いているうちに、曲がりなりにもスキルアップしていることを感じられて、それも好きだった。
当時からコミュニケーションを取るのはあまり得意じゃなかったから、気の置ける友人は少なかったけど、それでも毎日が楽しいと胸を張って言える。
入部してからしばらくは、そんな充実した学生ライフを送っていた。
……ここから先は、思い出したくもない記憶だ。
続きを回想するのは、久遠寺さんの前に立った時にしよう。
俺が彼女の前で結論を述べたとき、きっと彼女の悩みも解消する。
俺は、俺と彼女の人生を良くするために――
固く決心して、額縁に飾られている風景画を抜き取った。
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