第十三話 さらわれたクレア

 孝也とクレアの談笑が続く中、ネリーは遅れて帰ってきた。そして、打ち解けた空気を感じさせる二人を交互に見て、ちょっとだけすねたような表情を作って見せたのだ。


「なんだい、なんだい。私が水を汲んで、せっせこと魚まで獲ってきてあげたって言うのに、ずいぶんと仲良しになっているじゃないか」


 ネリーは口を尖らせて、いじけたように焚火をつついていた。火の回りには歪ながらも串にささった魚がじっくりと焼かれていた。

 帰りがどうにも遅いと思っていたら、ネリーは白色のローブを泥で汚して帰ってきた。小屋にあった木製のバケツは二つ。その内の一つには綺麗な川の水、もう一つには川魚が数匹入っていた。


「あんた、釣りなんて趣味でもあったのか?」


 クレアの右肩に乗ったヴィジョンの孝也が関心したように呟く。

 すると、ネリーは首を横に振って、「魔法のちょっとした応用だよ」と答えた。


「私は元は天空神だよ? 風を操る魔法は得意でね。こう、ちょちょいと渦でごく小規模な竜巻を起こして、吸い上げたのさ」

「なんだよ、それ。神様にしちゃ、えらくせこいな」

「知恵と言ってほしいね。もしくは工夫だ」


 しかもネリーは火を起こすのも魔法だった。しかし、どうにも火の魔法は不慣れならしく、火力の調整がうまくできず、あわや火事を起こしかけたのだ。その際、獲ってきた魚の一匹が真っ黒こげになってしまった。

 その時の煙でも吸い込んだのか、ネリーは咳き込みながら、顔を赤くしていた。


「悪いが、私は料理なんてした事ないんだ。神様だからね。文句は言わないでくれよ」


 と、言い訳もしていた。

 そのような事を言われても困るのは孝也だ。こちとら肉体はなくロボットだ。空腹もないし、疲労感もない。しかもそのおかげなのか、食欲というものも抑えられていた。初めからそのようなものなどなかったみたいだが、それでも記憶、感覚としては残っている。

 本来であれば、皮が良い具合に焼かれ、香ばしい匂いを漂わせるであろう焼魚を見ても、孝也は「うまそうだな」とは思えど「とにかく食いたい」という気分は抑えていた。


「わぁ、お魚! あんまり、食べたことないんですよ!」


 一方のクレアは目を輝かせていた。曰く、内陸の街ゆえにあまり魚は出回らないらしい。それに、クレアにしてみれば適度にソースのかかった料理はさておき、このような素魚をそのまま焼いたようなものは食べた事がないのだ。

 九歳という少女の、独特の好奇心を発露させていた。


「本当はお塩を振るんですよね?」

「あぁ、でもすまない。調味料はないんだ」


 ネリーは苦笑して、答えた。

 当然といえば当然だった。そんなことをしている余裕もなかった。

 とにかく、今は魚が焼き上がるのを待つだけだった。ネリーは慣れていないのか、パチパチと火が弾ける度にびくつき、クレアは余裕も取り戻したのか、魚が焼き上がるのをニコニコと待ち望んでいた。


「野生動物とかは気にしなくても良い。結界を張ったからね。モンスターだって近寄れないさ」


 魚の焼き具合を確かめながら、ネリーが言った。結界には警報装置としての役目もあるらしく、もしもジャべラスの手の者が現れた場合は即座に反応ができるようにしてあるとのことだった。


「どれ、焼き具合は……」


 魚の一つを手に取り、慎重に観察してから、ネリーは一口かじってみた。


「……俺はあんまりこういう事には詳しくないんだがよ」


 それを眺めながら、孝也はあまり正確性のない自分の知識を思い出しながら、「川魚って、泥臭くないのか?」と忠告した。

 孝也自身、特別アウトドアの知識もなく、料理だってできないので、とやかくいうつもりもなかったのだが、ついつい口をはさんでしまった。


「……お、大人の味って奴だよ」


 腹のあたりをかじっていたネリーは難しい顔をしていた。

 内臓を取っていなかったのである。しかも洗ったのは表面だけ。当然、泥臭い匂いと独特に味が残るわけである。しかも塩がないので、結局誤魔化すことも出来ない。


「……ンン! いいかい、クレア。私が授けた加護っていうのは、何もリーンを動かす事だけじゃない。多少の傷程度ならすぐに治るようなものなんだ。だから、つまり……お腹を壊すことはない!」


 半ばまくしたてるようにネリーは焼魚をクレアに手渡した。

 クレアは少しきょとんとしていたが、すぐさまニコリと笑みを浮かべて、「はい!」と元気の良い返事を返した。


「贅沢は言ってられないですものね!」


 と言って魚をかじった。やはり、少し難しい顔をするが、クレアは文句も言わず、魚を食べ続けていた。


「おい、気ぃ使われてんぞ神様」

「うるさい!」


***


 夕暮れ。

 結局、焼魚は昼食と夕食を兼用する食事となった。育ち盛りのクレアとしては、本当なら、物足りないだろうに、彼女は文句も言わなかった。とはいえ、流石に疲れが出たのか、質の悪いシーツにくるまりながら、すやすやと寝息を立てていた。


「明日、朝一で出る」


 沈みゆく夕陽を眺めながら、ネリーは言った。孝也は窓際に腰掛けながら、それを聞いていた。

 本来であれば、今すぐにでも出発し、ジャべラスが待つ神殿へと向かいたいのだが、ネリーとしてもどこか気おくれする所もあった。どう言い繕った所で、クレアに街を見捨てさせる事になった。

 恨まれても仕方がないとすら思っていた。


「なんとしてでもジャべラスは倒さないといけない。奴の兵力がどれほどのものなのかはわからないが、そこらの活性化したモンスター程度じゃ君を止められない」

「でも、あのグランド・エンドって奴はどうなんだ?」


 倒す、倒すとネリーは言い続けているが、それが果たして容易な事なのか、ほとほと疑問であった。それに、孝也としても懸念しているのは、やはり漆黒のロボット、グランド・エンドだ。自分と同じパワーを持った敵だ。


「グランド・エンド……いや、グラン・ナイト。前にも言った通り、あれは元々私が考案していたものだ。君たちの世界の、戦車と戦闘機という兵器。あれらを参考にしてね。でも、純粋な破壊のマシーンとしての側面しかなかったし、守護者としての見た目にもね……だから、聖獣グリフォンを象ったリーンを作った。ま、戦闘機というのは、見た目が気に入ったので、そのまま使わせてもらったけどね」

「神様ってのは随分とテキトーな理由で見た目を決めるんだな?」

「おっと、見た目は重要だぞ。士気にかかわるし、信仰にも影響を及ぼす。君、仮にだけど私の見た目が鳥の羽だけで出来た不定形の物体だったらどう思う?」


 孝也は一瞬だけ想像したが、すぐにやめた。


「気持ち悪い。てか、なんだよ、その例え?」

「一体全体どういう理由でそうなったかは知らないけど、人間たちの書物じゃ、私の姿はそういうものとして広まっているらしい。全く、私がそんな姿になるわけがないじゃないか。羽に目だけがたくさんあるって、なんだいそれは。神様はね、見た目に気を使うんだよ」

「へぇ、てこたぁジャべラスって奴もなのか?」


 ネリーはうーんと首を傾げ、腕を組んだ。


「奴は……変な奴だったな。仮面をつけていた。素顔は、見たことがない。でも、私たち神々は特に気にしていなかった。中には全裸もいたからねぇ……」

「仮面……あのヴィーダーって奴もしていたが?」

「あぁ、あの仮面、細部は違うがジャべラスの仮面だ。あのヴィーダーとかいう男が語った『息子』ってのもあながち嘘じゃないのかもしれない。ただ……」

「ただ?」

「あのヴィーダーとかいう男……どうにも、気になる。ルカーニアという奴を覚えているかい?」

「あぁ、あの象人間だろ?」


 孝也とクレアが二度目に戦った敵だ。忘れようもない。


「奴は、言ってみればジャべラスの使徒。イメージできないだろうが、天使だ」

「えぇ……あれがぁ?」

「とにかく、天使だ。そういう分類が一番しっくりくる。でも、ヴィーダーからはもっと、こう、別のものを感じた。そう、例えるなら……クレアだ」

「クレア? あのヴィーダーってのはクレアと何か関りがあるのか?」

「いや、それはないだろう。あの子は花屋の娘だ。ご先祖様探ればもしかしたらだけど、たぶんそれはない。彼女は正真正銘、人間の女の子だ。私が言いたいのは、御使いだよ」


 御使い。それは神の加護を受けた者の事だ。孝也は本来そうなるはずだった。


「あの、ヴィーダーって奴は御使いだってのか?」

「ほぼ、確実だ。恐らく、ジャべラスの加護を受けているのだろう。腐っても奴は神だ。それぐらいはできる。そして、グランド・エンドと化したグラン・ナイト。あれも、恐らくはジャべラスのせいだろう。私は、そもそも趣味の悪いドリルなんてつけない」


 ネリーはきっぱりと言い放った。

 となれば、あのグランド・エンドの見た目はジャべラスの趣向がふんだんに入っているという事だろうか。

 大地の神、だから、ドリル? まさか。

 そんなギャグめいた事が起きるのか孝也にはわからないが、事実としてグランド・エンドはあのような姿になっていた。そして、見た目の問題はさておいても、その強さは侮れない。


「確かに、グランド・エンドの強さは恐ろしい。だけど、目指すはジャべラスだ。奴は神。そして、リーンは神殺しのマシーン。君には、絶対的な優位性があるのさ」

「つまり、俺なら神様は一撃で倒せるって事か?」

「他の神々の力を吸い取っている分、あちらも多少の抵抗はあるだろうけどね。それでも、優位性は変わらないよ。ジャべラスさえ倒せば……」


 その瞬間、ネリーは小さなくしゃみをした。

 気が付けば日も完全に落ち、夜の闇が広がり始めていた。同時に、ほんの少しだけ、冷える。


「む、人間の体はやっぱり不便だな。いや、私が神の座にあぐらをかき過ぎたのが問題かな?」

「だったら、休んどけよ。元神様でも、今は人間なら、休んどかないと後々がきついんじゃねーの?」


 かくいう孝也はロボットになってしまった疲労感はない。だというのに戦闘でのダメージやそれに伴う機能不全イコール意識の消失はある。変な所で、変な機能がある。とはいえ、ある意味そのおかげでまだ自分が完全にロボットになってしまったのだという意識はない。


「いや、そうはいかない。結界の張り直しもある。やれやれ、昔ならちょっと念じるぐらいで大地を覆う結界が張れたっていうのにさ……」


 ネリーはまたもやくしゃみをして、そのついでに咳もした。


「うぇ、喉が……」

「おいおい、大丈夫かよ」

「あーヤダヤダ。早く神に戻りたい……」


 ぼやきながら、ネリーは折れた杖を支えにして立ち上がる。


「すぐに戻る」


 そういって、ネリーは小屋から出ていった。

 孝也は詳しくは聞いていないが、ネリーの施した結界はその範囲内に結界を作動させる呪文などを刻み、魔力を注ぐことで可能となる。これらは半永久的ではあるが、本来は霊脈と合わせるもので、結界維持に必要な魔力を供給するが、今はその霊脈が乱れているせいで、定期的に魔力を魔導士が供給しなければいけないらしいのだ。


「魔法の杖を振るって、呪文唱えるだけじゃ無理なのね」


 さてと、と呟きながら孝也は小屋の真上にでも登ろうと思った。この姿では、物理的な介入は出来ないが、視界は効くし、声も響く。見張りという点においては最適なのだ。


「……ん?」


 ふと、孝也は月が浮かび始めた空に違和感を覚えた。風がざわつくといえばいいのだろうか、何とも形容しがたい感覚ではあるが、孝也は嫌な気配を感じたのだ。


「あれは……」


 遠い月が浮かぶ地平線の向う側。ぽつんと浮かび上がる黒い影。それは、急速にこちらへと向かってきている。


「まさか……クレア!」


 未だ明確な姿は確認できない。しかし孝也はその影の正体がわかった。

 グランド・エンド。だが、一体なぜ、ここはネリーの結界で守られているはず。しかし、今はそんなことはどうでもよかった。

 孝也はまだ眠っているクレアを大声で叩き起こそうとしたが、それよりも前にビームが小屋の上空をかすめた。

 空気を振動させる轟音と共にビームの粒子が周囲を熱する。その衝撃は、いとも簡単に小屋の屋根を吹き飛ばした。


「う、なに!」


 流石に、クレアもその音で目を覚ました。飛び起きたクレアは屋根が吹き飛んでいることに驚きながらも、その場で震える事だけはしなかった。即座にベッドから飛び降りると、孝也がいた窓のそばへと駆け寄る。


「勇者様!」

「クレア、俺の体を!」

「は、はい!」


 クレアの動きは早かった。ペンダントを天に掲げた瞬間、彼女の周囲に魔法陣が展開する。

 それと重なるように戦闘機形態のグランド・エンドの威容が月と星の光を妖しく反射させながら、迫る。ドリルの機首はぴったりとクレアに向けられていた。

 が、やはり同じく、その瞬間。クレアの体は光に包まれる。同時に魔法陣から、甲高い鳴き声が響き、超音波のような衝撃波を吐き出す。


「グリフォン・ウィスパー!」


 孝也の掛け声と共に、超音波は戦闘機を吹き飛ばす。

 そして、魔法陣からは鉄のグリフォンと青い戦闘機が飛び出した。

 勇者リーンと、聖獣グリフォンである。


「勇者様、ネリーさんは!」


 既に孝也のコクピットに収まっていたクレアは三度目となる戦闘に若干緊張した表情を浮かべていた。やはり、戦闘は慣れないのだ。

 それでもクレアは姿が見当たらないネリーを探していた。


「わからねぇ、無事だといいんだが……うおっと!」


 空中へ踊りでた孝也は戦闘機形態のまま、グランド・エンドの反撃をかわしていた。グリフォンもこちらお援護をするようにビームを放ったり、かぎ爪で突撃を仕掛けていた。


「クレア、まどろっこしい事は出来ねぇ。転生合体だ!」

「うん!」


 この状態ではグランド・エンドには勝ち目がない。そう判断した孝也は即座に合体をしようとした。クレアもそれに賛同し、合体コマンドとなる言葉を叫ぼうとした。

 その瞬間であった。


「それは、遠慮してもらおう」


 突如として孝也のコクピットに響いたのはヴィーダーの声だった。


「なに!?」


 そんな制止如きで止まるか。

 と、思った孝也であったが、彼も、クレアも動きを止めるしかなかった。いかなる方法か、ヴィーダーは孝也へと映像通信を送っていた。それはクレアにも見えていた。

 そして、その光景に映っていたのは、ネリーを拘束するヴィーダーの姿だった。二人は、燃えさかる小屋の近くにいた。


「んなっ! テメェ、なんでそこに……!」

「フッ、遠隔操作だよ」


 グランド・エンドは無人であった。

 それを証明するように、ヴィーダーはグランド・エンドを人型に変形させ、自身の下へ着陸させた。


「私にかまうな! うあ!」

「貴様は少し黙っていてもらおうか、零落した神よ」


 抵抗するネリーに対して、ヴィーダーは仮面の奥底から冷淡な声を放ち、締めあげる。


「てめぇ!」


 空中で制止したまま、孝也はヴィーダーを睨みつけた。グリフォンもそれに従うように、孝也の背後へと控えた。


「フフフ、神とはいえ、力を失い、人間として転生すればこのざまか。貴様の結界は穴だらけだったぞ。獣ならまだしも、我らの目をごまかせると思うな」

「ちぃ……」

「力のわずかでも残していれば、こうもならなかっただろうにな。クフフ……さて」

「う、ぐ!」


 ヴィーダーは締め上げていたネリーの腕を解放したかと思えば、今度は即座にネリーの首を掴み、黒い光を伴う衝撃波を流し込んだ。


「やめてください!」


 クレアの悲痛な叫びが響く。

 それを待っていたかのように、ヴィーダーは衝撃波を止めて、孝也たちを見上げた。


「貴様たちを巻きこんだ神だ。恨みもあるだろうに?」

「やめてください! ネリーさんを解放して! でなきゃ……!」

「でなきゃどうする? 構わんぞ。攻撃でも合体でもするがよい。そうなれば、このネリー共々私は死ぬ。どうした? やらぬのか? 今、私を殺せば、ジャべラス様へ一手、届くぞ?」

「ゲス野郎め!」


 孝也の罵倒など全く意に返さず、ヴィーダーは低い声で笑った。


「フハハハ! 油断をしていた貴様たちの落ち度だ。さて、私からの願いは一つだ。そうすれば、この女は解放する。所詮、ただの人間。もはやどうすることも出来ぬ」

「……なんだ」

「小娘をよこせ」

「だ、ダメだ!」


 悶えながらも、ネリーが叫ぶ。


「黙っていろ」

「うあぁぁぁ!」


 即座にヴィーダーは衝撃波を流し込む。ネリーの悲鳴が森に響く。


「やめて!」


 クレアの悲痛な叫びも響いた。


「さぁ、どうする小娘! 大人しく、我が下へ来るのだ。おっと、反撃しようなどと考えるな。すれば、この女は殺す」

「う、うぅ……!」

(ど、どうする……こういう時、どうすりゃいい……)


 この状況下において、孝也は考えを巡らせるが、無理だった。

 どう考えても、手詰まりである。それに、クレアが一番動揺していた。今の彼女には合体をすることも、反撃をすることも思いつかないだろう。


「さぁ、答えは!」

「う、うぅぅぅ!」


 ヴィーダーは見せつけるように衝撃波を放つ。ネリーの絶叫がクレアの耳を打つ。


「や、やめてください! わかりました!」

「クレア!」


 孝也は思わず呼び止めようとしたが、最終的な操縦権限はクレアにある。クレア孝也を着陸させ、コクピットを開けると、ゆっくりと降り立った。


「い、行きます。だから、ネリーさんを放して下さい!」

「貴様がこちらに着たらな」

「いくな、クレア! 罠だ!」


 それはあからさまだった。孝也が言わずとも、クレアとてわかっているはずだった。


「鉄人形は黙っていろ!」

「んだとぉ!」

「勇者様!」


 口論になりかけた孝也を制止するようにクレアが叫ぶ。そうなると孝也も黙るしかない。今、下手にうごけば、ネリーだけではない。クレアにも危険が及ぶからだ。


「くそ!」

「フッ、それでいい」


 対照的にヴィーダーは薄気味悪い声で笑った。

 そして、クレアがゆっくりと歩み寄ると、ネリーを突き飛ばし、クレアの腕をつかんだ。


「良い子だ」


 そういって、ヴィーダーは黒い光に包まれ、グランド・エンドのコクピットへと収まる。


「……では、さらばだ。古き神、そして鉄人形よ」


 冷たい言葉と共に、ヴィーダーはグランド・エンドの二丁のライフルをネリー、そして孝也へと向けた。


「ま、待って!」


 ヴィーダーに拘束されたままのクレアが叫ぶ。

 しかし、遅かった。ヴィーダーはためらいもなく、ライフルを放った。連射されたビームが周囲を吹き飛ばし、爆発させていく。

 爆炎の中に、孝也もネリーも消えていく。その光景を見せつけられながら、クレアは悲鳴を上げた。


「フハハハ!」


 ヴィーダーは高笑いと共に、グランド・エンドを上昇させた。

 燃え広がる森だけが、夜の闇を赤々と照らし出していた。

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