【百三十五丁目】「ほな、次はうちん番ね」
「ほな、次はうちん番ね」
「
その苑内にある「
初戦の相手、
当初は僕を小馬鹿にしていた小源太も僕を認めてくれようで「お前とはダチ」と言ってくれた。
その変貌ぶりは、一見節操が無いようにも見えるが、妖怪はその辺、サバサバしているようである。
何にせよ、あの“隠神刑部”と懇意になれたのは喜ばしい事だ。
そして、続く第二戦目の相手には、場所を大座敷に移したところで、
白い肌に白い長髪、顔に深紅の
「よ、よろしくお願いします」
「勿論やで♡手取り足取り、くんずほぐれつ、お姉さんが教えたるさかい♡」
顔を紅潮させ、ハァハァと息を荒げる玉緒さん。
目もギラギラしているのは、絶対気のせいではない。
そんな玉緒さんに、裁定役を務める
「玉緒、最初に言っておくが、これは公式な催しの中での勝負じゃ。故にR18指定的な勝負方法は認めんから、そのつもりでな」
それに、玉緒さんはショック丸出しで御屋敷町長を見た。
「あかんの!?」
それに溜息を吐きつつ、玉緒さんに冷たい視線を向ける御屋敷町長。
「あかんわい。何考えとんじゃ、変態ドエロ狐が」
「そないなぁ…公然と十乃君にあんなんやこんなんをできる思うとったのに…」
指を咥えて、心底残念そうに僕を見詰める玉緒さん。
それに、
「ち、ちなみにどんな内容を考えていたでござるかっ…!?」
すると、玉緒さんは指折り数え始める。
「ええと…王様ゲームにぃ、ツイスターゲームにぃ…あ、ポッキーゲームも♡」
僕は冷や汗を流した。
そのどれを提示されても、まるで勝てる気がしない。
というか、いずれも勝負過程で優勢だったとしても、状況に耐えきれず、卒倒しそうな気がする…
しかし、それにフルフルと震えていた余さんが、突然大音声で一喝した。
「ぬるいッ!!!!!!!!!!」
その迫力に、僕達は勿論、六大妖達も思わず仰け反る。
そのまま、彼は拳を握りしめた。
「ぬるい…ぬる過ぎて、
と、よく分からない比喩で追及され、玉緒さんの目が点になる。
「いや、うち、狸ちゃうくて狐なんやけど…」
「シャラップ!」
並々ならぬ気迫で、玉緒さんに詰め寄る余さん。
「大体、何でござるか!?『私、お色気担当でーす♡』的な外見と言動してる癖に!王様ゲーム?ツイスターゲーム?悪くない、悪くはないでござるが、それでは所詮、学生レベルのお遊びではござらんか!」
「そ、そやろか?」
「そうでござる!確かに、いずれもエロい展開は期待できるでござる!しかし!それらは所詮、アクシデント前提!例え、故意にエロい状況へ持っていけても、決め手にはなり得ぬでござる!!」
「決め手…?」
困惑する玉緒さんに、余さんはキリッとした真顔で告げた。
「ずばり、露出度が足りない!」
「そ、それは……そうかも」
余さんの怒涛の攻勢に呑まれたのか、玉緒さんが一歩後退る。
あんまりな展開に、その他一同は完全に置いてきぼりをくっていた。
「なら、どないしたらええの?」
玉緒さんの問いに、余さんは我が意を得たり、とばかりにニヤリと笑った。
「古来より、こうした勝負において、安全かつ平等に勝敗を決定づけることができ、更にエロスを内包した決戦方式が一つだけ存在するでござる」
「そ、それは…?」
ゴクリと喉を鳴らす玉緒さんに、余さんはフッと笑ってから、胸を張って言った。
「ズバリ『野球拳』でござる!」
瞬間、物凄い勢いで
「も、申し訳ありません!
毛糸玉のように転がった余さんを横目に、鉤野さんが何度も頭を下げる。
まあ…無理もない。
原則、妖怪に上下関係は無いと言っても、相手は神にも近しい大妖である。
そんな彼女に言うへ、事欠いて「野球拳をやれ」などとは、不心得にも程がある。
流石に、これには玉緒さんもお怒りだろう。
「…ううん、ええんよ。逆にいいヒントをもろたわ」
が、予想とは裏腹に、玉緒さんは真剣な表情で言った。
「野球拳…エロス…ふんふん、成程…なら、こういう勝負方法はどうやろ?」
そう言いながら、玉緒さんはニッコリ笑った。
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「クイズ野球拳!?」
すっとんきょうな声を上げる僕に、玉緒さんは満面の笑みで頷いた。
「そう。ただの野球拳は、単純に運が勝負やけど、クイズ野球拳はちょいと違います」
そう言うと、玉緒さんはすぅっと目を細めた。
「十乃君、聞けば、あんたはんは、妖怪や神話伝承にえらい詳しいいうやないどすか」
「は、はあ…」
僕はおずおずと頷いた。
一応、役場で
すると、玉緒さんはニッコリ笑った。
「せやったら、どれだけ
「知識比べ、ですか」
僕は確認するように、口にした。
何か、一転してまともな内容になったけど…
気になるのは、後半部分である。
「そう。で、うちの出す問題に答えられなかったら、十乃君が脱衣。答えられたら、うちが脱ぐっちゅうことで♡OK?」
「…あの、いいでしょうか?」
「はい、十乃君」
挙手した僕を、玉緒さんが指す。
僕はおずおずと尋ねた。
「僕が試される以上、玉緒さん達についての知識の深さを測られるは分かるんですが…なんで、脱衣式に…?」
僕がそう尋ねると、玉緒さんの笑みが深くなる。
「そんなん決まってるやないか。その方が断然盛り上がるからや♡」
駄目だ。
話にならない。
僕は、頼みの綱である御屋敷町長へすがった。
「町長、R18指定的な勝負はダメだったんじゃないんですか!?」
すると、御屋敷町長は肩を
「坊も聞いていた通り『両者水着着用で、水着になった時点で決着』とのことになっておる。ギリギリセーフじゃな」
そう言いながら、どこか笑いを堪えているような御屋敷町長。
…駄目だ。
こっちも、話にならない。
玉緒さんは、頬を紅潮させつつ、僕をねっとり見詰めてくる。
「まあ、十乃君が望むんやったら?裸になるまで続けてもええよ?」
「いいえ、それでいいです!」
慌ててそう答える僕。
くっ、これはとんでもないことになってきたぞ。
勝つにしろ負けるにしろ、赤面ものの展開が待っている…!
「ほな、早速勝負開始やね。で、そちらの助っ人は誰にするの?」
そうだ、忘れていた。
この勝負、僕には一人だけ、
うーん、どうしようか…
「では、
そう言うと、いつの間にか鉤野さんの鉤毛針から脱した余さんが、挙手をする。
それに全員が沈黙した。
「…おい、余」
「何でござる?不服でもあるでござるか、
沈黙を割って、飛叢さん(
「いや、不服はねぇけどさ…お前、何で最初から水着なんだ?」
飛叢さんの言う通り、余さんは勝負前にもかかわらず、ビキニパンツ一丁だった。
それには、僕も激しく同意したい。
余さんは、フッと笑った。
「分からないでござるか?これは、某が十乃殿に代わり、敢えて脱衣役になろうという覚悟の表れでござる」
胸…というか、肥満腹を張りながら、そうのたまう余さん。
それに、赤面しながら鉤野さんが突っ込む。
「代役はともかく、何で最初から脱いでますの!?それではもう、決着がついている状態じゃありませんの!」
「まあ、細かいことはいいではござらんか」
「いいわけないと思うけど…」
呆れ顔になる
再び、フッと笑う余さん。
「何にせよ、某のこの姿は十乃殿に対する、信頼の表れでござる」
「どういうことです?」
僕がそう聞くと、余さんは、親指を立てながら、いい笑顔を浮かべた。
「こと妖怪やそれに関わる知識について、十乃殿に敵う者は某も知らないでござる。つまり、十乃殿なら例え玉緒殿の出す問題にも、完璧に答えることができると信頼しているということでござる!」
「あ、余さん…」
僕は胸が熱くなった。
普段、何かと問題を起こす彼だが、こういう場合に時折見せる言動には、不覚にも感動を覚えることがある。
思えば「
そうして、一人感動を噛み締める僕の後ろで、飛叢さん達がヒソヒソと話していた。
(よお、本気だと思うか?アレ)
(いえ。明らかに下劣な目的があるかと)
(じゃ、じゃあ、十乃君が答えを間違えたら、余さんはあの水着を…!?)
(いいですわね!?もしもの時は、勝敗に関わらず、取り押さえますわよ!?)
鉤野さんの言葉に、飛叢さんと
ちなみに、純真な
そこに玉緒さんが声を掛ける。
「話はまとまったかしら?ほな、第一問いかせてもらいます」
「お、お願いします…!」
僕は頷きつつ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、ご丁寧に用意された、回答用のボタンの前に立つ。
「それじゃあ、第一問!全国にある稲荷神社の数…」
ポン!
「約三万社!」(※諸説あり)
即座に回答ボタンを押し、答える僕に全員が瞠目した。
「ほう…あの小僧、問題を聞き終える前に答えやがったぞ」
感心したように
玉緒さんも、驚いたような表情になっていた。
「…正解どす」
そう言いながら、白い
そして、一息つく僕に、ニヤリと笑った。
「せやけど、こらまだ序の口どす。次、第二問行きますえ」
そう言うと、玉緒さんは続けた。
「第二問!俗にいう『日本三大稲荷…』」
ポン!
「
息を呑む玉緒さん。
「せ、正解…」
小袖を脱ぎつつ、玉緒さんの目が本気の光を帯びた。
「やりますなぁ、十乃君」
僕は再び息を整えた。
妖狐でなく「お稲荷様」関連の問題が出てきたのは面食らったが、何とかなった。
幸い、大学で学んだ民俗学や神秘学で、その辺のデータはある程度習得済みである。
別段、早押しを競う勝負では無いのだが、自分が回答することで、女性を脱がしていくという罪悪感じみた感覚がある。
とにかく早く終わらせたいのが本音だった。
「ほなら、ここからは本気でいかせてもらいます…!」
そう言うと、玉緒さんが口火を切った。
「第三問!伏見稲荷にある四体の狐像が
ポン!
「ええと…稲穂、巻物、鍵、宝珠!?」
「せ、正解どす…ほなら、第四問!うちら妖狐の位…」
「
唖然となる玉緒さん。
それに、
「…やるじゃない、あの子」
「はっはー!どうも、玉緒は勝負方法と相手が悪かったようだねぇ」
それに、得意げに小源太が追従した。
「何て言っても、俺のダチだからな!へっ!女狐め、いい気味だぜ!」
そうして、勝負は続き、僕は一問も落とすことなく、答え続けることが出来た。
結果、玉緒さんは、白い薄物一枚という、はなはだしく目のやり場に困る姿になっていた。
「や、やりますなぁ、十乃君。さすがはうちが目を付けた男や…!」
不敵に笑う玉緒さん。
僕は、真っ赤になって俯いた。
豊かな胸元に細いくびれ、色気溢れる腰つきに白く艶めかしい太腿。
下には水着を着ているはずなのだが、どうもビキニを見に付けているようだ。
何故かというと、水着が薄物で絶妙に隠れているせいで、一見すると全裸にしか見えない。
と、ともあれ、あと一枚。
それで決着がつきそうだった。
「ぬうう!ぬうううう!けしからん!実にけしからん!」
鼻息荒く、興奮したように身を乗り出す余さん。
先程まで、僕が正解するたびに、何故か残念そうな様子だったが、今はもう玉緒さんの際どい姿にくぎ付けである。
「ほなら、最後の問題、いかせてもらいます…!」
「ど、どうぞ…!」
今更だが、一問でも間違えば、僕の負けだ。
最初から後が無い勝負だったが、あと少しで決まる。
僕は全神経を集中した。
「では、問題!」
そう言うと、不意に玉緒さんは悩まし気な表情で僕を見詰め、腕を組むようにして自分の胸を押し上げた。
「絶世の美女“天狐”の玉緒さんのスリーサイズは?♡」
「ちょぉーーーーーーーーーーーーっと待ってください!!」
瞬間、僕は真っ赤になって声を上げた。
「その質問、もはや妖狐とかお稲荷様とか関係ないですよねっ!?」
僕の抗議に、玉緒さんは目をパチクリさせた。
「え?そんな事あらへんよ?うちは妖狐やし、そのうち自身の事やもの」
「いやでも、それは…!?」
慌てる僕に、ニンマリ笑いながらにじり寄る玉緒さん。
「ん~?何なら、触って確かめてくれてもええんよ?♡」
「そ、そんな事、出来ません…!」
扇情的なその姿に、僕は思わず赤面しつつ、目をつぶって叫ぶ。
そして、裁定役の御屋敷町長に訴えかけた。
「ちょ、町長!これはアウトですよね!?ね!?」
それに、御屋敷町長はしばし考え込んだ後、
「いや、別にいいじゃろ。スリーサイズなど、今はアイドルとかも公表しとる時代じゃしの」
「そ、そんなぁ…!」
何という事だ…!
これはまさに絶体絶命のピンチである!
元々、女性慣れしていない僕にとって、女性のスリーサイズを一発で当てろなどというのは、無茶難題にも程がある。
しかも、当の本人が際どい恰好で目の前まで迫ってきているのだ。
冷静になれと言う方が無茶である。
「さ、答えは?」
更に迫る玉緒さん。
その顔は、情欲に火照り、妖艶な笑みが浮かんでいる。
彼女が歩を詰めると「たゆん」と豊かな双丘が揺れた。
僕は赤面したまま、思わず目を閉じた。
「わ、わわわ分かりませ…」
「差し詰め、B95-W57-H92…といったところでござろうか」
不意に。
渋い声がそう割って入った。
見ると、ビキニパンツ一丁の余さんが、劇画調の表情で僕達を見ている。
沈黙する玉緒さんに、余さんはフッと笑った。
「如何でござるか、玉緒殿?某、誤差なら数ミリという自負があるでござるが?」
それに言葉を失っていた玉緒さんだったが、
「ず、ズバリ…せ、正解…どす…」
そう言うと、ガックリと膝をつく。
すると(室内なのにもかかわらず)そよいで来た風に、前髪を掻き上げる余さん。
「フッ…勝ったでござる」
ピピー!
同時に御屋敷町長のホイッスルが鳴った。
「勝者、十乃!」
僕は突然の事に、思わずへたり込んでしまった。
そんな僕に、余さんが近付き、手を差し伸べてくれる。
「十乃殿、お疲れでござる」
「あ、余さん…いえ、僕の方こそ…その、有り難うございます」
すると、余さんは屈託なく笑った。
「十乃殿、日頃、妖怪について学ぶのもいいでござるが、たまには女性についても造詣を深めた方が良いやも知れんでござるよ?」
「は、はは…検討します」
力無く笑う僕。
本当に間一髪だった。
もし、助っ人として余さんが名乗り上げてくれていなかったら、僕は完全に敗北していただろう。
偶然だし、内容に問題があるとはいえ、僕は彼の持つ才能に、まぎれもなく助けられたのだ。
そんな僕に、余さんはこっそりと耳に口を近づけた。
(何なら、こんど良い教材を提供しても良いでござる)
(…え?教材?)
それに頷く余さん。
(そうでござる。それには、玉緒殿にも引けを取らないばいんばいんのお姉ちゃんたちが、あられもない姿で…)
ザリッ!バリバリバリ…!
ザザザザ…キュドン!
シュルルルル…ギュウウウウウウウ!
その台詞の途中で、余さんは三池さんの鋭い爪と、沙牧さんの放った砂津波を受けてふっ飛ばされ、最後に再び鉤野さんの鉤毛針にぐるぐる巻きにされた。
「ホント、懲りない奴ね…!」
「まあ、余さんですから」
「不潔ですわ…!」
女性陣から三者三様の言葉を受けつつ、沈黙する余さん。
今回、一番の功労者なのだが…まあ、こんなのも彼らしいと言えば彼らしい。
「完敗や、十乃君」
苦笑していた僕は、その声に振り向いた。
見れば、玉緒さんが笑っていた。
「うちの問題を速答できるその知識、胆力…そして…」
わいわいと騒ぐ鉤野さん達を見やり、玉緒さんは続けた。
「良いお仲間にも囲まれて…もう、あんたはんに言う言葉は一つどす」
そう言うと、玉緒さんはウィンクした。
「ほんま、惚れ直したわ♡」
「あはは…有り難うございます」
照れつつも、僕も鉤野さん達を見やった。
賑やかに騒ぐ皆の姿に、自然と笑みが浮かぶ。
「本当に…頼りになる仲間です」
それを見た玉緒さんは、優しい笑みを浮かべた。
「ええなぁ…あんたはん達、ほんまにええわぁ」
「え?」
「いや、何でもあらへん…ああ、しもた。うちとしてことが大事な事を忘れとった」
「大事な事?」
キョトンとなる僕の目の前で、彼女はやおら薄物を脱ぎ捨てる。
「いややわぁ、忘れてしもたん?この勝負は、どちらかが水着になった時点で勝敗が…って、十乃君!?」
そこから先の彼女の言葉は。
永遠に僕の耳に届くことは無かった。
何故なら、僕は薄物の下の彼女の身体を見て。
鼻血を吹いて卒倒してしまったからだ。
「きゃあああ!?十乃君!?」
「ど、どうしましたの…って、た、たたた玉緒さん!?そのお姿は!?」
「あらまあ…何て斬新な…」
追伸。
バストの先端と局部のみを葉っぱで隠しただけの代物は、絶対に「水着」とは言えないと思う…
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