【百三十四丁目】「って訳で、一番手は俺だ!」
「
が、今年はその趣向が一転し、何と僕…
それというのも、今回のサミットに列席した大妖達が、ここ最近、降神町で起きた数々の妖怪絡みの事件に、何の力も持たない人間の僕が深く関わっていることに興味を抱いたらしい。
で、紆余曲折の末、僕の資質を見極めようと、こうした流れになってしまったのである。
…まあ、実際は
何にせよ、一見お遊び感覚で始まったこの催しも、妖怪にしてみると、それなりに理に適っている方法らしい。
言われてみれば、列席している「魔王」
ともあれ、大妖それぞれがどのような課題を出してくるかは全く不明である。
そうした点では、ただでさえ不利な僕は、余計に不利になっている。
が、僅かながら光明はあった。
というのも、課題のクリアについては、僕が懇意にしている特別住民(ようかい)の皆さん…
これは有り難い条件だった。
繰り返すが、僕はごく普通の人間だ。
故に、大妖から課される課題がどんな内容なのか分からない以上、皆さんの手助けが有るのと無いのとでは、その難易度に大きな差が生じる。
それに、これまで苦楽を共にした仲間同士、チームとしての意識や絆は本当に頼りになる。
火点け役として、とんでもない提案をした沙牧さんだったが、こうした条件も盛り込んでくれたのは、素直に感謝したい。
「って訳で、一番手は俺だ!」
そう名乗りを挙げたのは“獣王”こと
苑内にある多目的施設「
その中にある大きな武道場に僕達はいた。
サミットの進行役である
見た目は野性的な雰囲気の十五、六歳の少年だが、彼は稀代の妖狸“隠神刑部”の名を受け継ぐ特別住民(ようかい)だ。
かつて、眷属である“
その名は“佐渡の団三郎狸”“淡路の芝右衛門狸”“屋島の大三郎狸”といった名のある妖狸を凌ぐ程である。
小源太さんは、今回顔をそろえた大妖の中では一番年が若そうだが、それでも“隠神刑部”の名を継いでいるのだ。
そんじょそこらの妖怪など歯牙にもかけない程の実力を持っているだろう
「よ、宜しくお願いします」
おずおずと一礼する僕を見て、小源太さんは鼻で笑った。
「へっ、何だあ?早速ビビってんのか?」
「は、はあ、まあ…その、どうかお手柔らかにお願いいたします」
「ふふん、そうはいかねぇよ!この小源太様の恐ろしさ、とくと味わわせてやるからな、
と、高らかに笑う小源太さんの後頭部へ何かが迫る。
それを察知した彼は、慌てて頭を逸らした。
どかっ!
ざすっ!
見れば。
床に槍のように鋭く尖った岩と、熊でも一薙ぎできそうな大斧が突き立っていた。
それらは飛来した時の勢いを物語るかのように、細かく震えている。
「…ちっ」
「しくじりましたか」
後ろで控えていた
それに小源太さんが、冷や汗を流しながら怒鳴った。
「お、おおおおお前ら、いきなり何しやがる!?」
「別に。ただ、小うるさい虫が飛んでおったから、仕留めようとしただけどす」
「ご免あそばせ。新品の斧を具合を試すのに素振りしていたら、つい手が滑りまして」
「嘘つけっ!どう考えても無理があんだろ、その言い訳!お前ら、一体どっちの味方だ!?」
そう噛みつく小源太さんに、女妖二人がニッコリ笑う。
「「もちろん、十乃君(様)の♡」」
「だろーな、この色ボケ雌共が!ったく、聞いた俺もバカだったぜ!」
ヤケクソ気味にそう叫ぶと、小源太さんは、僕に指を突きつける。
「やい、青瓢箪!やっぱ、お前は全力で潰すから覚悟しやがれ!」
ああああ…
玉緒さんも、紅刃さんも、応援してくれるのはいいけど、相手を焚きつけないで欲しい…
「で、どんな課題を出すのじゃ、小源太?」
御屋敷町長にそう尋ねられると、小源太さんはニヤリと笑った。
「おうよ!俺が出す課題は『肝比べ』だ!」
「『肝比べ』?」
思わず聞き返す僕に、小源太さんは頷いた。
「お前はただの人間だ。何の力も無いのは、俺だってよく分かってる。だが、それでも俺達、
自分の胸板をドンと叩く小源太さん。
「それはこいつ…肝っ玉さ」
そう言うと、小源太さんは懐から木の葉を一枚取り出した。
そして、それを頭上に乗せ、印を結び、経を唱える。
「
ボウン!
派手な音と煙が上がる。
そして、
ズン…!
煙の中から、見上げるような大きな大男が現れた。
天井近く…10メートル近い高みから僕を見下ろした大男は、腕を振りかぶると、そのまま僕に向けて掌を振り下ろした。
「危ない!」
「避けろ、巡!」
釘宮くんと飛叢さんが、そう叫ぶが、身が
そのまま、押し潰されそうになる直前、大男の手はピタリと止まった。
その場に、へなへなと座り込んでしまう僕。
それを認めると、大男がニヤリと笑った。
ボウン!
と、再び大きな煙が上がり、一瞬の後に大男の姿は掻き消え、小源太さんが姿を現す。
「…と、まあ、今のは小手調べってとこだ」
「…」
声を失い、尻餅をついたままの僕を見下ろしながら、小源太さんは言った。
「青瓢箪、お前、随分と妖怪に慣れているみたいだが、妖怪の本当の怖さって奴をどれだけ知っているのかを俺が試してやる」
「妖怪の本当の怖さ」…それが、今の一幕ということか。
僕は彼が出した課題が、少しだけ理解できた。
以前、
その在り方は、彼らが復活した現代でも変わることは無いという。
つまり、そんな彼らと接する僕が、その「恐怖」という感情にどれだけ向き合えているのか…小源太さんが試そうとしているのは、そういう点なのだろう
彼の言う「肝比べ」という言葉からも、そんな狙いが伺える。
僕が妖怪に接するに当たり、彼らをどこまで理解した上で、恐れることなく渡り合えるのか。
それを知ろうとしているのだ。
「ちっとは分かったようだな」
小源太さんが、面白そうに笑う。
「つまり、相手をビビらせたら勝ちって訳だ。勿論、お前にも俺をビビらせるためのターンをやる。そして、少しでも俺をビビらせることが出来たら、課題クリア…どうだ?理解したか?」
「…はい」
ゆっくりと立ち上がる僕に、小源太さんは目を細めた。
「へへ…じゃあ、とっとと助っ人を選びな。そいつと協力して少しでも俺をビビらせたら、お前の勝ちだ」
僕は頷くと、背後に控えていた六人の妖怪を振り返った。
「じゃあ、三池さん、お願いします」
「えっ!あ、ああああたし!?いきなり!?」
自分を指差し、盛大に慌てる三池さん。
ちなみに助っ人を選ぶ際に、事前申告しなくてもいいことになっている。
反面、相手の課題を確認してから助っ人を選ぶということになるため、誰が助っ人に選ばれるかは、その場で、僕が判断することになっていた。
「十乃さんなら、私達の妖力やその特性もよくご存じでしょう?」
と、事もなげに言ったのは沙牧さんだ。
まあ、万が一課題をクリアできなくても、ペナルティがある訳でも無いし、何の支障もないのだが、それを口にした途端、何故か、鉤野さんが目の色を変えて、
「いいえ!絶対に全ての課題をクリアして、大妖達に十乃さんの事を認めてもらいましょう…!」
と、詰め寄って来た。
彼女の気迫に押され、思わず頷いた僕だったが…
鉤野さん、何かあったのかな…?
「お願いします。見ての通り、相手は同じ変化の術の使い手ですし、三池さんの妖力【
「で、でも…私、そんなに上手く変化できるって程じゃあ…」
自信なさげな三池さん。
いつもの明るい彼女らしくない。
どうも、大妖を前にして、必要以上に委縮しているようだ。
「大丈夫ですよ」
僕はニッコリ笑った。
「僕、三池さんのこと、信じてますから」
「と、十乃君…本当に、あたしでいいの?」
僕の言葉に、何故か三池さんがポッと頬を染める。
僕は頷いた。
「ええ。貴女となら、きっとうまくいくと思うんです」(※勝負の話です)
その背後で、余さん達がヒソヒソと小声で何かを言い交す。
(出たでござるな、十乃殿
(そして、効果は
(ねぇ、何の話?)
(何でもありませんわ。釘宮さんには、ちょっと早い話です)
「分かった!あたし、頑張る…!」
一転、発奮する三池さん。
よく分からないが、やる気になってくれたのは有り難い。
「助っ人は決まったようだな。んじゃあ、そっちの先攻ってことでいいぜ」
余裕の表情で、腕を組む小源太さん。
変化の術は、妖狸にとってもお家芸だ。
この余裕も、そこから来るものだろう。
「で、どういう作戦で行くの?」
「はい、まずは…」
僕は三池さんのネコミミに、そっと指示を囁く。
それを聞いた三池さんは、露骨に嫌そうな顔になった。
「ええ~!よりによって、アレに!?」
「お願いします。上手くいけば、一発でクリアかも」
「みゅ~…ええい、仕方ない!」
意を決した三池さんは、小源太さんの前に仁王立ちになった。
「お前、猫又か。いいぞ、何でも来い」
油断しきった態度の小源太さんに、三池さんはゆっくりと身構えた。
「いっくよ~!妖力【燦燦七猫姿】!」
ドロン!
そんな音と共に、三池さんの姿は一頭の大きな犬に変化した。
「グワアオオオオオオオオン!」
子牛程もある巨犬は、凶暴な犬歯を閃かせ、小源太さんに向かって大きく吠え掛かる。
普通なら、その迫力に思わず誰もが腰が引けるところだろうが…
「…何だそりゃ」
当の小源太さんは動じもせずに、ガッカリした表情で指で耳をほじっていた。
くそ、ダメか…!
古来から伝わる伝承の中には、犬によって正体を見破られた妖狸の話がある。
だから、大きくて恐ろし気な犬を見れば、さすがの小源太さんも多少はたじろぐと思ったんだけど…
「犬に化けるんだったらな…」
懐から再び木の葉を取り出す小源太さん。
それを頭に乗せ、経を唱える。
ボウン!
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!ウオオオオオオオオオン!」
煙の中から、三つ首の巨犬が現れ、僕と三池さんに吠え掛かってきた!
「うわあああっ!」
「きゃああああああ!?」
こ、これは…!
ギ、ギリシャ神話に登場する“
まさか、西洋に伝承を持つ魔獣にも変化できるとは…!
あまりの迫力に後退る僕と、悲鳴を上げて変化を解く三池さん。
彼女は猫の妖怪だけあって、犬に変化するのも、変化されるのも苦手のようだ。
二股の尻尾を毛羽立たせて、一目散に飛叢さんの背後に逃げ隠れする。
「はははは!どうした?それでおしまいか?」
勝利を確信した小源太さんが、変身を解いて高笑いする。
う、ううむ…
さすがは変化の術のプロである大妖狸。
やはり、こういう化かし合いには、一日の長があるようだ。
「ごめん、やっぱムリ!犬コワい!特にあんな規格外のはマジで!」
余程恐ろしかったのだろう。
歯も噛み合わんばかりに震える三池さん。
それに、飛叢さんが肩を
「おいおい、正体は分かってんだから、そんなにビビんなくてもいいだろうが」
「そんな事言ってもムリなものはムリよ!あたし猫又だし、犬とか猫の天敵だし!」
「天敵…」
ふと、僕はその言葉に反応した。
狸の天敵である犬はダメだった。
なら、別の「天敵」ならばどうだろう?
僕は小源太さんを見やる。
少しでも、情報が欲しい。
彼が苦手とするものの情報が。
見て、考えろ。
こういう時は、どうすればいい?
これまで色々な妖怪と相対して来た経験を活かすんだ!
(
不意に。
入庁して間もない頃、
(相手の立場…僕が彼だったら、苦手なものは何だ?)
「へへ、どうした?もう降参か?」
馬鹿にしたように、挑発してくる小源太さん。
僕は奥歯を噛み締めた。
くそ、未だにいいアイディアが浮かばない!
「…」
「おいおい、さっきのでマジでビビっちまったのか?何なら、今すぐママの所へ帰った方がいいんじゃねぇのか?」
高笑いする小源太さんの言葉に。
僕はある作戦を思いついた。
そうだ。
《《アレ》》」ならいけるかも知れない。
しかし、これは賭けだ。
もしかしたら、見当違いで終わるかも…
「あのぅ、いいですか?」
意を決して僕が手を上げると、御屋敷町長が怪訝そうに、
「何じゃ?まさか、本当に降参か?」
「違うます。助っ人方式の件で、確かめたい事があるんですが…」
「確かめたい事?」
成り行きを見守っていた山本さんが、尋ね返す。
僕は大妖達に向き合った。
「助っ人は一人ずつと決まっていますよね?それはそのままとして、他の控えの皆さんと作戦を練るのはアリですか?」
その言葉に、大妖達が互いに顔を見合わせる。
が、それに小源太さんがニヤつきながら答えた。
「ああ、いいぜ」
「おい、小源太」
口を挟もうとした山本さんへ、小源太さんは挑発するように笑った。
「何だよ『魔王』?こんな連中にビビってんのか?」
山本さんは、そんな不遜な態度に溜息を吐いた。
「そう言う訳じゃねぇが…お前はいいのか?」
「ははっ、別に構わねぇさ。助っ人だって、増やしてもいいくらいだぜ」
「…って、ことだ。まあ、顔を突き合わせて作戦を練るくらいなら、そっちで好きにやれ」
山本さんがそう言うと、僕は頷いた。
「感謝します。じゃあ、余さん。ちょっと相談が…」
そう言うと、僕は余さんにあることを耳打ちした。
「ほう…ほう!」
それに最初は怪訝そうだった余さんだが、最後には笑みを浮かべて頷く。
「了解したでござる!」
そう言うと、自分の荷物の中から、小型のタブレットを取り出す余さん。
電源を入れると、早速何か操作を始める。
「おいおい、藪から棒に何だよ、お前ら」
飛叢さんがそう言うと、パッドのモニターを見ていた余さんが人差し指を口に当てた。
「しっ!今は話しかけないで欲しいでござる」
似合わぬほどに真剣な表情でそう告げると、不意に余さんの手が止まった。
「あったでござる!」
「さすがです、余さん!」
そう言うと、余さんは怯え倒した三池さんに、パッドの画面を見せた。
「三池殿、次はこれでいくでござるよ」
「へ?え?なにこれ?」
「いいから!早くお願いします!あと、シチュエーション的には、こういう感じにごにょごにょ…」
僕がこっそりと耳打ちすると、三池さんはしぶしぶ小源太さんの前に立った。
「ふん、どんな作戦だか知らねぇが、また返り討ちにしてやるぜ!」
小源太さんは、相変わらず余裕の表情だ。
「んもう、どうにでもなれ!」
そう言うと、三池さんは再び身構えた。
「妖力【燦燦七猫姿】!」
ドロン!
三池さんの姿が変化する。
一瞬後に、そこには一人の女性が立っていた。
年の頃は30~40代だろうか。
濃い藍染の着物を着た、美しい妙齢の女性である。
一同が呆気にとられる中、女性はニッコリ笑った。
「久し振りやね、小源太」
声まで別人になった三池さんが、そう言うと、女性を目の当たりにし、硬直していた小源太さんが、ワナワナと震える指を突き付け、叫んだ。
「か…か、かかか母ちゃんっ!?」
その一言に、全員がポカーンとなった。
ただ一人、玉緒さんが目を丸くしつつ呟いた。
「あらあ…
「元気だった?」
そう言いながら、先代はニッコリ笑う。
それに、小源太さんは目を奪われたように立ち尽くした。
「あ、ああ…母ちゃんこそ…」
目の前の先代が三池さんであることも忘れたかのように、呆然自失となったまま頷く小源太さん。
「うちも相変わらずよ…ところで」
先代は少し低い声で尋ねた。
「ちゃあんと、お役目果たしてるんでしょうね?」
「へ?」
「まさかとは思うけど…」
優し気だった先代の視線が、刃のような鋭さを帯びた。
「うちがくたばったからって…怠けてなんかいないわよねぇ!?」
先程までの楚々とした雰囲気はどこへやら。
先代は、鬼族も裸足で逃げ出しそうな迫力で、小源太さんに詰め寄る。
「いや、ちょ…待っ…」
死別した母親が、鬼気を立ち昇らせ迫ってくる様を目の当たりにし、小源太さんは盛大に慌てて始めた。
「小源太ァ…」
完全に肉食獣の目になった先代が、ゆっくりと手を振り上げる。
「う、うわあ!母ちゃん、勘弁!」
恐らくは条件反射。
振り上げられたその手に、小源太さんは思わず身をすくませ、目を閉じた。
その一瞬の後、
ピン!
「あたっ!?」
小源太さんのおでこを、元の姿に戻った三池さんがデコピンする。
「にゃははは、ビビった?」
呆気にとられたままの小源太さん。
そこに御屋敷町長が、ホイッスルを鳴らす。
「勝負あり。坊の勝ちじゃ」
その宣言に、釘宮くんや鉤野さん達が歓声を上げる。
僕もホッと胸を撫で下ろした。
「ちょ、ちょっと待て!今のは…」
「ビビッとったじゃろ、
そう告げる御屋敷町長に、小源太さんはグッと言葉を飲み込んだ。
そして、不満そうに、
「クソッ!ああ!ああ!ビビったよ!俺の負けだ!」
不貞腐れたように、どっかりと
それに、僕は近付いて手を出した。
小源太さんが、
僕は笑った。
「実は…僕も同じなんですよ」
「ああん?」
「小さい頃から、よく怒られて躾けられて…だから、母さんには、今でもちょっと頭が上がらなくて」
「…」
「強いお母さんだったんですね」
そう言うと、小源太さんは薄く笑った。
「知ったかぶるなよ。母ちゃ…いや、お袋が亡くなったのは、もうずっと昔だぜ?それこそ、お前が生まれる遙か昔だ」
「でも、記録にはちゃんと残ってましたよ。ご遺影もその偉業もね」
僕が後ろを振り向くと、余さんが得意気に手にしたタブレットを掲げて見せる。
余さんは「自分が覗きたいものを、神憑り的な運で覗けてしまう」という妖力【
なので、即興だったが、彼の力により、小源太さんのお母さんの情報をネットで検索してもらったのである。
勿論、相手は故人とはいえ大妖だ。
そう簡単には個人情報は検索出来ないが、余さんは時々、国の特別住民対策室のアーカイブにお邪魔しているそうなので、今回、それを活用させてもらったのである。
…無論、そんなこと、大声では言えないんだけどね。
呆気に取られていた小源太さんは、それを聞くと不意に笑いだした。
「それで、急に作戦がどうとか言い出したのか?お前、見かけによらず、
「ヒントは、小源太さんがくれたんですよ…『今すぐママの所へ帰った方がいいんじゃねぇのか?』って」
そう言って笑う僕。
「人も妖怪も、そう大して変わらない」…あの時の主任の言葉が、僕を後押ししてくれたのだ。
だから、経験上「同じ男同士だし、もしかしたら母親が苦手な相手かも」と思った。
何せ、赤ん坊の頃から世話になっている相手である。
小源太さんにとっても、頭が上がらない存在なのかも知れない…と考えたのだ。
賭けではあったが、その予想は見事的中してくれたようだ。
しばし僕を見上げていた小源太さんは、やおら僕の手を掴んだ。
「『小源太』だ。『さん』は、いらねぇ」
「え?」
手に掴まって立ち上がると、小源太さん…いや、小源太は片目をつぶってみせた。
「そう呼ばせてるんだ。俺が認めたダチにはな」
そう言うと、
「…隙あり!」
「うわ!」
僕は手を極められ、綺麗に床に転がり倒されてしまう。
床に仰向けになり、呆然となる僕を見下ろすと、小源太は年相応の少年の笑みを浮かべた。
「もう一つ教えてやろう。いくらダチだからって、妖狸の手を延々握ってるとな、時々、そんな風に化かされちまうかも知れねぇぜ」
「は、はあ…」
目を白黒させる僕に、小源太は小さく続けた。
「ありがとよ、巡…偶然でも、久し振りに会わせてくれて、感謝するぜ」
「…うん」
小源太の手を借りて立ち上がった僕に、三池さんが駆け寄る。
「えへへへ~♪どうだった、十乃君?私の名演技は?即興の割には、結構イケてたしょ?」
ネコミミをピコピコ動かしながら、胸を張る三池さん。
それに僕は少し思案した後、
「二十点ですかね」
「ええ~!?あんなに頑張ったのに~!?」
途端に不満そうになる三池さん。
僕は悪戯っぽくクスリと笑った。
「冗談ですよ。文句なしの百点満点、あげちゃいます。有り難うございました、三池さん」
そう言うと、三池さんはいつもの明るい笑顔を浮かべ、僕とハイタッチした。
「にゃはははーっ♪びくとりーっ!」
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