覚醒TVをご覧の主人公さま、おはようございます!

ちびまるフォイ

ご覧のスポンサーが覚醒しました

―――――――――――――――

みなさんは「覚醒TV」というものをご存じだろうか。


仲間が死んで怒りで覚醒。

大事なものが壊された怒りで覚醒。


主人公が強大な敵を倒すのにはいつだって覚醒が必要。

でも、ポンポン死ねる仲間はそういない。


そこで「覚醒TV」の出番です!


覚醒TVでは24時間365日、いつでもあなたの眠れる獅子を起こす

怒りのVTRを常に流しています!


さぁ、これを見てあなたも覚醒して強くなりましょう!!

―――――――――――――――覚醒TV公式サイトより


「社長、また覚醒率下がってますよ」


「またぁ!? これがテレビ離れなの!?」


「年末の特番も裏番組の、

 紅白笑ってはいけないグルメに負けてました。

 このままじゃ存続も危ういですよ」


「言わないで! わかってるから! 考えてるから!!」


社長はぐるぐると頭の中で問題点を考えた。


「やっぱり、最近のはちょっとシュールに偏りすぎたかな?」


「社長が言ったんじゃないですか。

 『これからは視聴者との距離を詰める』って。

 スマホが大破してキレるってのは、まぁあるあるですけど。

 キレるというよりも悲しくなりますから」


「じゃあなに!? 親友が死んで悲しくて怒って覚醒するのと

 スマホを落として悲しくなって怒って覚醒するのとどう違うの!?」


「非生物かそうでないかじゃないっすか」


「わからない! 現代人の冷めた心はわからない!!」


還暦の社長は現代とのジェネレーションギャップに苦しんでいた。

ゆーちゅうぶ、なるものを見ても面白さがまったくわからないのだ。


「とにかく、これ以上の視聴率低下は避けなければならない。

 あれをやるぞ」


「あれっすか。了解っす」


あれ、とは覚醒TVの鉄板VTR。

大事にしていたペットが自分の前で無残に殺されてしまう映像。


最近ではペット人気も手伝って感情移入しやすく

かつ親友を超えるほどの激怒を誘発させて覚醒率を跳ね上げる。


「これで一安心だな。離れた視聴者が戻ってきたら、次の手を考えよう」


放送終了後、ふたたび社長に悪い知らせが届いた。


「社長、先日の放送の覚醒率ぜんぜんダメでした」


「うっそ!? なんで!? 鉄板のVTRなのに!!」


「だって社長、覚醒率ピンチのたびに同じの使ってるじゃないですか」


「同じじゃないよ! 前はチワワだったけど今回は柴犬だよ!!」


「いや犬種ではなく」


「いまどきの子ってペット失って覚醒しないの!?

 というか、覚醒を必要としてないの!?」


「最近はチート使いますからね。

 そもそも汗をかいて努力するとか、

 仲間のために血を流すとか汗臭いのは好まれないんですよ」


「そんな……」


「求められているのは、涙を流しての覚醒ではなく

 汗一つかかずにスマートに処理する力なんですよ」


「君、そこまでわかっていて、どうして指摘してくれなかったの?」


「いや怒りで社長が覚醒するかなと」


「何考えとるんだ君は!?」


これがゆとり世代との差なのか。

相変わらず人の心がないような部下に振り回される。


「もっとあれかな? ワンセグで見てくれている人のために

 ショートなVTRにした方がいいかな?」


「社長、ワンセグの視聴率に期待してるんですか」


「ラジオでも流してみるとか?」


「社長、考え方がどんどん時代逆行してます」


「えーー。コニコニ生放送で、怒りで覚醒する用のVTR流す?」


「視聴者が怒るよりも先に、動画が炎上しますよ」


その後もアイデアは続いたが、部下の鋭い指摘でことごとく却下された。

ついに社長は万策尽きておもちゃをねだる子供のように手足をばたつかせた。


「わかんないーわかんないーー!

 どうすれば、みんなが怒ってくれるのーー?!」


「社長、まず服を着てください」


部下は全裸の社長に靴下とネクタイだけ手渡した。


「社長、なんやかんや言っても現代人も覚醒は必要としてます。

 強大な敵を前にして、チートで片付けることもありますが

 それでも多少の覚醒は必要になるんですから」


「そうなの? でもだったらどうして最近の覚醒率低いの?」


「それはマンネリ化ですよ。

 毎回同じパターンの死に系VTRばかりじゃないですか。

 有効で王道な手段も、繰り返されればすぐに飽きられます」


「昔だったら、セクシーなVTRにしておけば視聴者増えたんだけど

 今じゃ流せるようなものじゃないしねぇ」


「それですよ社長! 覚醒TVを再生させる突破口!!」


「ええええ!? でもこんなの今じゃ流せないよ!?

 BPOが怒りで覚醒しちゃうよ!?」


「僕に任せてください」


部下は怒らせるためのVTRをこしらえた。


―――――――――――――――――

「だめだ! 敵が多すぎる! 姫! あなただけでもお逃げください!」


「騎士団長ーー! そんなことできません!

 これでも私は一国の姫なんです!

 仕えているもののために、最後まで見届ける義務があります!」


「ぐあああ!」


「団長ーー!」


「姫……どうか……止まらないでください……」


騎士団長は城に攻め入って来た獣の軍勢にやられてしまった。

あれだけ人のいた城内もついに姫だけとなった。


「おい、この男まだ生きてやがるぜ」

「足の小指をぶつけたのに生きてるなんてタフな奴だ」

「だてに騎士団長というだけあるな」


獣たちは虫の息で這いつくばる騎士団長を小突いていた。


「あななたち! やめなさい!! 私の仲間を傷つけないで!!」


「ひ……姫……」


「あぁん? お姫様よぅ、あんた自分の立場わかってんのか?」


「ええ、わかっています。

 私はこの国を治める一国の主。

 そして、あなた方は侵略者ということです」


「クックック。だったらどうするよ。

 わかんだろ? この状況。あんたを守るナイトはもういない。

 国を渡すか、仲間を八つ裂きにされるか選ぶしかねぇんだよ」


「いいえ、もう一つあります」


姫は玉座を降りて、王冠を置き、マントを脱いだ。

そして、獣たちの前で静かにひざをついて頭をさげた。


「どうか、私はどうなってもかまいません。

 その代わり、私の大切な仲間を助けてください」


「ゲヒッ。いいのかい?」


「はい……。私を好きにしてください……」


獣たちはにやりと口の端が持ち上がる。


「じゃあ、遠慮なくいただくぜ! その体をなーー!!!」





姫はどうなってしまうのか!? 続きはCMのあと!!

―――――――――――――――――



「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

「続き見せろやぁぁぁぁぁ!!!」


覚醒TVはこれまでで過去最高の覚醒率を記録した。

CMのあと、来週に続くとテロップが出ると、再び覚醒率は跳ね上がった。

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