陽だまりの彼女③
いきなりのサイコホラー扱いに驚きながら花子は受け取ったばかりの本を改める。
……表紙も中身も陽だまりの彼女、間違いなかった。
「あの、そんな要素ありましたか?」
コクリと悠太郎が頷く。
「……えーっと、どこら辺、のことでしょうか?」
「どこら辺って、ちょっと答え合わせする?」
悠太郎の提案に今度は花子がコクリと頷く。
この本はネタバレ厳禁、ゆえに渡したときの説明はほとんど『読めばわかる』で済ませてしまった。そこから出る齟齬が原因かもしれない。読み終わった今ならできる話もあるだろう。
「まず冒頭、二人の出会いからだよね?」
「そうですね」
悠太郎に答ながら花子はページをめくる。
「始まりは、二人の出会いだよね?」
「はい。仕事の打ち合わせで、それで実は二人は中学校の同級生で」
「その頃はいじめられてたヒロインを主人公が助けて」
「マーガリン事件ですね」
「そうそう、それが切っ掛けでまとめて危険人物にされちゃって、クラスで浮くようになって」
「そうです。それから二人は一緒に行動するようになるんです」
それはまるでお姫様を守る騎士のように、なんてのはいくら何でも乙女志向過ぎるし、サイコホラーの嫌疑を考えれば自重しといた方が無難だろう。
「それで、主人公は引っ越して離れ離れに、だったよね」
「あ、はい」
ファーストキス、飛ばしちゃうんだ。
「それで、久しぶりに出会ったヒロインは見違えるように優秀に、美人になっていて、一緒に仕事をしていくうちに恋人同士になる」
「そうでしたね」
思い返すだけでにやけてしまうような二人の生活、だけど悠太郎の表情は渋い。
「……そうか、今から思えばあの不自然なほど甘々ないちゃつきぶりは後々のホラー展開への布石だったんだな」
「え?」
確かに、中盤は二人のバカップルな生活が中心になる。だけど、あれは不自然というか、理想的なカップルだと思って読んでいた。
そうか、あぁゆう感じの生活は男性には、重すぎる愛とかいう感じのサイコなホラーに見えちゃうのか。
「で、ここまでは良かったんだよ。なんか普通にラブストーリーでさぁ」
あ、そこは良いんだ。
「でもさ、ヒロインの過去の話とか出てきたあたりから怪しくなってくる」
ここら辺から、ネタバレ厳禁の終盤だった。
「それから出てくるのが、謎の大金、合わない指輪、大量の抜け毛に、体調もなんか変だ。それで病院に連れて行っても異常なし、それで、あの事件だをきっかけにヒロインがいなくなる」
怒涛の展開、幸せだった二人の生活が一気に崩壊してしまうのだ。
「それで、どういうわけだか主人公以外ヒロインの存在を忘れてる。お隣さんも会社も家族も、皆覚えてなくて、それでも主人公はずっとヒロインを探して回るわけじゃんか」
「そうです。胸を締め付けるような不安と悲しみのシーンです」
「そうだけどさ。それであのオチじゃん」
「あのオチです」
「サイコホラーじゃん」
「いや何でそうなるんですか?」
答え合わせでもかみ合わなかった。
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