陽だまりの彼女④
あのオチに、賛否両論が起こるのはまだ理解できるけど、あれをサイコホラーと表現するのは理解できなかった。
「……いや、本田さん。落ち着いて考えてよ」
悠太郎はゆっくりと説明する。
「あのオチを含めて、全部主人公の男の、一人称での視点で書かれてるんだ」
「そうですね」
「つまりは、全部主人公が見てるだけで、客観的にどうこうっていうのは書かれてないんだ」
「……待ってください。それってつまりはこれは全部主人公の妄想オチって言いたいんですか?」
「全部じゃないよ。俺の予想だと、同棲までは本当なんだと思う。だけど恋は盲目っていうか、それから脳内補完、相手を美化しすぎてて、相手の良いところしか見れなくなってる。それがどんどん悪化して……だとみんな記憶がないのが辻褄合わないから、その前からか。大金は彼女に使ったと思ってたお金を残してたもので」
クスリ、と悠太郎は笑う。
「それで抜け毛は自分ので、彼女も見えなければ自分の頭髪も見れなかったーとか」
「そんなわけありません!」
図書室に響く花子の声、それを自覚しながらも、それでも花子は自分を止められなかった。
「確かに他人から見れば滑稽かもしれません。本当に妄想オチなのかもしれません。だけどこれは恋愛小説なんです。現実では、失恋とか片思いとか、うまくいかない恋愛ばっかりかもしれません。だからせめて、物語の中は、どんなごり押しでもいい、ご都合主義でもいい、それでもハッピーエンドじゃないと、救われないじゃないですか」
呼吸も忘れ、周囲の目線も気にせず吐露したのは、本田花子の望む恋の結末だった。
それを、他でもない栞悠太郎にだけは、笑われたくなかった。
「……なんか、ごめん」
シュン、としてる悠太郎に花子は言い過ぎたと後悔した。そしてその挽回の前に、悠太郎は続けた。
「俺は、あんまり恋愛とか詳しくないけどさ、それでも本人が幸せって言い張ってるから幸せ、みたいなのは違うと思うんだ。だからこの本読んで、これが恋愛だなんて思って、もし本田さんがマネしちゃったら、人生詰んじゃうかなーって、思ってさ」
「詰み、ですか?」
「そう。あのオチなら、きっと他の趣味とか対人関係とか全部捨てて彼女にぞっこんで、話題なんかも彼女だけ、そういう生活になっちゃうんじゃないかなーって」
「あーそういう感じで続きそうですね」
「そういうのは、ちょっともったいないかなって。まぁ、二人が幸せなら、みたいなオチなんだろうけど、さ。あーやっぱ、俺にはラブストーリーは早すぎたなー!」
そう言って、悠太郎は大きく伸びをする。
「なんかごめんね。リクエストしてせっかく選んでくれたのにこんな感じで」
「いえ、そんな」
「やっぱ俺には恋は全然わかんないや」
その一言は、花子には寂しかった。
「……全然関係ないけどさ」
「なんですか?」
「これ」
言って悠太郎が陽だまりの彼女の本から引き抜いたのは栞、描かれているのは寝ている犬だった。
「俺犬派。本田さんは?」
「うちは、本が多くてペットは無理なんです。あ、でも昔金魚飼ってました」
あ、と二人は目が合った。
「金魚、食べてたね」
「食べてました。あそこは、サイコホラーですね」
フフフと笑い合う二人、まだ恋愛小説には早いけど、今の関係も、悪くないなと本田花子は思った。
ビブリオちゃんは薦めたい のやつ 負け犬アベンジャー @myoumu
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