図書委員は帰る前にまず、誰も残っていないか確認して、忘れ物を見て、電気を消して、鍵を閉めるのが役割だ。


 その通りにやって、図書室を出ると、悠太郎が花子を待っていた。その手に持つ鞄は大百科で歪に膨らんでいた。


「それじゃあ本田さん。本、借りてくね」


「あ、はい」


 満面の笑みでヒラヒラと手を振る悠太郎に赤い顔を隠すようにペコリと頭を下げる花子、これが今の二人の距離だった。


 まだ遠い。だけど少しずつ、近づけたい。


 花子は思いながら先に帰る悠太郎の背中を見送る。まだ一緒に帰るとかは、想像の中でも恥ずかしすぎて、無理だった。


 と、想いが伝わってしまったのか悠太郎が立ち止まる。


 ……だけど見てるのは花子ではなくて、放送室への扉だった。


 それ見つめ、それかおもむろに、歪な鞄をギュッと、まるで衝動を抑えるかのように、掴んで、それから行ってしまった。


 ………………栞君にお薦めする本はもっと選らばないと。


 花子は心のノートに書き留めた。

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