「本田さん大丈夫?」


 あたふたする悠太郎、それは嬉しいし、同時にこんなみっともない姿見て欲しくないけれど、そんなこと言えないほどに痛かった。


 前屈み、しゃがんで上履きの上から小指をさする。


「教室にはいたのになかなか来なくて心配なっちゃって見に行こうとしてたんだ。ごめんね」


 謝りながら悠太郎は落とした本を拾ってくれる。やっぱ男の子って力あるんだ。


 それを差し出されるけど、今の花子には受け取れる余裕などなかった。


「重い本だね。勉強の?」


 答える前に手持ち無沙汰からか悠太郎は表紙をめくる。めくってしまった。


「詐欺とかペテンとか、百科典できるぐらい種類あるん?」


 もう手遅れ、と思うと同時に、思ったより感触の良い反応、ならもう、このままいっちゃおう。


「うん。すごいいっぱいあって、面白いよ」


「ふーーん」


 みっともないほど文才の無い本の紹介、でも悠太郎は興味を示してページをパラパラとめくる。


 ……悠太郎はあっという間に本の世界に引き込まれていった。それこそ、目の前の私が見えなくなるほどに、深くに、だった。

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