俺なりの
暫く電源も入れずにコタツの中で物思いにふけっているうちに、眠ってしまっていたらしい。
そろそろ腹も減って来たので何か食べようと立ち上がった時、
ふと思い立って、俺はいったん外へ出た。
「すみません。パンの耳ってありますか?」
俺は、テツの行きつけだったパン屋へと足を運んでいた。
「あら、あなたテツくんの相方の……」
名前を覚えてもらえないのは、今に始まった事ではない。
「はい、あの僕、豊臣圭と申します。パンの耳、もし余ってたら……」
ああ、それね。ちょっと待ってて。
俺の自己紹介もよそに、パン屋のおばちゃんはそう言って奥の方へはけていく。
そして、でっかいビニール袋にはいったパンの耳を持って来ると
「これ、持って行って。テツくんいなくなっちゃったから、貰い手がいなくてこんなにあるのよ」
正直こんなに食えるかと思ったが、
「あなたも大変だったね。」
おばちゃんの悲しげな表情を見て、なんだか不意に泣きそうになる。
「ありがとうございました」
それだけもらっていくのはおばちゃんに悪いので牛乳もついでに買って、急いで店を後にした。
最近優しい言葉をかけられるたびに泣きそうになるから困る。
それにしても、こんなにたくさんのパンの耳、どうしよう。
色々考えながらふと袋を見ると、でかい文字で”宮田”と書かれていた。
なんだかひどく滑稽に思えて、1人口元が緩む。
行き先も考えずにふらふらと歩いていると、
よく2人でキャッチボールをしたり、薫と3人でふざけあっていた公園にたどり着いた。
公園の池の前にあるベンチに腰掛けると、鯉が一匹泳いでいるのが見えた。
そいつの方に、パンの耳をちぎって思い切り投げてみる。
すると次第に鯉の数が増えていった。
パンの消費に丁度いいやと思い、俺は暫くそうやって時を過ごした。
バシャバシャ。
鯉が群がる音を聞きながら、俺はずっと相方のことを考えていた。
ひたすらパンの耳をちぎっては池に投げ入れ、ちぎっては入れを繰り返す。
やがて腹がいっぱいになったのか、鯉たちはパンを食べなくなって来た。
日の沈みかけた公園の池には、パンの耳のかけらが点々と浮いている。
小さな池に浄化されることなく浮かんでいるパン屑を眺めていると、
何だか今の自分の気持ちを見ているようでいたたまれなくなる。
まだ半分以上残っているパンの袋と牛乳を持って、俺は再びテツの家に戻ることにした。
「本当、クソマズイな……」
俺は残ったパンの耳で、あいつがいつも食べていたケチャップライス(ちぎったパンの耳をケチャップで炒めただけ)と、味噌汁(の具がパンの耳)を作って食べた。
それは、変わらず全然美味しくなくて。
「よく総菜屋の息子にこれ食わしてたな、アイツ……」
ヤケになって食べているうちに、段々泣けて来た。
泣きながら食べる”宮田定食”は、2人で食べるよりも美味しくなくて。
寂しくて、悲しかった。
でも俺は、それをいつもの倍くらいの速さで完食した。
俺なりの、供養のつもりだった。
こんなに質素だけど、これ以上の供養なんて、俺には考え付かない。
一瞬ふふっと鼻で笑うような音がして振り返ったけれど、
そこには少しはみ出たエロ本があるだけだった。
きっと俺の供養を見て、テツが上で笑ったのだろうと思った。
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