ちゃんと生きてる
ドアノブに、あふれんばかりの花がかけてある。
それを全部抱えて中へ入ると、貰い物であろう散乱した靴。
さらにそれをかき分けて狭い廊下を進むと、狭い居間にたどり着く。
窓一面にはカーテンの代わりに段ボールが貼り尽くされていて、薄暗い。
「痛いっ」
足元が見えない状態で歩いていたら、不意に足の小指を思いっきり何かにぶつけた。
持っている大量な花の隙間から見えたのは、不法投棄のシールが貼られたポットだった。
立ち止まり、テツがいつも寝ていたであろうソファーベッドの上に花を乱雑に置き、
よく2人でネタ作りをしていたコタツに1人で入り込む。
俺は今、テツの部屋にいる。
テツは近所でも有名な変人だった。
100円シャワーを1回で終わらせるために道を歩きながら頭を洗ったり、
気がつけばゴミ収集の日に捨てられていた使えそうな家電を拾ってきたり、
毎週欠かさずパンの耳をパン屋さんからタダでもらいに行っていたり……
その数々の奇行についにはファンがつき、家バレしているため、玄関には生前から色んなお土産がかかっていた。死んでからもその名残でお土産が絶えない。
部屋の掃除は俺がテツの母にお願いしてやらせてもらう事にした。
それから1週間。
あいつが死んでから初めて、俺はその部屋に入った。
何も変わらない。
カビ臭い匂いも、ごちゃごちゃ置いてある拾ってきたものの数々も、
何年も前にビンゴゲームで当てた景品のお菓子も、
少し押入れからはみ出たエロ本も。
全部、何にも変わらない。
その空間は、あいつが生きていたことを生々しく表していた。
喉が渇いたので台所へ行って見ると、そこにも大量の貰い物であろうペットボトルが置いてあって、とにかく動きにくい。
俺は未開封で、賞味期限が切れていないかをしっかり確認してから少し飲んだ。
そして、今度は足の踏み場をしっかり確認しながら再びコタツに戻る。
正直俺は、この家の片付けを買ってでたはいいものの、どうしても来れずにいた。
来たら、あいつは死んだんだと再認識しなければならないから。
思い出がつまりすぎたこの部屋に入っても、虚しくなるだけだと思っていた。
でも違った。
いざ入って見ると、あいつは間違いなくここで生きていて、
俺はあいつと過ごした時間が大好きだったと言うこと。
それを改めて実感することになった。
それは、なんだか凄く俺の固くなった気持ちを和らげた。
「来て良かったな」
心から思った。
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