出会い

テツと初めて会ったのは、小学校6年生の時だ。

転校してきたのはテツ。

端正な顔立ちととにかく明るいキャラクターで、テツはすぐにクラスに馴染んでいった。


一方の俺はと言うと、小学校4〜5年生頃から何となくでき始めたクラスの見えない階級の波に乗り切れず、

気がついた時には最下級層でくすぶっていた。


そんな一見関わりのない2人だが、

思わぬ形で仲を深め、後にお互いの人生を語る上で欠かせない存在にまで発展する。


それが、俺の家だった。



俺の実家は総菜屋で、一応ばーちゃんの代から細々お得意さんなどが通っている歴史のある店だ。

昔から母に借り出されて、店の手伝いをやらされていた。


「最高。何回見ても面白いなぁ」

ある日、いつものように薫(同じく最下級層でくすぶっている仲間)と、2人が大好きな漫才を鑑賞しながら店番をしていると(とは言っても客なんてまばらなのだが)、1人同い年くらいの奴がこちらに向かってくるのが見えた。


「うわ。うるさい転校生じゃんか。これでお前、明日のあだ名はアジフライだな」

先に相手の顔を認識した薫が、メガネに手をかけながら、少しこちらに同情するような声を上げる。


ようやく顔を認識した俺は絶望的な気分になった。

店番をしている時にクラスの奴に会うと、決まってそのことについていじられるのだ。

だから俺のあだ名はいつも何かしらのお惣菜だった。

大概その日の特売品が俺のあだ名になるが、定着するほど呼ばれないので新たに見つかった日の特売品のあだ名が誕生する。


「ふー、やっと見つけた。ここ、分かりにくいね。太一がここの話してて、安いって聞いたから」

主婦か。

太一とは、クラスの上級層に位置する人物で、まさについ最近俺に”きんぴら”とあだ名をつけてきたやつだ。

太一がここの話をするのは、オススメしたいからじゃない。

いじる奴がいなくてつまらないからだ。

そんな情報でよくこいつも買いに来たな。


「豊臣バイト?小林も?」

俺はもうすでに太一の名前が出た時点で、この転校生を敵とみなしていた。

「違う。ここ、うちん家だから……手伝いで……薫は別に遊んでるだけ……です」

何で敵に情報提供しないといけないんだと思いながらも、渋々答える。

一応最下層の意識はあるので、思わず敬語を使ってしまった。


「てか、お前らも好きなの?」

せっかく提供した情報は、こいつに届いたのか届いていないのか。

唐突にまた聞いてきた。視線の先はテレビの中の漫才師。

我関せずを貫いていた薫の肩が、「お前ら」とひっくるめられた事でビクっとなったのを俺は見逃さなかった。


とっさに2人同時にコクンと頷くと、

「まじか。俺も凄い好きなんだ。ちょっと一緒に見ていい?ここ座るよ」

気がついたら転校生はそれだけ言うと、店の中の椅子に腰掛け、テレビを見始めた。

何となく、こいつがクラスにすぐなじんだ理由が分かってきたぞ。

突然の訪問者に呆然とする俺と薫だったが、あまりにも自然に話してくるのでものの15分ですぐに打ち解けた。

何より、結構真剣にお笑いの話を出来る仲間が増えたことが嬉しかった。


その気持ちは薫も同じだったようで、この日から3人は頻繁に集まってはお笑い番組を見て感想を言い合うようになっていた。

お互いのことも”テツ” ”ケイ” ”薫” と名前で呼び合っていた。

そして、たまにネタを書きあって密かに”総菜屋キミ”としてトリオを組んでいた。

(ちなみにトリオ名は言うまでもなく実家の総菜屋の名前だ。)


高校に上がると、薫だけずば抜けて頭が良かったので別の私立へ入学した。

その間も俺とテツは変わらず総菜屋キミとしての活動を細々と続けていた。

それは、社会人になってからも頻度は減ったが変わらず行われていた。

薫にはいつまで経っても中学生のノリだとよく言われていたっけ。







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