サヨナラじゃないよね、また会えるから
甘味
最初で最後
毎日大勢の命を奪っていく神様は、とんでもないものを奪っていった。
よりによって何でコイツだったんだよ。
お前も、何で簡単に奪われてんだよ。
浮かんでくるのは、今となってはなんの意味もない「なんで」ばかりで。
心に穴が開くって、まさにこういう事を言うんだな。と意味のない事を考える。
そして一生、この穴が埋まることはないのだろう。
涙は出なかった。
泣けるほど現実を受け止めきれていないから。
俺はただ、真っ黒な額縁に入ったよく知っている顔を、ぼーっと見ていた。
その顔はでかい口を開けて、幸せそうに笑っている。
あんな事故に逢うなんて、誰が予測できただろう。
まさか死ぬなんて、いったい誰が予測できただろうか。
俺はまだ、棺の中の”あいつ”を見ていない。
正確に言うと見れていない。
でも、どうしても見なければならない時はやってくる。
みんなが”あいつ”との最後の時を惜しむように花を添えている。
俺はその背中を、まるで夢でも見ているかのような気持ちで1人椅子にただぼーっと座って、それを眺めていた。
いっそのこと、俺が代わりに死んだら良かったんじゃないか。
そうしたら、こんなに悲しむ人もいなかったんじゃないか。
何より、こんな気持ちにならないで済んだんじゃないか。
そんな事を考えていたら、不意に肩をポンと叩かれる。
驚いて振り向いた先には、青い大衣を着た若い男。
その出で立ちを見て、さっきお経をあげていたお坊さんだと気がついた。
お坊さんは、沢山の白い花を持っている。
少し警戒するような眼差しを向けると、お坊さんはふっと眉毛を下げた。
「大切なご友人だったのでしょう。きちんと見届けてあげて下さい。」
そう言って俺の手をそっと取り、その上に自分が持っていた沢山の白い花をのせた。
俺は少しその花を見て、それからお坊さんを見た。
お坊さんは、悲しげに微笑んだだけだった。
俺は意を決して”あいつ”の眠っている棺に近づき、中を見た。
真っ白な着物のようなものを着て、胸の上に組まされた手。
そして、その上の顔を見る。
今にも起き出しそうな、幸せそうな顔。
間違いなく俺の親友だった。
「テツ……」
返事なんか返ってこないのは分かっていたが、思わず口から出た名前。
組まされた手にそっと触れると、びっくりするくらい冷たくて。
お前、いつもの手汗はどうしたんだよ。
鼻の奥がツンっとする。
それを振り切るように、持っていた花を顔の周り一面にそっと置いていく。
そして、ポケットから”あるもの”を取り出して、それをそっと手の上に持たせた。
俺の一連の動作が終わるのを待っていたかのように、間もなく棺の蓋は閉じられた。
みんなの涙に見送られ、最高の相棒は旅立って行った。
不意に1人になりたくなった俺は、式場の外に出た。
ふと空を見上げると、雲ひとつない晴れ渡った空。
そこに一本、煙の筋が上へと上って行くのが見えた。
ああ……逝くんだな。
俺は一瞬、ほんの一瞬だけ、一筋の涙を流した。
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