2月11日『準備4』
「それさぁ~、成功するかなぁ~?」
ミホさんが従業員休憩室のテーブルに頬杖をついて溜め息を吐いた。
「え、何がですか? どこかイケてないトコあります?」
「え~、どこがって言うか、全体的に~?」
「全体的にじゃ分かんないですよ。改善の余地があるなら教えてくださいよ」
「う~ん、じゃあ言うけど~、お兄さん、もうバレンタインにはチョコ食べてくれないと思うよ~? 悪ノリの結果とはいえ、ほぼお酒のチョコレート飲まされたら、次は警戒しちゃうでしょ~可愛い妹が作ったチョコでもさぁ~」
「……マジですか?」
「う~ん、たぶん」
「……マジか」
「たぶんね~」
それはマズイ。
そんなことになってはお兄ちゃんの初めてを奪うどころではなくなってしまう。
お兄ちゃんにあげるプレゼントを決めかねて、贈り物に詳しそうなミホさんに相談を聞いてもらうついでにチョコフォンデュを試作してお兄ちゃんの観察をしたところまで話したら、まさかこんな回答をもらうことになるとは。
寝耳に水の事態だ。
「どうにかお兄ちゃんにチョコを食べさせる方法はないですかね」
「チョコは難しいかもね~。お酒の匂いが全然しないとかなら、食べてくれると思うけど、それじゃ意味ないんでしょ~?」
「そうですね、泥酔したところを襲うのが作戦なので」
「どうしてそんな成功率低そうな作戦を採用したかなぁ~」
「え、成功率低そうですか!?」
「え、って。こっちが驚きだよぉ~。チョコレートにお酒混ぜて酔わせて寝込みを襲うとか、絶対無理じゃん~。睡眠導入剤飲ませるとかのがよっぽど現実味あるよぉ~」
「お薬はちょっと……怖そうだし……」
「いやまあそうなんだけどさぁ~、酔わせるにしても、チョコをチョイスするっていうのが現実味無いってことだよぉ~」
呆れ顔で話すミホさん。
左腕でついていた頬杖を右腕に交代して、「う~ん、どうしたものかなぁ~」なんて呟いている。
ちゃんと相談に乗ってくれる良い先輩だ。
「睡眠導入剤とかはちょっと使えないと思うんですけど、例えば晩酌で酔わせるとか、どうですかね。もう、お酒として飲ませて酔わせちゃうとか」
「チョコよりは可能性あると思うけど、お兄さんお酒自体弱いんでしょ~? 晩酌に付き合ってくれるかなぁ~」
「じゃあ逆に私が酔い潰れて、酔った勢いで襲うとかどうですか?」
「もう何が『逆に』なのか分かんないけど、それで上手くいくならもっと早くに上手くいってると思うけど~」
「ですよねー」
「うん~」
これはマズイ。
作戦を根本から練り直さなくちゃいけないんじゃないかな。
確かにミホさんの言う通り、お兄ちゃんは昨日の夜は静かに怒ったような顔で私と口をきいてくれなかった。
『てへ、やり過ぎちゃったゾ』みたいな気持ちでほとぼりが冷めるのを待っていた私だけど、冷静に考えてみると今回怒らせてしまったのだとしたら、次回は普通に考えて無いんじゃないだろうか。
「こないだはゴメンねお兄ちゃん、今度は大丈夫だからチョコフォンデュ食べてー」と良いながらお酒の匂いをぷんぷん漂わせたチョコフォンデュを差し出したら「何考えてるんだお前は」なんて言われるに違いない。
口をきいてくれないどころではなくなってしまうことだろう。
「ミホさ~ん、私、どうしたら良いですかねー?」
「お兄ちゃんのこと好きなのは知ってるけど、そんなにお兄ちゃんとシたいのぉ~? それがよく分かんないんだよねぇ~。相手は血の繋がりのある兄妹だよ~?」
「そう言われましてもぉー、好きなものは好きですし、やらしいことしたいかと言われたらシたいし。血の繋がりがあるとかないとか、私には関係ないんですよねー」
「やっぱ分かんないなぁ~」
まぁ、そうだろうなとは思う。
分かってほしいとも思ってない。
この気持ちは私だけのもので良い。
この身を捧げたいと、私の人生を以て添い遂げたいと、そう思わせてくれるのは紛れもなくお兄ちゃんだし、そう思って良いのは私だけだと思ってる。
お兄ちゃんに関心があるのは私だけで良いと、お兄ちゃんを好きになるのは私だけで十二分だと思ってる。
それ以外は、きっと私は邪魔になるだろう。
それこそ、ヤンデレのように。
「ミホさん、私とお兄ちゃんが結ばれる何か良いアイディアないですかぁ? チョコフォンデュ作戦がダメなら、何か良い代案思い付きませんかー?」
「う~ん」
「やっぱ無いですかねぇ」
「無くは無いけどぉ~」
「おっ!?」
「でも、まぁ、卑怯と言うかぁ~~。お兄さんがちょっと可哀相と言うか~……」
「えぇ、お兄ちゃんが可哀想になっちゃうようなことですか?」
「う~ん、まぁ、お兄さんは良い気分はしないかもだけど、ある意味正攻法とも言えると思うぅ……かなぁ~」
「正攻法……? そんな方法が」
「後でお兄さんに怒られても良い覚悟があるなら、教えてあげるけどぉ……聞く?」
拳をぎゅっと握って、ミホさんの言葉に頷く。
「それで、お兄ちゃんと結ばれるなら……」
「嫌われるかもなのに?」
「……それでも、何か、変えないといけないと思うから」
「……そっかぁ。ゆかちゃんは本当にお兄さんのこと大好きなんだなぁ~。羨ましいよぉ~」
「……羨まれるような関係ではないですけどね」
「だねぇ~」
「はい……」
「じゃあ、教えてあげるね」
私はもう一度、ゆっくり頷いた。
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