1月22日

「うわっ、何だこのびっしり埋められた書き置きは……」

 夜中の2時頃Aと交代した。

 起きてる間にAから僕に交代したのはちょっと久しぶりな気がするが、そんなことどうでもよくなるくらい交代した直後のインパクトがデカかった。

「あぁー……そう言われてみれば、めちゃくちゃ推してきてた気がする……。やべー、忘れてただけだったかぁ」

 テーブルに残されたA4サイズのノート用紙を隙間なく埋め尽くす文字。その全てが一昨日僕が見た映画のギャルパンに関するものだった。

「何だか、ギャルパンのリコメンドに鬼気迫るものがあるな。何なんだこの情熱は。どこからくるんだ」

 書き置きに残されていたのはギャルパンに対するAの並々ならぬ愛とどれだけギャルパンが尊いアニメなのかというプレゼンだった。

『最終回で主人公の童顔ギャルと対戦校の代表で主人公の実の姉である黒ギャルの和解のシーンが死ぬほど尊い……。尊さで死んでしまう……。Bも、あと十周はしろよ。映像とキャラだけじゃダメだ。音も聴くんだ。音響さんの拘りをしっかと受け止めるんだ。そして戦車のことに少しでも詳しくなったらますます面白さが爆発するから、どの高校の戦車が一番カッコいいと思うか、先ずはそこから始めるんだ。ギャルじゃないぞ。戦車だ。ギャルパンは戦車アニメなんだ。ちなみに私の推し戦車はBT-42。天下のクリスティー式舐めんなよ。長くなっちゃった。とにかく、これだけ最後に言わせて。ギャルパンはいいぞ。』

 そう締め括られた熱いプレゼンに、そこまでアニメにのめり込んだことのない僕は、さすがに苦笑いするしかない。

 尊いって言われてもな……。

 確かにラストでお姉ちゃんと和解するシーンには泣いたけれど、尊さってどういうことなんだろう。

 それに好きな戦車って言われてもなぁ。まだどの戦車がどれとか見ても分かんないしな。戦車しか映ってないシーンなんか、この戦車が味方のものなのか対戦校のものなのか判別出来ないくらいだ。

 音を聴けと言われても。エンジン音を聞くのかな?

 確かに戦車ごとに音が違うから、すごく拘ってる部分なんだろうけれど、エンジン音を聞いて楽しいのかな?

「分からん」


 まあ、ギャルパンにハマったのは事実だし、何度も見たらもっと面白くなるってAがこれだけ言うんだからきっとそうなのだろう。

 明日と明後日は休みだし、この様子だとどうせAも明日はギャルパンを見返すに違いない。

 僕もAにならってギャルパン漬けになってみるか。

 コラボしてるファミレスは家の近くだし、ご飯作るの面倒だったらまた足を運んでもいい。コラボスイーツはとても美味しかった。

 休日の楽しみができたのは良いことだ。

 ギャルパンきっかけでアニメが趣味になるほどハマるとはあまり想像できないけれど、Aの趣味に歩み寄るのはそれは本望で僕の本懐とも言える。

 Aのことだけじゃなく、Aが好きなものを好きになるのも悪くない。いや、良い。


 とは言え今日は仕事である。夜更かしは仕事と身体に毒だ。

「よし。寝よ」

 仕事の後の楽しみを得た僕は、心地好い眠りにつくことができたのだった。

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