1月15日『Aからのもう一枚の手紙』

『ふっふっふっ。無事にこの手紙を見付ける事が出来たようだね、ホームズ君。日常という名の大スペクタクルヒューマンコメディを日夜演じる君には、少々問題が甘過ぎたのかもしれないね。

 さて、名乗りを挙げさせていただこうか。

 私の名は"A"。第二の君だ。


 君の太陽であり。君の影でもある。

 我が儘なB型を持ち合わせているし、行動力のあるBでもある。

 つまり、君そのものだ。

 ジキル博士とハイド氏のような、表と裏の関係ではない、と、ここでは私はそう言いたいのだよ。

 手紙の前編で綴ったように、私は感謝以上に君に対する悔悟かいごの気持ちで一杯だ。

 そう、それこそ、晩御飯のお米も卵ふりかけがお伴にないと喉を通らないような心苦しさで、胸が張り裂けそうなんだ。

 おっと、『ちょっと贅沢しているじゃないか』なんて無粋な突っ込みは入れないでくれたまえよ。

 感謝の気持ちと、君への後ろめたさは、私の中では切っても切り離せないもので、私は私がやりたいアレコレをやる時、君への遠慮と無遠慮を一度天秤にかけている。必ず君への後ろめたさを感じている。という話だ。

 君が私に全て遠慮してきたように、私は君への遠慮と、我を貫く良心の呵責に、必ず苛まれているという事実を、君に知ってもらおうということなんだ。


 齟齬がないように。私の意図と違う捉え方を君がしてしまわないように、細かく伝えようと思うのだけれど、私は君に謝った。私が我を貫き、その為に君に全てをなげうたせてしまった事実を謝罪した。

 代わりに私は君への申し訳なさを常々抱いて生きている。生き続けていて、きっとこれからもその息苦しさに苛まれ続ける。

 だから、私がこの手紙で君に伝えたいことは、『私への遠慮を止めてほしい』ということなんだ。

 先んじてこう伝えるよ。

『これからも、私の為に全てを擲ってほしい。私の為に君の人生を棒に振ってほしい』

 そしてこうも伝えさせてほしい。


『だから、私を好きという気持ちを、隠さないでください。あなたが私を一途に愛し続けてくれた事実も、私はずっとずっと知っていました。その気持ちがこれから先も変わらず、そして一生報われないだろうことも、あなたが理解しているように私も理解しています。だってあなたが愛しているのは私、つまりあなた自身でもあるのだから。だから、もうこれ以上気持ちを隠したりしなくて良いから、ずっと私を大切に想っていてください。あなた自身を大事にしてください。ずっと、私と一緒に生きて、人生を歩んでください』


 私のほうがあなたよりもはるかに我が儘な『B』だけれど、そのぶん自分の気持ちに正直です。隠したり、誤魔化したりできません。今日までずっと伝えるのを悩んで、どうしたら良いのかずっと考えてきたけれど、私はこの気持ちと私の考え方を正直に伝えることが、あなたのことをちゃんと考えていると伝わると思ったので、今回、こんなに長い手紙を書くに至りました。

 あ、ちなみに、この手紙を書いている今日は、1月9日の三連休の中日です。

 前編も同じ日に書いてます。

 あなたが手紙を読むのはもう少し先だろうけれど、私の記憶があなたにほとんど残らないことを良いことに、私は試行錯誤し、用意周到に計画しているこのお手紙大作戦を決行しようと思っているのです。

 ちゃんと騙されてくれたかな?

 こんな長文、一時間やそこらで書ききれる訳ないだろ! いい加減にしろ!


……あと、これを書くにあたって、どれだけ私が幸せ者なのか、改めて痛感しました。

 日々のあなたの頑張りが、今日一日の私に繋がっているということ。

 私の中にいる貴方が何者であろうと、私であることに、私の大事な私であることに変わりはないということ。

 それを、ちゃんと伝えたかったんです。


 いつもありがとう。


 直接言葉でありがとうと伝えることが叶わないのが、今は一番悔しいけれど、こうして私の言葉で私らしく伝えることが叶って、本当に嬉しく思ってます。

 平々凡々とした二重人格なんてないのかもしれないけれど、ちゃんと私は充足感を抱いて生きています。私は、とても幸せな人間なのです。

 だから、詰まる所私は二重人格で、幸せ者なのです。


 最後まで読んでくれてありがとう。

 これからも、私と貴方の為に私の身体と人生をよろしくね!(笑)


 PS.高校時代の彼以来、恋愛を封印してきた私だけれど、それもこれも貴方の為なのだから、そこは貴方こそ私に感謝してよね!

 そして、いい加減私もちゃんとした恋愛したいから、そこんとこ、貴方も頑張って協力してよね! 我慢しろなんて言わないから。上手く調整してよね。人間関係のバランス取るの、私よりも貴方のほうが上手なの私ちゃあんと知ってるんだからね!

 ヨロシク頼むよ! ボク!』

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