1月14日

 マグカップを掴み、ミルクティーを一口含む。

「……ぬるい」

 熱々で淹れたはずの紅茶からは熱はすっかり奪われてしまっていた。

 て言うか。

「『後半に続く。もう一枚のお手紙探してね(∩・ω・∩)早く探してね!(ノシ 'ω')ノシ[ピーシー] バンバン』って何だよ……」

 ぬるいミルクティーを一気に流し込んだ。

 こんな気になる所で切るとか。Aのやつ、普通の友達だったなら頭をはたいてやるところだよ。

 自分で自分を叩いたところで何の意味もないからしないけど。

「さて」

 とは言え、探すしかない。こうして続きがあるとA本人が残しているのだ。きっと、部屋の何処かに隠してあるに違いない。

 僕は部屋をぐるりと見回す。

 比較的片付けられていると思う私と僕の部屋だけれど、一角だけが汚い。汚いと言うか、服が散乱し積まれている。

 仕事柄洋服が溜まっていくのだが、収納しきれなくなった服は無造作に床に積まれ、そのうち畳むのが面倒になった服が畳まれないまま放り投げられ、さらにその上に服が積まれるという、塵も積もれば何とやら状態で、部屋の隅にはこんもり積まれたゴミ山ならぬ布山が出来ている。

 きっとここではないだろう。そう思いたい。ここに手をつけてしまったら、全て片付けなければならなくなる。

 そうなれば手紙どころではない。いや、手紙を見付けてしまえばこっちのものだと、その時点で布山は放ったらかしになるのだろうけれど、何も探す場所はそこだけではない。

 本棚や食器棚、もしかしたら冷蔵庫の中やお風呂なんて可能性もあるわけだ。

 何しろヒントは『もう一枚のお手紙探してね(∩・ω・∩) 』だけである。

 何処を探せとも、前半の文章の中にヒントを紛らせているとも考えづらい。僕といつ交代してしまうか分からない状態で書き綴った手紙なのだから、手の込んだ隠し方は時間的に選ばない。……ハズだ。

「ここまで書いておいて二枚目の手紙を隠すために手間を労したりしないよな……?」

 僕は今日の朝早く目覚めた。

 起きたまま交代していないのだから、Aは二枚目の手紙を隠し終えてから就寝したと考えて間違いないハズだ。……きっと大丈夫なハズである。

 二枚目の手紙を作成せず寝た、なんてことはさすがにあり得ないだろう。

 あり得ないよな?

 ちゃんと部屋を探せば二枚目の手紙が見付かるんだよな?

 Aを信じて良いよな? 良いんだよな!? A!


「……ねぇよ……!」

 無かった。

 ちっとも見付からなかったのである。

 探した。部屋の隅の隅まで探した。

 本棚、食器棚、冷蔵庫にお風呂。布山も一枚一枚ばらして畳んで片付けた。

 クローゼットに収納してある洋服のポケットまで漁った。

 無かった。何処にも無い。

 何処にも無いのである。

「あんにゃろ……マジで何処に隠したんだよ……!」

 帰宅し一枚目の手紙を読み終えてから、もうずいぶん時間が経った。

 腕に巻いたままの時計を見ると23時。

 もう、Aといつ交代してもおかしくない時間である。

 このまま二枚目の手紙を見付けられないままAと交代してしまっては、Aから何て思われるか分からない。

 Aは僕が一枚目の手紙を読んだことをちゃんと覚えているだろう。そして明日僕に交代した時、僕はAが僕をどんな風に思ったか、きっと思い出せないだろう。

 何て分の悪い宝探しだ。

 出題者のAにアドバンテージがありすぎる。

 帰宅してからミルクティーを飲んで以来ずっと手紙を探しているから、晩御飯も食べていない。空腹も相まって何だかイライラしてきた。

 テーブルに置いていた一枚目の手紙を荒々しく取り、最後の一文を読み直す。

「『早く探してね!(ノシ 'ω')ノシ[ピーシー] バンバン』じゃねーよ! クッソ……!」

 Aがボールペンでわざわざ手書きしている長ったらしい顔文字が無性にムカつく。

「なんでPCまで片仮名なんだよ! 色々意味分かんねぇよ!」

……あ?

 気付いた。

 本当に、何でこんな長い顔文字書いたんだ。わざわざ半角ぽくカタカナまで使って。

 んなもん決まってる。

 ちゃんと書いてあるじゃねーか。

『早く探してね!(ノシ 'ω')ノシ[ピーシー] バンバン』って。


僕たちの定位置、PCの前にどすりと腰を下ろし、閉じてあるノートパソコンを開いた。

 見慣れた壁紙。メイン画面の中央。ど真ん中に、『もう一枚のお手紙』という表記のファイルがあった。


……クッソ……。

 その意味の分からなさに、僕は思わず吹き出してしまったのだった。

「何で、手紙がエクセルファイルなんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る