1月13日『Aからの手紙』

『親愛なる私、B様

 今日も一日、お疲れ様でした。

 昨日は一日中雪で、私が帰る途中には吹雪になっちゃって、柄にもなく家に着くなりお風呂に浸かっちゃったよ。それくらいヤバかったです。寒すぎです。死ぬです。

 あなたがこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世には居ないということですね。

 なんて。ウソです。生きてるから読んでるんだよね(笑)

 おかえりなさい。

 仕事が終わってホッとひと息つきながら飲む紅茶は美味しいですか?

 ミルクティーに砂糖を少しも入れないあなたの好みは私は理解しかねますが(私がコーヒーには砂糖入れないことは棚にあげておく)、紅茶よりもミルクに近いそのミルクティーを飲むあなたは、きっと緩んだ顔をしているのでしょうね。私がいつもミルクたっぷりのカフェオレを飲んで顔を緩めているように。

 あ、そんな顔しないで。

 何か深刻なことを伝えるためにこの手紙を書いた訳じゃないの。なぜならこの手紙を書いているのは午前1時半。とっくに交代していてもおかしくない時間。この手紙の途中にあなたと、私と、入れ替わってもおかしくない。

 だから、書き終わることができれば良いな、くらいの手紙なのです。

 実はそれくらい、天に運を任せてしまおうという、決心のつかない優柔不断な私にとって、伝えるか迷っていた、大事なことなのです。

 なんて。改まってこんな書き方しちゃうと、余計にあなたを不安にさせてしまうかな。させちゃってるよね(笑)

 狙い通りです(笑)

 ってこの辺りで交代しちゃったらどうしようね?

 この期に及んで、私はあなたに伝えるかどうか迷っているのです。

 こんな私でごめんなさい。

 伝えるにあたって、その前に謝らせてください。


 私の為に、あなたの人生の多くを犠牲にさせてしまってごめんなさい。

 こんな私の為にたくさんの努力をさせてしまってごめんなさい。

 あなたに大きな感謝をしているよりも、あなたを犠牲にしてしまったことを、私は深く、とても後悔しているの。


 私たちは、お互いの記憶まで共有しているよね?

 でも、私とあなたでは読み取れる記憶に差があることは知っていましたか?

 あなたの記憶とあなたの気持ちを、私が読み取っていることを、あなたは知っていましたか?

 それをずっと黙っていてごめんなさい。

 最初は私も、あなたと私の記憶と感情を完全に共有しているのだと思っていました。

 お互いの記憶も感情も、思考も、好きな人さえも、筒抜けなんだと思っていました。

 でも、それは私の勘違いだった。

 私はあなたの感情も、考えていることも知っていたけれど(記憶はあやふやなことが多いけれど)、あなたがそうでないと知ったのです。

 その事実を知ったのは、もう10年以上昔のことです。

 私たちが高校二年生の頃。つまり、私に彼氏ができた時のことです。

 と、ここまで読めば、察しの良いあなたはもう気付いたと思います。そう、私が彼氏とエッチをしたことが気付いた切っ掛けでした。

 私は、私が好きだった人とのあれこれを満たされた気持ちで過ごしていたけれど、あなたはそうではなかった。

 苦しみ以上の感情で、あなたが彼の相手をしていたことを私は今でもハッキリと思い出せます。

 そして、あなた自身の感情が、誰に向かっていたのかもその時に知りました。

 もう一つ謝りたいことは、そんなあなたの気持ちを私は利用したこと。

 私の欲を、あなたの好意を利用して満たしていたこと。

 あなたは私の為に彼を拒絶したりせず、堪えて受け入れてくれていた。あなたが彼を拒絶していたら、あの頃の私と彼はもっと早く別れることになっていたと思う。

 結局彼とは、私が就職、彼が進学して離れたことであっけなく終わってしまった訳だけれど、あの時あなたが嫌だと私に伝えていたら、そのあっけない終わりの前にどろどろと面倒なことを経験して彼との想い出はきっと青く最悪の記憶になっていたと思います。

 私にそんな嫌な記憶がないのは、あなたが上手く立ち回ってくれていたからだと、私は知っています。覚えています。

 私は、あなたの、私に向ける気持ちを知っていて、利用していました。

 だから、ごめんなさい。


 ずっと、あなたに謝らなくてはいけないと。あなたに『ごめんなさい、私の為にありがとう。私の為にあなたの人生を台無しにしてしまってすみませんでした』と、伝えなくてはいけないと思っていたんです。


 なんとか、ここまではあなたと交代せずに書ききれました(笑)

 これで伝えたかったことの半分は書き残せました。

 あと半分。なんとか最後まで書き終えれるように頑張りますね(笑)

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