第3話 目的

「なんだテメェ!」

「なんだじゃないよ、女性に手を挙げるなんてさ!」


 シンジは右手で掴んでいたチンピラの手を右に半回転させるとその動きに合わせるかの様にチンピラも回転し地面に叩きつけられる。


「シンジ!」

「アイちゃん、下がってて!」




「う、うん」


 何故こうなっているのかを説明しよう、シンジは街の中へ入ると同時にアイを見失ったが、直ぐに見つけることに成功した。


 どうして簡単に成功したかと言うと少し街に入ると人だかりがあり、その中心にアイがチンピラ数人に囲まれ、口論になっていたからである。


 そして、口論の末にチンピラの一人が手を挙げた直後にシンジが止めに入り、今にあたるのである。


(ねぇ、ギシン!頼みと言うか聞きたいことがあるんだけど)

「なんだ?まさか自分から首突っ込んどいて"変わってくれ"なんて言うなよ?」

(だよね〜、って違うよ!)

「じゃあ何が言いたいんだ?」

(この人たちの制服を見るにガーディアンの生徒なんだけどさ、それにしてはなんて言うか当たり屋とかタチが悪いって感じがしてね)

「まぁ、ガーディアンにも色んな奴は居ると思うぜ?なんだって俺たちみたいなのも居るくらいだからな!」

(あはは、否定できないよ)





「何ボーッとしてんだ!」


 チンピラの仲間はそう言いながらシンジの方へ殴りかかるとシンジはそれを少し屈んで避け、腹を殴る。


「まぁ、所詮この強さだから多分雑魚なんだろうけどね」

「お前唐突に毒吐くよな!」





「な、なんだこいつ!」

「つ、強ぇ」


 一瞬でやられた仲間を見て残りチンピラ達は驚愕の表情を見せる、それも当然である、何故ならどう見てもチンピラ達よりも一回りは小さくみえる少年から、この2分も満たない時間内に二人も仲間がやられているからだ。


「今退くならこの件は終わりにするけど、どうする?」


「ナメやがって!」

「行くぞお前ら!」


(そう簡単に帰ってはくれないか)


「やめろとけ!お前ら!」


 チンピラの後ろの方から怒鳴る声がし、その声が響き渡るとチンピラの中からガーディアンの制服を着た、男子生徒が現れる。


「うちのアホどもが迷惑かけたな、俺の名前はマサ、こいつらのリーダーみたいなもんだよ、よろしく」


 そう言いマサはシンジに握手を求めるように手をさし出す。


「あっ!うん!」


 マサはニヤリと笑いシンジと握手すると即座にシンジの腕を引っ張り膝蹴りを腹に当てる。


「へぇ、まぁそれなりにはできるみたいだね」


 膝蹴りは当たった様に見えたがシンジの空いていた方の手で受け止められていた。


「ったく危ねぇな!」

「ギシン!?」


(強制的に入れ替えさせてもらった!こいつ、俺たちを騙そうなんてふざけた事やりやがったからな!)


「でも、これを止めるなんてね、最初から信用なんてしてなかったかな?」

「悪りぃな!あいつと違って俺は初対面のやつと接する時はから入る人間なんでなぁ!」





(にしても"覚醒能力"が発動しねぇ、なんでだ?)

「ブリーフィングの時言われたでしょ?リバティ・サン王国は治安を維持するために町中には"覚醒能力"を封じる装置が貼ってあるんだよ」

(そういや、そんなこと言ってたか?)

「まぁ、これで仕留めるがな!」


 ギシンは掴んでいたマサの膝を離すと同時に回し蹴りの体勢に入る。


「っと!そう簡単に当たらないよ!」


 マサはバックステップをとり、回避するとニヤリと笑いそう言った。


「離しながら攻撃して来るなんて面白い奴だ!お前名前は?」

「シンジだ!」




「シンジ──か、覚えとくよ!」



「ギシン、そろそろ変わっても大丈夫じゃない?」

(あぁ?これから盛り上がるとこだろ?もう少し俺がやる!)

「いや、多分この人もう切り上げるつもりだよ?」

(なんでそう思うんだよ?)

「だってほら」


 シンジが指を指すとそこにはチンピラの集団は消え、マサも帰る支度をしていた。


「なっ!テメェ!逃げるのか!?」

「逃げる?とんでもない!俺はただ用が済んだから帰るだけだぜ?」

「用だと?」

「あぁ!俺の部下どもが暴れてるって聞いてな、争い止めてあわよくば争い相手と手合わせ願おうかと思ってたんだが──どうやら期待しすぎたみたいだからね」

「期待しすぎた?」

「ガーディアンには君みたいな強さのやつなんて相当いるからな!つっても俺もそこまで強いってわけじゃないんだがな──んじゃ楽しみにしてるよ、1年生!」


 マサはそう言うと町の中へ消えて行った。


「ギシン、そろそろ」

(わーったよ)



「アイちゃん、大丈夫?」


 シンジとギシンは入れ替わり後ろに避難していたアイに声をかける。


「シンジィィィ!」


 アイは泣きながらシンジに飛びつき、強く抱きしめる。


「ちょ!?ちょっとアイちゃん!?く、苦し」

「だって!シンジがあの時みたいに守ってくれたから!嬉しくって」

(そうか、僕は昔もこうやってアイちゃんを)

「へぇ、人間記憶はなくてもそいつの本質ってのは変わらないらしいな!」

(過去の記憶それがないことがただただ歯がゆかいよ、だって──あの時アイちゃんは"5人で"って言ってた、ならこの学園都市に少なくとも後3人は僕の友人がいるってことだよね)

「あぁ、だからこそお前はこの国で記憶を取り戻せ、それが最良のことだと俺は思うぜ?」


 ギシンは照れながらそう言った。


(ギシン、何照れてんだよ──でもそうだね、これで二人の目的は明確になった!僕は記憶を取り戻す。)

「だな!俺は自分の体を手に入れる!」

(「これを最終目的として、何としてでも自由を掴み取るため生き延びる!」)

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