深淵聞耳百物語「安宿の夜」

深淵聞耳百物語「安宿の夜」

著者 三文士 様

作品url(https://kakuyomu.jp/works/1177354054883817048


 幽霊、その他怪奇系の作品に対して、「人間が一番怖い」というコンセプトで作られた作品もあります。

 今回読ませていただいたこの「安宿の夜」は、考え方次第でどちらとも取れる物語だと思えました。


 そもそもの発端はやらかし屋の先輩、マサさん。肝試しはともかく、海外行くのも飽きていたとなるとこれは剛の者。そこまで語られてはいませんが、ひとくちに「海外」と言っても我々がぱっと思いつく観光地ではなくて、バックパッカー的な旅人だったのかもしれません。これからやらかす事態を見ても、そんな雰囲気の人です。


 日本で有数の治安の悪い場所に、わずかな現金だけを持って向かい、適当な安宿を見つけて1泊してくる、という、命知らずな計画をマサさんは立てました。

 そして計画はなんとか計画通りに進み、宿も得られてそこで眠るマサさん。

 だが、マサさんが目を覚ますと、見ず知らずのおじさんが部屋にいました。しかも、様子もおかしい。

 じっと見ていたが危害を食わてくる様子もなく、緊張がゆるんで一瞬の瞬きをしたら、次の瞬間には、目の前におじさんの顔があった。

 

 一瞬の安堵を突いてくるのは実話怪談のお約束。

 このおじさんが「怪異だった場合」「人間だった場合」について考えて見ましょう。


 まず、このおじさんが本当に怪異だった場合。

 これは作中で語られている通りの展開です、一瞬で、おじさんはマサさんの目の前に来た。以上、終わり。

 次に、おじさんが人間だった場合。マサさんは「一瞬目を閉じた」とありますが、緊張の糸が切れてごく短時間(数10秒とかね)眠ってしまった可能性もあります。その間に近寄ってきて顔をのぞき込んできたと考えれば、おじさんが人間でも問題ありません。

 どちらにしても、おじさんの目的は、謎です。


 マサさんただ者じゃないと思ったのはこの1文。


 「次の朝、目を覚ましたマサさんは飛び出す様に安宿を後にした」


 つまりマサさん、あれだけ怖い目を見ておきながらそこで寝たのか! 

 豪傑です。

 治安が悪いから、外にはなるべく出たくないと思っての行動かもしれませんけども。


 解釈の余地がある怪異、ごちそうさまでした。

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