決め手

著者：ギア　様

　文字通り、まさに決め「手」。

　少ない文字数ながら、ホラー者なら舌なめずりしたくなるような短編です。

　自動販売機のほしいジュース、職員室をノックするタイミング……迷ったり、躊躇してしまうに違いない日常のそこかしこで自分の代わりに行動してくれる、自分にしか見えない「手」。私も優柔不断なたちですので、この「手」がほしいとつい思ってしまいました。

　日常のあれこれのみならず、その「手」の後押しで、気になっていた異性とも付き合い始める主人公。と書くとうらやましい限りですが、徐々にその恋人にも「飽き」を感じ、その「飽き」が「我慢」や「苦痛」へすり替わる頃には考えてしまいます。

　なぜ、「手」は、彼を選んだのだろうと。

　最終局面は「まさか」と「やっぱり」の両方を併せ持つ結末でした。その結末を迎えても、なお穏やかな一人称の、救いのなさよ。

　結局、自分の道行きを決めるのは自分。

　そういうことなのでしょう。

　柔らかでユニセックスな語り口が気持ちいい、恐るべき物語でした。

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