知らない方が良かったこと

知らない方が良かったこと

著者:@otaku 様

作品url(https://kakuyomu.jp/works/1177354054884367792


 高校生の「藤井くん」には幽霊が見えます。

 この作品の幽霊はみな寂しがり屋で(その理由が秀逸!)、気づいたそぶりをすると構ってほしがるため、藤井くんは幽霊が嫌いです。


 にもかかわらず、彼は幽霊に会いに行きます。最近自殺した顔見知り。1年生の時同じクラスだった女子生徒、霧崎さん。

 彼女と藤井くんの話の中で「知らないほうが良かったこと」が明かされていき、彼らの行動で「知らないほうが良かったこと」を知らされてしまう人が出て、良かれと思ってやったことが悲劇へと転がっていきます。


 この作品はいい意味で先が読めます。文体の癖のなさも相まって、するすると入ってきます。

 動きのあるシーンもありますが、全体的に静かで、淡々として、切なさや悲しみが際立ちました。


 さらりと読むと「良作だけど怖くはないな」と感じたのですが、よくよく考えると「あれ?」と思う箇所がありました。

 未練がなくなれば成仏できるだろうということで、霧崎さんは藤井くんを通じて、死のきっかけを作った恋人に「恨んでいないよ」と伝えるのですが、結果は散々。藤井くんにそれを言いふらされるのを恐れたのか、良心の呵責に耐えきれなかったのか、恋人もまた自ら命を絶ってしまいます。

 後日藤井くんが確認しに行くと、霧崎さんの幽霊はもうおらず、成仏したのか、どこかへ行ってしまったのか……。


 素直に考えるなら


①恋人に伝えたいことを伝えたので、未練がなくなり成仏できた

②悲惨な結果になったので成仏できず、藤井くんとも顔を合わせづらくなってしまった


 のどちらかの解釈でよいのかなと思います。

 しかし、ひっかかるところが。

 霧崎さんは恋人に「殺された」と言っています。死亡時の状況説明もされますが、客観的に見ると「事故」です。残された恋人が「殺してしまった」と自分を責めるのはわかりますが、仮に私がその事故で死んだ側だったならば、殺されたとは言わないと思います。

 まさかとは思いますがひょっとして


③本当は恋人に復讐したかったので、彼の死で未練がなくなり成仏できた


 という可能性もあるのではないか、と我ながら性格の悪い解釈もしてみました。

 おお、怖い。

 

 最後に、幽霊嫌いの藤井くんが、なぜ霧崎さんに会いに行ったのかが明かされます。

 藤井君にとって、本当に「知らないほうが良かったこと」は、霧崎さんの死の真相ではなかったのでしょう。

 あとひく余韻とダメ押しの切なさを味わえました。


 ちょっと不思議な青春悲劇として素直に読むもよし、私のように意地悪な解釈をして勝手に怖がるもよし。


 ついつい長くなってしまいました。

 この辺で締めさせていただきます。

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