7-3【ごめんなさい】
☆ランサー
「……えっ」
ランサーは一瞬、何があったかわからなかった。体に走る熱は、脳に異変を伝える。目の前に、顔を真っ青にしているバーグラーを見て、その顔はなんだと聞いてみたかった。
だが、出来なかった。ベチャリと手にへばりつく赤い液体を見て、理解した。そして、膝から崩れ落ちる。
「ば、ぐらー、なん……で……」
「ち、違う。違うっ!だ、だって!ランサーさんだって私を殺そうとした!!だから、だから!!」
「なに、を……」
口を開けるたびに、痛みが広がる。遠くから聞こえるキャスターの笑い声が、ただただうるさかった。
ランサーは、別にバーグラーを殺そうと考えたことはない。しかし、バーグラーはそう思ってしまったのだろう。理由はわからない。
「ランサー、さん、ご、ごめんなさ、い。ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
バーグラーはナイフをそのまま自分の首に押しあてる。それはしてはいけないことだ。ランサーは手を伸ばして止めようとしたが、手は届かない。
「あー!ちょっとお姉ちゃんダメだよそんなこと!みんな止めてっ!」
そんな声が聞こえた瞬間、バーグラーの体に怪物が飛びつく。彼女の手からナイフがこぼれ落ちて、地面を跳ねる。
顔に赤い水玉が張り付く。なんでこんなことをしたと、バーグラーを問い詰めたい。が、そんなことを開くためだけに、口を動かすのは無理だった。
「バーグラー……あんたは、間違ってないよ……間違って……ない……」
ランサーは彼女を責めなかった。責めれる、器じゃなかったから。願いがあると言うバーグラーは、きっと生き残らないといけない存在。私は、違う。願いなんてない。
だから、いいんだ。ここでこのまま深く落ちていっても。死にたくないなんて、そんなありきたりな願いを持ってるだけだ。それだけだ。
手を伸ばす。限界まで、ずっと。この手が届く範囲にきっと、何かがあるから。
後悔はない。だって彼女は間違ってないのだから。
間違ってない
間違って
まち
……
いや、待て。
間違えだらけじゃないか。なんで私がここで死ぬ必要がある?そんなもの、あるわけがない。
死ぬ寸前になり、ランサーは途端に冷静になる。死にたくないという誰もが持っている感情を、爆発しそうになった。
しかし、それは届かない。バーグラーの目にはランサーはどう映る?最後まで自分をかばってくれた恩人に見えるだろう。
けれど、彼女はどこまでも普通で、どこまでも生存を求め、どこにでもいる、ただの人間だった。
◇◇◇◇◇
【メールが届きました】
【ランサーとバーグラーのが戦いました】
【結果、ランサーは死にバーグラーは生き残りました。バーグラーには1ポイント。只今の合計は 1 ポイントです】
【残りの魔法少女は 2 名です。頑張ってください】
◇◇◇◇◇
☆キャスター
「もう抑えなくていいよー」
キャスターはそう言い手を叩く。そして、この戦いの結果を喜んだ。これで、願いを二つ叶えることができるのだと思うと、とても嬉しい。
トテトテと歩きながら、キャスターはバーグラーに近づく。彼女は地面に落ちたナイフを眺めながら、しきりに何か言葉をつぶやいていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
うるさいなぁとキャスターは思う。謝るくらいならしなければいいのに、とも。彼女は落ちてるナイフを見つめるだけで、それ以上何かする気配はなかった。
いや、何もする気力がないのだろう。自殺なんてされたらたまったものじゃないので、ある意味これでいいのだが。
「とりあえずさ、みぃちゃんと同盟組んでよーそしたら丸く収まるからね!」
「収まる……?」
「そうそうっ!願いを叶えるんだー一つはガンナーお姉ちゃんを蘇らせることでもう一つが……」
その瞬間だった。顎が突然痛み、口が動かなくなる。なぜかを理解するよりも早く、全身に痛みが回り始めた。
目の前にバーグラーが立っていた。彼女は小さく笑い続けながら、キャスターを見下ろしている。
何をしてるか聞こうとしたが、口が動かない。慌てて口の周りをペタペタ触ると、何が起きたかを理解する。
「んーーーー!?!?」
ナイフが深々と刺さっていた。口を固定する釘のようになっているそれは、理解した瞬間痛みを加速させる。
「これであなたは怪物に命令できませんね……」
そう、怪物たちを操るにはキャスター自身が命令を口にしないといけない。周りの怪物たちは、じっとこちらを見つめるだけであった。
「ん、んん……んん!!」
キャスターは恐怖で後ずさりする。しかし、ここにはもう逃げ場なんてない。そうしたのは他でもない、キャスターなのだから。
バーグラーはこちらに歩き出す。このまま死ぬのかと、思う事くらい幼い彼女でも分かる事だった。
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